LUCKY STAR
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15.伝えたい気持ち
「宮田くん、昨日はごめん」
帰宅した宮田に、開口一番こう告げると、いつもと同じような冷たい口調が返って来た。
「…別に」
縮まったように見えた距離がまた、いつもの距離に戻っている。
ただ今日は、いつものような嫌味が加わっているのではなく、明らかに、見るからに、宮田の体調が悪そうだ。
「なんだか…大丈夫?」
「ああ、ちょっと練習で…結構打たれたから」
ベッドに背を預けるような形で座り込む宮田。
ヘタリ込む、といったほうが正しいかもしれない。
ぼうっとただ目の前を見つめるだけで、微動だにしない。
人は極限に疲れるとこうなるのだな、と奈々は思った。
音のない空間に二人。
奈々は少しでも音を立ててはいけない気がして、動けなかった。
ただ、呆然と座り込む宮田を、じっと見ている。
「…悪いな」
「え?」
宮田が口を開く。
「つまらないだろ」
「…いや、全然」
「テレビでも見て楽にしてろよ」
「ううん、いいの。宮田くんを見ていたい」
自分でも驚きの、歯の浮くようなセリフ。
宮田は無反応だ。
「だってさ、宮田くん。私はね」
自分語りが始まってしまいそう、っていうか始まった。
「宮田くんがどれほど真剣にボクシングに向き合っているか、知ってるよ」
「…そうか」
「小さい頃から今までずっと、ひたむきに前を向いて、走り続けてる。誰も理解できない孤独な道を、ただ一人で走ってる。どんなに辛くても弱音を吐かずに。全ては、お父さんのボクシングが間違っていないことを証明するために」
宮田の体がピクリと反応する。
「体をいじめ抜いて体得したカウンターに、宮田くんが並々ならぬプライドを持っていることも知ってる。私はそんな宮田くんだからこそ大好きで、尊敬して、憧れてる」
「…うん」
「だから宮田くんがいるだけで、私は幸せ。つまらないなんてことないよ」
「…そう」
消えるような声で宮田がつぶやき、また無言の時間が訪れる。
奈々がしばし天井を見上げて、また宮田の方へ視線を落とすと、宮田はもう夢の彼方にいた。
すぅ、すぅ、と上品な息遣いが聞こえてくる。
「寝ちゃったんだね…」
ベッドに背を預けて、座ったままの姿勢。
毛布をかけてあげるにしては、不安定な格好。
美しい寝顔を覗き見ることもできない。
「今のうちに、お風呂でも入ろうっと…」
奈々は宮田を起こさないように、抜き足で脱衣所へ向かった。
シャワーを浴びながら、ぼうっと曇った鏡を見る。
鏡に映った自分を見て、安心する。
まだ消えていない、私はここにいる。
宮田くんが使っているシャンプーとリンス。
宮田くんの匂いがするシャワー。
奈々は膨らむ邪な妄想を、必死に打ち消そうとしていた。
「宮田くん、昨日はごめん」
帰宅した宮田に、開口一番こう告げると、いつもと同じような冷たい口調が返って来た。
「…別に」
縮まったように見えた距離がまた、いつもの距離に戻っている。
ただ今日は、いつものような嫌味が加わっているのではなく、明らかに、見るからに、宮田の体調が悪そうだ。
「なんだか…大丈夫?」
「ああ、ちょっと練習で…結構打たれたから」
ベッドに背を預けるような形で座り込む宮田。
ヘタリ込む、といったほうが正しいかもしれない。
ぼうっとただ目の前を見つめるだけで、微動だにしない。
人は極限に疲れるとこうなるのだな、と奈々は思った。
音のない空間に二人。
奈々は少しでも音を立ててはいけない気がして、動けなかった。
ただ、呆然と座り込む宮田を、じっと見ている。
「…悪いな」
「え?」
宮田が口を開く。
「つまらないだろ」
「…いや、全然」
「テレビでも見て楽にしてろよ」
「ううん、いいの。宮田くんを見ていたい」
自分でも驚きの、歯の浮くようなセリフ。
宮田は無反応だ。
「だってさ、宮田くん。私はね」
自分語りが始まってしまいそう、っていうか始まった。
「宮田くんがどれほど真剣にボクシングに向き合っているか、知ってるよ」
「…そうか」
「小さい頃から今までずっと、ひたむきに前を向いて、走り続けてる。誰も理解できない孤独な道を、ただ一人で走ってる。どんなに辛くても弱音を吐かずに。全ては、お父さんのボクシングが間違っていないことを証明するために」
宮田の体がピクリと反応する。
「体をいじめ抜いて体得したカウンターに、宮田くんが並々ならぬプライドを持っていることも知ってる。私はそんな宮田くんだからこそ大好きで、尊敬して、憧れてる」
「…うん」
「だから宮田くんがいるだけで、私は幸せ。つまらないなんてことないよ」
「…そう」
消えるような声で宮田がつぶやき、また無言の時間が訪れる。
奈々がしばし天井を見上げて、また宮田の方へ視線を落とすと、宮田はもう夢の彼方にいた。
すぅ、すぅ、と上品な息遣いが聞こえてくる。
「寝ちゃったんだね…」
ベッドに背を預けて、座ったままの姿勢。
毛布をかけてあげるにしては、不安定な格好。
美しい寝顔を覗き見ることもできない。
「今のうちに、お風呂でも入ろうっと…」
奈々は宮田を起こさないように、抜き足で脱衣所へ向かった。
シャワーを浴びながら、ぼうっと曇った鏡を見る。
鏡に映った自分を見て、安心する。
まだ消えていない、私はここにいる。
宮田くんが使っているシャンプーとリンス。
宮田くんの匂いがするシャワー。
奈々は膨らむ邪な妄想を、必死に打ち消そうとしていた。