君の背中
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6.説教
もう、やめたい。
ひんやりした路地を歩く。
冬の風は冷たい。
今日は仕事でミスをした。
集中していれば防げた小さなミスでも、立て続けにしてしまうと言い訳もつかない。
打ち合わせの帰り道。
この道を曲がれば、そのまま自宅に戻れる。
このまま帰りたい。でもやることいっぱい。
会社に戻ったら朝まで帰れないかもしれない。
でも帰らなきゃいけない。
「はぁ」
小さくため息をついた矢先、後ろから声をかけられた。
「高杉さん」
ふっと振り返ると、大きなバッグを肩から下げた宮田が立っていた。
「あ、宮田くん。ひょっとして今から練習?」
「ああ。」
宮田と会話をするのは、先日のデート以来だった。
コンビニで見かけることはあっても、奈々も宮田も仕事中とあって、特別に何か話す時間はなかったのだ。
「最近は調子どう?」
「悪くないかな」
「そう」
当たり障りの無い会話が続く。
「高杉さんは?」
「え?」
「浮かない顔してるぜ」
「そ、そうかな」
冷静を装いつつも、足がだんだん動かなくなってきた。
会社に戻りたくない。
「・・・高杉さん?」
ぴたっと歩みを止めた奈々に気づき、宮田が声をかける。
「宮田くん、ジムどっちの方向だっけ?」
「・・・あっちだけど」
「途中まで、ついてっていい?」
「会社の方向と逆じゃねぇの?」
「戻りたくないの」
下を向いたまま黙ってしまった奈々を見て、宮田はくるりと背を向けた。
「好きにすれば」
*****
冬の太陽はすぐその姿を消してしまい、まだ17時前だというのに辺りは静かに暗くなっていく。
「宮田くん、何にも聞かないんだね」
奈々がボソッとつぶやく。
「何か聞いてほしいことでもあるのかよ」
宮田が意地悪そうに答えると、奈々は黙ってしまった。
ざっざっと、靴のすれる音が響くだけの路地。
突然、その音が聞こえなくなったかと思うと、奈々は宮田の3歩ほど後ろで立ちすくんでいた。
宮田が振り返ると、奈々は下を向いたままつぶやいた。
「私、会社辞めたい」
宮田は微動だにせず、次の言葉を待っているかのように黙っていた。
「もう疲れたよ。毎日毎日遅くまで、頑張ったってほめられるわけでもないし、小さなミスで怒られるし、何のためにやってるのかわかんないよ」
奈々の声は小さく震え、両手をぎゅっと握りしめている。
「同じこと毎日毎日、何度もやって、給料だってちょっとしかもらえなくて、全然楽しくなくて、ロボットみたいに働いて、もう嫌になっちゃった。」
奈々はそこまで言いきり、そのまま押し黙ってしまった。
宮田はしばらくその様子を見ていたが、やがて奈々に背を向け
「嫌なら辞めれば?」
冷たいとも感じられる宮田の言い方に、奈々は正直、裏切られたような気分になり、思わず腹を立てた。
「・・・どうしてそういう突き放した言い方するのよ」
「嫌なら辞めればって言っただけだろ」
「すぐ辞められるならこんなに悩まないわよ」
宮田は奈々に背を向けたまま、少し肩を落として言った。
「甘いんだよ」
予想外の言葉に、奈々は衝動的に顔を上げた。
宮田は後ろを振り返って、奈々の目を見据えながら続けた。
「アンタの言ってることには、自分ってものがないんだよ」
「なっ・・・どういうことよ」
奈々が憤って宮田の目をにらんで言う。
「同じことの繰り返しにも意味はある。誰も褒めてくれなくったって、自分を誇れるときがある。金じゃ買えない価値もある。すべて自分の意志次第でどうにでも転がるんだよ。」
「私が意志薄弱だっていうの?」
「目的を見失ったままフラフラしてるからそう思うんだよ」
宮田の言葉が矢のように突き刺さる。
別に慰めを期待していたわけではない。
ただ、ここまで言われるとは正直思っていなかった。
悔しさがこみ上げてきて、奈々の拳に力が入る。
「なんのためにやってるかわからない仕事なら辞めれば?オレならそうするけど」
「・・・私は宮田くんみたいに強くない」
「強さとかそういう問題じゃないだろ」
「うるさい!もういい!バカ!」
「ばっ・・・」
「会社戻るもん!!アホ宮田!!」
「おっ、おい!」
くるっときびすを返して、会社の方へ向かう。
気を抜くと溢れてしまいそうな涙をぐっと堪えて、空を見上げる。
小さな雪が降っている。
悔しい。
宮田くんの言うことはもっともだ。
もっともだけど、今は聞きたくなかったよ。
私、何を期待してたのかな。
宮田くんがよしよし撫でてくれるとでも思ったのかな?
バカみたい。
悔しい。
悔しいよ。
もう、やめたい。
ひんやりした路地を歩く。
冬の風は冷たい。
今日は仕事でミスをした。
集中していれば防げた小さなミスでも、立て続けにしてしまうと言い訳もつかない。
打ち合わせの帰り道。
この道を曲がれば、そのまま自宅に戻れる。
このまま帰りたい。でもやることいっぱい。
会社に戻ったら朝まで帰れないかもしれない。
でも帰らなきゃいけない。
「はぁ」
小さくため息をついた矢先、後ろから声をかけられた。
「高杉さん」
ふっと振り返ると、大きなバッグを肩から下げた宮田が立っていた。
「あ、宮田くん。ひょっとして今から練習?」
「ああ。」
宮田と会話をするのは、先日のデート以来だった。
コンビニで見かけることはあっても、奈々も宮田も仕事中とあって、特別に何か話す時間はなかったのだ。
「最近は調子どう?」
「悪くないかな」
「そう」
当たり障りの無い会話が続く。
「高杉さんは?」
「え?」
「浮かない顔してるぜ」
「そ、そうかな」
冷静を装いつつも、足がだんだん動かなくなってきた。
会社に戻りたくない。
「・・・高杉さん?」
ぴたっと歩みを止めた奈々に気づき、宮田が声をかける。
「宮田くん、ジムどっちの方向だっけ?」
「・・・あっちだけど」
「途中まで、ついてっていい?」
「会社の方向と逆じゃねぇの?」
「戻りたくないの」
下を向いたまま黙ってしまった奈々を見て、宮田はくるりと背を向けた。
「好きにすれば」
*****
冬の太陽はすぐその姿を消してしまい、まだ17時前だというのに辺りは静かに暗くなっていく。
「宮田くん、何にも聞かないんだね」
奈々がボソッとつぶやく。
「何か聞いてほしいことでもあるのかよ」
宮田が意地悪そうに答えると、奈々は黙ってしまった。
ざっざっと、靴のすれる音が響くだけの路地。
突然、その音が聞こえなくなったかと思うと、奈々は宮田の3歩ほど後ろで立ちすくんでいた。
宮田が振り返ると、奈々は下を向いたままつぶやいた。
「私、会社辞めたい」
宮田は微動だにせず、次の言葉を待っているかのように黙っていた。
「もう疲れたよ。毎日毎日遅くまで、頑張ったってほめられるわけでもないし、小さなミスで怒られるし、何のためにやってるのかわかんないよ」
奈々の声は小さく震え、両手をぎゅっと握りしめている。
「同じこと毎日毎日、何度もやって、給料だってちょっとしかもらえなくて、全然楽しくなくて、ロボットみたいに働いて、もう嫌になっちゃった。」
奈々はそこまで言いきり、そのまま押し黙ってしまった。
宮田はしばらくその様子を見ていたが、やがて奈々に背を向け
「嫌なら辞めれば?」
冷たいとも感じられる宮田の言い方に、奈々は正直、裏切られたような気分になり、思わず腹を立てた。
「・・・どうしてそういう突き放した言い方するのよ」
「嫌なら辞めればって言っただけだろ」
「すぐ辞められるならこんなに悩まないわよ」
宮田は奈々に背を向けたまま、少し肩を落として言った。
「甘いんだよ」
予想外の言葉に、奈々は衝動的に顔を上げた。
宮田は後ろを振り返って、奈々の目を見据えながら続けた。
「アンタの言ってることには、自分ってものがないんだよ」
「なっ・・・どういうことよ」
奈々が憤って宮田の目をにらんで言う。
「同じことの繰り返しにも意味はある。誰も褒めてくれなくったって、自分を誇れるときがある。金じゃ買えない価値もある。すべて自分の意志次第でどうにでも転がるんだよ。」
「私が意志薄弱だっていうの?」
「目的を見失ったままフラフラしてるからそう思うんだよ」
宮田の言葉が矢のように突き刺さる。
別に慰めを期待していたわけではない。
ただ、ここまで言われるとは正直思っていなかった。
悔しさがこみ上げてきて、奈々の拳に力が入る。
「なんのためにやってるかわからない仕事なら辞めれば?オレならそうするけど」
「・・・私は宮田くんみたいに強くない」
「強さとかそういう問題じゃないだろ」
「うるさい!もういい!バカ!」
「ばっ・・・」
「会社戻るもん!!アホ宮田!!」
「おっ、おい!」
くるっときびすを返して、会社の方へ向かう。
気を抜くと溢れてしまいそうな涙をぐっと堪えて、空を見上げる。
小さな雪が降っている。
悔しい。
宮田くんの言うことはもっともだ。
もっともだけど、今は聞きたくなかったよ。
私、何を期待してたのかな。
宮田くんがよしよし撫でてくれるとでも思ったのかな?
バカみたい。
悔しい。
悔しいよ。