君の背中
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4.デート
夕焼けが綺麗な日曜日の午後。
最寄り駅で宮田の到着を待つ奈々の姿があった。
待ち合わせは18時、あと15分ほどある。
さすがに日曜日とあって、駅前は学生と思われる若者達やカップル、家族連れで賑わっている。
少し早く来すぎたかと、何をするでもなくぼうっと遠くを見ていると、長い影が自分の足元を捉えているのに気がついた。
「…どうも」
目の前には、黒いジャケットに身を纏った宮田の姿があった。
初めて見る私服姿に、心の奥がざわっと動いた気がしたが、わき上がる邪念を押さえるべく、隠した指先で身体をつねった。
「今日は来てくれてありがとう。たっぷりお礼するよ!」
「…期待してますよ」
私服のなせる技なのか、宮田の態度もいつもより少し和らいで見えた。
「ご飯をごちそうしようと思っていたんだけど、何か食べたいものある?なんでもたらふく食べていいよ!」
奈々がそういうと、宮田は少し考えて
「オレ少食なんで、落ち着いて食べられるところにしませんか」
宮田が少食とは、奈々は些か意外に感じた。
それが相手にも伝わったのか、ほんの少しの沈黙のあと
「もし店が決まってないなら、オレの知ってる店がこの近くにあるんで、そこでどうですかね」
「…う、うん!」
自分からお礼に誘ったにも関わらず、逆に宮田に気を遣わせているのではないかと奈々は少しとまどいを感じていた。
宮田に「行きますよ」と声を掛けられるまで、自分が立ち往生していることにも気づかなかったくらいに。
*****
煉瓦造りの外観に白く塗られたアンティークな木のドア。
看板にはトリコロールの旗が描かれていて、カジュアルなイタリアンらしい佇まいだ。
ここが先ほど宮田の行った「知っている店」であり、宮田の慣れた様子から、わりと頻繁に訪れているだろう雰囲気を感じた。
目移りするほどのメニューの中からようやく品を決め、注文を終えた。
女性店員が「それでは少々お待ちください」と去ってから、奈々はようやく対面に座る宮田と対峙した。
変態に遭遇したときはそれどころではなかったので何も感じなかったが、改めて見てみると、宮田はなかなかの男前である。
手に少しの緊張が走り、指先が冷たくなり感覚が無くなっていくのが分かった。
緊張を打ち破るように、奈々はまず今日の目的を果たそうと口を開いた。
「あ、あの…本当に、本当に、本当にありがとう!」
奈々は額がテーブルにつきそうなほど深く頭を下げ、宮田に礼を言った。
「そこまで感謝される程のことをした覚えはないんですけどね。」
「ううん、本当にありがとう」
奈々が宮田の目をまっすぐ見てお礼を述べると、宮田は今までに無いくらい、少し気恥ずかしそうにしてそっぽを向いた。
少しの沈黙が流れる。奈々はそれを打ち破るべく、矢継ぎ早に話し始めた。
「私、最初に会ったときにどこかで見かけたことがあるなって思ったの。そしたらあのコンビニの店員さんだったのね。偶然だけど再会できて、本当に嬉しかった。ずっとお礼を言わなきゃって思ってたから…」
宮田は相づちを打つこともなく、ただ黙って話を聞いている。
奈々が話し終わるとすぐに場は沈黙し、店内のBGMがひときわ騒がしく聞こえる。
沈黙に蓋をするように、奈々は自分でもよく分からないほど延々と口を開いた。
「それでね、それで…今日こうやってお礼ができて本当に嬉しいの。まさか電話くれるとか思って無くて、お礼も迷惑かなって思ってて、でもどうしても、ちゃんとありがとうって言いたくて、えっと、えっと…」
ふと宮田を見ると、ほおづえをついた手で口を覆い、少しそっぽを向いている
奈々が話すのをやめると、目線だけ奈々へ向けて、またすぐそっぽを向いた。
「…あの、宮田くん?聞いてた?」
「聞いてますよ、もちろん…」
それから手のひらで少し額を抑え、何か言いたげに一瞬口を開いてやめた。
いつもの無表情でクールな様子とは少し違って見える。
「宮田くん、もしかして…」
「なんですか」
奈々が話しかけると、また宮田は目線だけを奈々に向け、顔は余所を向いた。
「照れてる?」
「…別に」
そういって、完全に目線ごと窓の外へ向けてしまった。
別に、とは言ったものの、宮田の表情は明らかに気恥ずかしさで溢れていた。
奈々はそれをみて、胸の奥が引っ張られるような心地がした。
感じるな、見るな、ごまかせ!
頭の中から指令が飛び交う。
当たり障りのない、自己紹介的な話題に変えようと奈々は口を開いた。
「ところで宮田くんって、年いくつ?」
「ハタチですけど」
「若ッ!」
自分よりは年下かなと思っていたが、20歳にしては雰囲気が老成している。
奈々がやや大げさに驚くと、宮田は少し不機嫌そうに答えた。
「高杉さんはいくつなんですか」
「私は23だけど」
「…そっちもまだまだ“若い”部類でしょ」
宮田は自分が「若い」といわれることがあまり好きではないらしい。
パスタをゆっくりと口に含みながら、少し不服そうな顔をしている。
「んじゃあ若い者同士、敬語は無しにしようよ」
「…じゃあ敬いますよ」
「あっ可愛くな~い!」
奈々が手を止めてむくれると、宮田も手を止めて、軽く溜息をついて答えた。
「…わかったよ」
夕焼けが綺麗な日曜日の午後。
最寄り駅で宮田の到着を待つ奈々の姿があった。
待ち合わせは18時、あと15分ほどある。
さすがに日曜日とあって、駅前は学生と思われる若者達やカップル、家族連れで賑わっている。
少し早く来すぎたかと、何をするでもなくぼうっと遠くを見ていると、長い影が自分の足元を捉えているのに気がついた。
「…どうも」
目の前には、黒いジャケットに身を纏った宮田の姿があった。
初めて見る私服姿に、心の奥がざわっと動いた気がしたが、わき上がる邪念を押さえるべく、隠した指先で身体をつねった。
「今日は来てくれてありがとう。たっぷりお礼するよ!」
「…期待してますよ」
私服のなせる技なのか、宮田の態度もいつもより少し和らいで見えた。
「ご飯をごちそうしようと思っていたんだけど、何か食べたいものある?なんでもたらふく食べていいよ!」
奈々がそういうと、宮田は少し考えて
「オレ少食なんで、落ち着いて食べられるところにしませんか」
宮田が少食とは、奈々は些か意外に感じた。
それが相手にも伝わったのか、ほんの少しの沈黙のあと
「もし店が決まってないなら、オレの知ってる店がこの近くにあるんで、そこでどうですかね」
「…う、うん!」
自分からお礼に誘ったにも関わらず、逆に宮田に気を遣わせているのではないかと奈々は少しとまどいを感じていた。
宮田に「行きますよ」と声を掛けられるまで、自分が立ち往生していることにも気づかなかったくらいに。
*****
煉瓦造りの外観に白く塗られたアンティークな木のドア。
看板にはトリコロールの旗が描かれていて、カジュアルなイタリアンらしい佇まいだ。
ここが先ほど宮田の行った「知っている店」であり、宮田の慣れた様子から、わりと頻繁に訪れているだろう雰囲気を感じた。
目移りするほどのメニューの中からようやく品を決め、注文を終えた。
女性店員が「それでは少々お待ちください」と去ってから、奈々はようやく対面に座る宮田と対峙した。
変態に遭遇したときはそれどころではなかったので何も感じなかったが、改めて見てみると、宮田はなかなかの男前である。
手に少しの緊張が走り、指先が冷たくなり感覚が無くなっていくのが分かった。
緊張を打ち破るように、奈々はまず今日の目的を果たそうと口を開いた。
「あ、あの…本当に、本当に、本当にありがとう!」
奈々は額がテーブルにつきそうなほど深く頭を下げ、宮田に礼を言った。
「そこまで感謝される程のことをした覚えはないんですけどね。」
「ううん、本当にありがとう」
奈々が宮田の目をまっすぐ見てお礼を述べると、宮田は今までに無いくらい、少し気恥ずかしそうにしてそっぽを向いた。
少しの沈黙が流れる。奈々はそれを打ち破るべく、矢継ぎ早に話し始めた。
「私、最初に会ったときにどこかで見かけたことがあるなって思ったの。そしたらあのコンビニの店員さんだったのね。偶然だけど再会できて、本当に嬉しかった。ずっとお礼を言わなきゃって思ってたから…」
宮田は相づちを打つこともなく、ただ黙って話を聞いている。
奈々が話し終わるとすぐに場は沈黙し、店内のBGMがひときわ騒がしく聞こえる。
沈黙に蓋をするように、奈々は自分でもよく分からないほど延々と口を開いた。
「それでね、それで…今日こうやってお礼ができて本当に嬉しいの。まさか電話くれるとか思って無くて、お礼も迷惑かなって思ってて、でもどうしても、ちゃんとありがとうって言いたくて、えっと、えっと…」
ふと宮田を見ると、ほおづえをついた手で口を覆い、少しそっぽを向いている
奈々が話すのをやめると、目線だけ奈々へ向けて、またすぐそっぽを向いた。
「…あの、宮田くん?聞いてた?」
「聞いてますよ、もちろん…」
それから手のひらで少し額を抑え、何か言いたげに一瞬口を開いてやめた。
いつもの無表情でクールな様子とは少し違って見える。
「宮田くん、もしかして…」
「なんですか」
奈々が話しかけると、また宮田は目線だけを奈々に向け、顔は余所を向いた。
「照れてる?」
「…別に」
そういって、完全に目線ごと窓の外へ向けてしまった。
別に、とは言ったものの、宮田の表情は明らかに気恥ずかしさで溢れていた。
奈々はそれをみて、胸の奥が引っ張られるような心地がした。
感じるな、見るな、ごまかせ!
頭の中から指令が飛び交う。
当たり障りのない、自己紹介的な話題に変えようと奈々は口を開いた。
「ところで宮田くんって、年いくつ?」
「ハタチですけど」
「若ッ!」
自分よりは年下かなと思っていたが、20歳にしては雰囲気が老成している。
奈々がやや大げさに驚くと、宮田は少し不機嫌そうに答えた。
「高杉さんはいくつなんですか」
「私は23だけど」
「…そっちもまだまだ“若い”部類でしょ」
宮田は自分が「若い」といわれることがあまり好きではないらしい。
パスタをゆっくりと口に含みながら、少し不服そうな顔をしている。
「んじゃあ若い者同士、敬語は無しにしようよ」
「…じゃあ敬いますよ」
「あっ可愛くな~い!」
奈々が手を止めてむくれると、宮田も手を止めて、軽く溜息をついて答えた。
「…わかったよ」