君の背中
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3.動揺
本日のお仕事は22時終了。
ああ、いつもよりずっと早いやと、奈々はすっかり狂った時間感覚をひっさげて夜道を歩いた。
商店街はまだ人通りも多く、自宅までの道のりもそれほど危険ではない。
周りを見てみると、自分と同じように仕事を終えて帰宅するサラリーマンの姿がある。
仕事で疲れているのは自分だけじゃないんだ、と仲間を見つけたような気分になった。
自宅付近で突然携帯が鳴った。
嫌な予感がして、一瞬出るのを躊躇った。
ひょっとしたら「トラブル発生。大至急、会社に戻れ」という用件かもしれない…。
おそるおそる画面を見てみると、見知らぬ番号からの着信だった。
誰だろう?
「もしもし?」
「…」
電話の主からの返事はない。
間違い電話か、もしくはイタズラ電話かと、先日の変態の一件を思い出し一瞬肝が冷えたが、クライアントからの電話かもしれないと、ひとまず電話を切るのはやめて、再度問いかけてみることにした。
「あのー…」
「…宮田です」
声を聞いて、しばらくは何が起こったか分からなかった。
勢い余って名刺を渡したはいいけれど、まさか本当に電話をかけてくれるとは思っていなかったからだ。
「み、宮田くん?」
「これ、オレの番号なんで…」
「電話かけてくれたんだ!嬉しい、ありがとう!」
「いや…それじゃ…」
他人行儀に電話を切ろうとする宮田に、奈々は反射的に声を荒げた。
「あ、待って!!」
「…はい」
「今度の日曜日は空いてる?」
奈々は自分がちょっとおかしいんじゃないかと思った。
今まで、こんな風に誰かを誘ったことは殆どない。
自分は決して社交的な人間でも、積極的な人間でもないのに。
勝手に口から言葉が飛び出てくるようだった。
「…夕方からなら」
「じゃあ、夕方空けておいて!お礼がしたいから」
自分は何を口走っているんだろうか、と思いながら奈々は自分を止められなかった。
よく考えれば、ただ単に変態から危機を救っただけの他人にここまでお礼のことを強く迫られて、戸惑わないはずがない。
対する宮田の沈黙が、とても長く感じた。
きっと面食らっているに違いない。
奈々がやっと少し我に返り、「でも無理しないで」と言おうとしたそのときだった。
「わかりました」
電話の向こうの宮田の様子はわからないが、嫌がっている感じではなさそうだ。
奈々は言いしれぬ嬉しさを感じて、思わず拳を握ってしまうほどだった。
「ありがとう。じゃあ、また!」
通話を終えて、足早にエレベーターに駆け込む。
なんだか胸がドキドキする。奈々は自分が興奮しているのに気づいた。
そして、浮かび来る邪念を振り払うように頭を強く振った。
「違う!別にそういうやましい気持ちはない!お礼なんだから!」
呪文のように唱えつつも、不思議なほどに興奮する胸の高鳴りは押さえきれなかった。
きっと仕事で疲れてるんだ
しばらく男とも縁遠い生活をしていたし
心とは無関係に身体がドキドキするだけだ
純粋にお礼をしたいのに変な邪念なんか持ちたくない…
そう言い聞かせて、携帯をぎゅっと握りしめた。
本日のお仕事は22時終了。
ああ、いつもよりずっと早いやと、奈々はすっかり狂った時間感覚をひっさげて夜道を歩いた。
商店街はまだ人通りも多く、自宅までの道のりもそれほど危険ではない。
周りを見てみると、自分と同じように仕事を終えて帰宅するサラリーマンの姿がある。
仕事で疲れているのは自分だけじゃないんだ、と仲間を見つけたような気分になった。
自宅付近で突然携帯が鳴った。
嫌な予感がして、一瞬出るのを躊躇った。
ひょっとしたら「トラブル発生。大至急、会社に戻れ」という用件かもしれない…。
おそるおそる画面を見てみると、見知らぬ番号からの着信だった。
誰だろう?
「もしもし?」
「…」
電話の主からの返事はない。
間違い電話か、もしくはイタズラ電話かと、先日の変態の一件を思い出し一瞬肝が冷えたが、クライアントからの電話かもしれないと、ひとまず電話を切るのはやめて、再度問いかけてみることにした。
「あのー…」
「…宮田です」
声を聞いて、しばらくは何が起こったか分からなかった。
勢い余って名刺を渡したはいいけれど、まさか本当に電話をかけてくれるとは思っていなかったからだ。
「み、宮田くん?」
「これ、オレの番号なんで…」
「電話かけてくれたんだ!嬉しい、ありがとう!」
「いや…それじゃ…」
他人行儀に電話を切ろうとする宮田に、奈々は反射的に声を荒げた。
「あ、待って!!」
「…はい」
「今度の日曜日は空いてる?」
奈々は自分がちょっとおかしいんじゃないかと思った。
今まで、こんな風に誰かを誘ったことは殆どない。
自分は決して社交的な人間でも、積極的な人間でもないのに。
勝手に口から言葉が飛び出てくるようだった。
「…夕方からなら」
「じゃあ、夕方空けておいて!お礼がしたいから」
自分は何を口走っているんだろうか、と思いながら奈々は自分を止められなかった。
よく考えれば、ただ単に変態から危機を救っただけの他人にここまでお礼のことを強く迫られて、戸惑わないはずがない。
対する宮田の沈黙が、とても長く感じた。
きっと面食らっているに違いない。
奈々がやっと少し我に返り、「でも無理しないで」と言おうとしたそのときだった。
「わかりました」
電話の向こうの宮田の様子はわからないが、嫌がっている感じではなさそうだ。
奈々は言いしれぬ嬉しさを感じて、思わず拳を握ってしまうほどだった。
「ありがとう。じゃあ、また!」
通話を終えて、足早にエレベーターに駆け込む。
なんだか胸がドキドキする。奈々は自分が興奮しているのに気づいた。
そして、浮かび来る邪念を振り払うように頭を強く振った。
「違う!別にそういうやましい気持ちはない!お礼なんだから!」
呪文のように唱えつつも、不思議なほどに興奮する胸の高鳴りは押さえきれなかった。
きっと仕事で疲れてるんだ
しばらく男とも縁遠い生活をしていたし
心とは無関係に身体がドキドキするだけだ
純粋にお礼をしたいのに変な邪念なんか持ちたくない…
そう言い聞かせて、携帯をぎゅっと握りしめた。