君の背中
お名前設定はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
20.君の背中
「オレが好きなのはアンタだ」
奈々は、何が起きたのか分からなかった。
自分はついさっきまで、失恋したと思っていたのだ。
宮田が突然発した言葉は、自分の混乱した心を一瞬にして通り過ぎてしまった。
「・・・オレの背中、追っかけてるって言ってたよな」
宮田の声が、耳元に静かに響く。
奈々は自分が今、宮田の胸の中に居ると言うことを少しずつ把握してきた。
「だったらもう、逃げるなよ」
宮田は抱きしめる腕を緩めて、奈々の表情を確かめるように身体を離した。
真剣な表情で自分を見つめる宮田に、応えるように顔を上げる。
大きな目が自分を捉えているのが分かる。
気持ちが洪水のように、胸から溢れてきそうだ。
宮田が放った言葉を受けて、奈々もそれに応えなければと、心を落ち着かせる。
何を話せばいいんだろう、何から話せばいいんだろう。
そう考えている最中、ふと、おかしな事に気づいた。
「・・・私、言ったっけ?」
「ん?」
「・その・・背中・・・追いかけてるって・・・」
奈々のまっすぐな瞳を受けて宮田は珍しく赤面し、目線を外すようにそっぽを向いた。
「覚えてねぇのかよ」
「だ、だって・・・」
「この酔っぱらい」
宮田の言葉に、奈々はあの日・・・宮田と食事をして酔っぱらってしまった日、酔いに任せて口走ってしまったのだろうと気づいた。
「・・・私、他に何か言ってた?」
「・・・・・別に」
「嘘!なにその間!?」
しがみつくように奈々が問うと、宮田は手のひらを額に当てて顔を隠すようにし、観念したように、小さな声でボソッと呟いた。
「・・・・オレの背中が好きだって」
聞いた瞬間に、みるみる体温が上がっていくのが分かった。
そんなことを言ったなんて、全く覚えていない。
一番大切なことを、寄りにもよって、酒の勢いで。
宮田は、石像のように固まった奈々を再び抱きしめて言った。
「背中だけか?」
優しい声に、身体が溶けていくような気がした。
両腕を背中に回して、ぐっと掴むと、宮田もそれに答えるように、力を込めた。
「・・・全部」
二人の身体が、混ざり合って溶けていくように重なる。
暖かい胸の中、逞しい腕、大きな鼓動。
涙が溢れて止まらない。
あれからずっと、目標にしてた。
悔しくて、もっと強くなりたくて。
胸を張って会いたくて、頑張って。
そして君の言っていることが分かって、嬉しくて。
同じ目線で話が出来れば、なんて思ってた。
でも止められなかった。
君の不器用な優しさや、見ている景色の凄さに
目を逸らす事なんて、誰だろうと出来ない。
「全く・・・」
宮田が深い溜息をついた。
「試合でもこんなに緊張したことはないぜ」
奈々の耳元に、ドクンドクンと早い鼓動が響く。
自分の胸も、同じように高鳴っているのが分かる。
「宮田くんでも緊張するんだ」
「なんだよそれ」
「ちょっと意外だな」
奈々が笑って見上げると、宮田は少し照れたように目をそらし
「責任取れよ」
そういって、奈々に唇を重ねた。
******
遠くから猛スピードで走ってくる影。
それが目の前を横切った瞬間に、ストップウォッチを止める。
「2分57秒」
息を切らした汗だくの宮田が、再びスタートラインまで駆け足で戻っていく。
その後ろ姿を奈々は、目を細めて眺めていた。
戦い続ける凛々しい背中。
何があっても、弱音一つ吐かなくて
どんなことがあっても、立ち上がってきて
何千何万と叩き続けた拳を、全ての力に変えて
他人に夢を与えることのできる背中。
今も、私の目標であることには変わりない。
でもね。
素早い影が再び目の前を通り過ぎる。
「2分55秒!」
「・・・・はぁ・・・さっきよりマシ・・か・・・」
先ほどから何度も何度も走ってはタイムを計り、息を整えるヒマも無いままに練習に励んでいる宮田。
再びフラフラとスタートラインに戻っていく。
数メートルほど離れたところで、奈々が後ろから走って追いかけ、そのまま勢いよく抱きついた。
「・・・なんだよ」
宮田の呆れたような言い方に、奈々は笑って答えた。
「捕まえた」
宮田はかすかに笑みを浮かべ、奈々の頭をポンと叩いた後、再びスタートラインまで駆けていった。
END
「オレが好きなのはアンタだ」
奈々は、何が起きたのか分からなかった。
自分はついさっきまで、失恋したと思っていたのだ。
宮田が突然発した言葉は、自分の混乱した心を一瞬にして通り過ぎてしまった。
「・・・オレの背中、追っかけてるって言ってたよな」
宮田の声が、耳元に静かに響く。
奈々は自分が今、宮田の胸の中に居ると言うことを少しずつ把握してきた。
「だったらもう、逃げるなよ」
宮田は抱きしめる腕を緩めて、奈々の表情を確かめるように身体を離した。
真剣な表情で自分を見つめる宮田に、応えるように顔を上げる。
大きな目が自分を捉えているのが分かる。
気持ちが洪水のように、胸から溢れてきそうだ。
宮田が放った言葉を受けて、奈々もそれに応えなければと、心を落ち着かせる。
何を話せばいいんだろう、何から話せばいいんだろう。
そう考えている最中、ふと、おかしな事に気づいた。
「・・・私、言ったっけ?」
「ん?」
「・その・・背中・・・追いかけてるって・・・」
奈々のまっすぐな瞳を受けて宮田は珍しく赤面し、目線を外すようにそっぽを向いた。
「覚えてねぇのかよ」
「だ、だって・・・」
「この酔っぱらい」
宮田の言葉に、奈々はあの日・・・宮田と食事をして酔っぱらってしまった日、酔いに任せて口走ってしまったのだろうと気づいた。
「・・・私、他に何か言ってた?」
「・・・・・別に」
「嘘!なにその間!?」
しがみつくように奈々が問うと、宮田は手のひらを額に当てて顔を隠すようにし、観念したように、小さな声でボソッと呟いた。
「・・・・オレの背中が好きだって」
聞いた瞬間に、みるみる体温が上がっていくのが分かった。
そんなことを言ったなんて、全く覚えていない。
一番大切なことを、寄りにもよって、酒の勢いで。
宮田は、石像のように固まった奈々を再び抱きしめて言った。
「背中だけか?」
優しい声に、身体が溶けていくような気がした。
両腕を背中に回して、ぐっと掴むと、宮田もそれに答えるように、力を込めた。
「・・・全部」
二人の身体が、混ざり合って溶けていくように重なる。
暖かい胸の中、逞しい腕、大きな鼓動。
涙が溢れて止まらない。
あれからずっと、目標にしてた。
悔しくて、もっと強くなりたくて。
胸を張って会いたくて、頑張って。
そして君の言っていることが分かって、嬉しくて。
同じ目線で話が出来れば、なんて思ってた。
でも止められなかった。
君の不器用な優しさや、見ている景色の凄さに
目を逸らす事なんて、誰だろうと出来ない。
「全く・・・」
宮田が深い溜息をついた。
「試合でもこんなに緊張したことはないぜ」
奈々の耳元に、ドクンドクンと早い鼓動が響く。
自分の胸も、同じように高鳴っているのが分かる。
「宮田くんでも緊張するんだ」
「なんだよそれ」
「ちょっと意外だな」
奈々が笑って見上げると、宮田は少し照れたように目をそらし
「責任取れよ」
そういって、奈々に唇を重ねた。
******
遠くから猛スピードで走ってくる影。
それが目の前を横切った瞬間に、ストップウォッチを止める。
「2分57秒」
息を切らした汗だくの宮田が、再びスタートラインまで駆け足で戻っていく。
その後ろ姿を奈々は、目を細めて眺めていた。
戦い続ける凛々しい背中。
何があっても、弱音一つ吐かなくて
どんなことがあっても、立ち上がってきて
何千何万と叩き続けた拳を、全ての力に変えて
他人に夢を与えることのできる背中。
今も、私の目標であることには変わりない。
でもね。
素早い影が再び目の前を通り過ぎる。
「2分55秒!」
「・・・・はぁ・・・さっきよりマシ・・か・・・」
先ほどから何度も何度も走ってはタイムを計り、息を整えるヒマも無いままに練習に励んでいる宮田。
再びフラフラとスタートラインに戻っていく。
数メートルほど離れたところで、奈々が後ろから走って追いかけ、そのまま勢いよく抱きついた。
「・・・なんだよ」
宮田の呆れたような言い方に、奈々は笑って答えた。
「捕まえた」
宮田はかすかに笑みを浮かべ、奈々の頭をポンと叩いた後、再びスタートラインまで駆けていった。
END