君の背中
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19.目撃
とりあえず、着の身着のまま寝たということは理解した。
どこでどうやって宮田と別れたのかが定かではない。
おぼろげに、プレゼントを渡した記憶はある。
それから何をしたっけ・・・?
微かに腕に残る、暖かいぬくもり。
あれは夢だったのだろうか?
*****
会社までの道のり。4月も終わりかけとなり、あたりはすっかり陽気に包まれている。
『昨日はごちそうさま。楽しかったよ!ちょっと酔っぱらいすぎたけど』
とりあえず宮田にメールを打つ。
宮田はこの時間は既に、バイトに入っているはず。
返事がくるのはまだまだ先だろうとパタンと携帯を閉じると、意外にもすぐに返事が来た。
『酔っぱらいすぎだ』
相変わらず素っ気ないメールには変わりない。
それにしても、自分が何か大失態でも犯したのだろうかと心配になって来た。
すぐさま返事を打つ。
『そんなに?私、なんか変なことした?』
そのメールの返事は、待てど暮らせどこなかった。
それがますます奈々の不安を募らせていったのは言うまでもない。
返事を書けないほどの泥酔状態だったのだろうか?と奈々は少し落ち込んだが、そうも言っていられない。
というのも、また今日も朝から激務が待っているからだ。
昨日の様子を確かめるために、宮田のコンビニまでわざわざ出向いている暇はなかった。
入院してからというものの、さすがに以前のような殺人的なスケジュールを組まされることはなくなったが、それでもやはり、人手不足の業界ともあって、特にGW前は最終調整に追われてしまう。
何度も嫌気がさしたし、何度も投げ出したくなった。
それでも、戦う宮田の背中を思い出して、奮起する。
「最期の最期まで諦めない生きた拳こそが、奇跡を生むのだ!ってね」
「何言ってんだ?高杉」
奈々の独り言に、上司が呆れた声をかぶせた。
気恥ずかしさのあまり肩をすくめ、「なんでもないです」と小声で反論する。
宮田くんが頑張っているんだから、負けるわけにはいかない。
私も頑張る。頑張って、頑張って、命懸けて、そうして・・・
いつかは、肩を並べて歩きたい。
なーんて邪な考えを持っては行けない、と思いつつ、奈々は上機嫌だった。
******
ゴールデンウィークに突入し、すべてのイベントが順調に進んでいた。
奈々がメインで担当したのは、ショッピングモールの広場で行われる特別ショー。
子供たちがワイワイと騒ぎ、ヒーローショーに夢中になっている。
その子供たちを目を細めて眺める親たちや、おじいちゃん、おばあちゃん。
みんながこのイベントを楽しんでくれているのが伝わり、奈々は胸を撫で下ろした。
「高杉、休憩していいぞ」
上司の言葉に甘えて、奈々は持ち場を離れた。昼の時間はとっくにすぎている。
どこのお店もランチは終了していて、仕方がないのでチェーン店らしき喫茶店でコーヒーとパンでも取ろうと思い、店の前まで来たときだった。
「宮田・・・くん?」
窓越しに見えたのは、まぎれも無く宮田だった。
そして目を、宮田の対面に座っている人物に移したときのこと。
大きな槍で体を串刺しにされたような痛みが走った。
宮田の目の前に居たのは、ロングヘアの美しい女性。
話をしている感じを見ると、初対面というワケではなさそうだ。
あの宮田が少しリラックスしているようにも見えた。
奈々はとっさに体の向きを変え、宮田に気づかれる前にその場を駆け出した。
別の店に入ろうにも、さっきまで空いていた腹が一気に食欲を無くしてしまい、入る気になれない。
こんな時に休憩など出来ないと思った奈々は、すぐに持ち場に戻り、上司に「やっぱりイベント気になるんで、ここにいます」と言い、十分に休みを取れという上司の言葉を無視するように、居残り続けた。
宮田くん、そっか。
彼女が居たんだ。
そうだよね。
宮田くんにお似合いの、綺麗な人だったもん。
私なんかより、大人っぽくて。
いいんだ、宮田くんは私の目標だから。
それには、変わりないから。
そう唱えつつも、心はいっこうに定まらない。
たまらずにトイレに駆け込み、溢れ出る涙を抑えながら、息を整えた。
*****
「どうもありがとう、いい取材になったわ」
「いえ」
「今後の活躍も期待してるわよ」
「ありがとうございます」
飯村はそういうと、伝票をひらりと取ってレジへと向かった。
宮田は会計をしている最中の飯村に一礼して、先に店を出る。
ボクシングの取材、というのはどうも慣れない。
てっきりジムでやるのかと思いきや、もっと具体的な話がしたいからとわざわざこんな場所を指定され・・・
やれ家庭環境だとか、やれ自前のボクシング理論だとかを根掘り葉掘り問われ、ずいぶんと突っ込んだ取材をするもんだ、と宮田は気疲れしていた。
店を出て、特にショッピングをする趣味も無い宮田は、この建物自体からさっさと出ようとした。
モールを歩いていると、なにやら賑やかな声が聞こえてくる。何かのイベントをやっているようだ。
そういえば奈々はイベント会社だったな、と思い、その賑やかな方へ足を伸ばしてみた。
自分にとってはくだらないとすら思う子供だましのヒーローショーであったが、それを見ている子供たちや保護者たちが皆笑顔に溢れているのを見て、宮田は奈々の見ている景色の一部を感じ、ふっと喜びに似た気持ちを味わった。
ふとステージ袖を見ると、見知った顔があった。
腕を組んで、何やらスケジュールらしきものをチェックしている奈々。
宮田がしばらく奈々の様子を見ていると、奈々がふと顔をあげ、宮田に気づいた。
奈々のことだから軽く手くらい振ってくるもんだと思っていたのだが、宮田の予想とは全く逆に、奈々は突然、逃げ出すように袖を飛び出してしまった。
「・・・お、おい!」
自分のことに気づいたはずなのに無視するかのように逃げてしまった奈々を、宮田は考えるよりも早く追いかけていた。
いつもと様子が違うのは明らかだ。
自分が相手に何かをした記憶はない。
けれども、あの様子はどうも自分に原因がありそうだ。
しかし、大きなショッピングモールである。
人ごみに紛れて、奈々の姿はすぐに分からなくなってしまった。
自分もそろそろジムに戻らなければならない。
奈々が戻ってくるまで、ステージ袖を凝視しているような時間はなかった。
「なんだってんだよ、一体・・・・」
突然態度を変えた奈々の様子に、宮田はただただ困惑するしかなかった。
とりあえず、着の身着のまま寝たということは理解した。
どこでどうやって宮田と別れたのかが定かではない。
おぼろげに、プレゼントを渡した記憶はある。
それから何をしたっけ・・・?
微かに腕に残る、暖かいぬくもり。
あれは夢だったのだろうか?
*****
会社までの道のり。4月も終わりかけとなり、あたりはすっかり陽気に包まれている。
『昨日はごちそうさま。楽しかったよ!ちょっと酔っぱらいすぎたけど』
とりあえず宮田にメールを打つ。
宮田はこの時間は既に、バイトに入っているはず。
返事がくるのはまだまだ先だろうとパタンと携帯を閉じると、意外にもすぐに返事が来た。
『酔っぱらいすぎだ』
相変わらず素っ気ないメールには変わりない。
それにしても、自分が何か大失態でも犯したのだろうかと心配になって来た。
すぐさま返事を打つ。
『そんなに?私、なんか変なことした?』
そのメールの返事は、待てど暮らせどこなかった。
それがますます奈々の不安を募らせていったのは言うまでもない。
返事を書けないほどの泥酔状態だったのだろうか?と奈々は少し落ち込んだが、そうも言っていられない。
というのも、また今日も朝から激務が待っているからだ。
昨日の様子を確かめるために、宮田のコンビニまでわざわざ出向いている暇はなかった。
入院してからというものの、さすがに以前のような殺人的なスケジュールを組まされることはなくなったが、それでもやはり、人手不足の業界ともあって、特にGW前は最終調整に追われてしまう。
何度も嫌気がさしたし、何度も投げ出したくなった。
それでも、戦う宮田の背中を思い出して、奮起する。
「最期の最期まで諦めない生きた拳こそが、奇跡を生むのだ!ってね」
「何言ってんだ?高杉」
奈々の独り言に、上司が呆れた声をかぶせた。
気恥ずかしさのあまり肩をすくめ、「なんでもないです」と小声で反論する。
宮田くんが頑張っているんだから、負けるわけにはいかない。
私も頑張る。頑張って、頑張って、命懸けて、そうして・・・
いつかは、肩を並べて歩きたい。
なーんて邪な考えを持っては行けない、と思いつつ、奈々は上機嫌だった。
******
ゴールデンウィークに突入し、すべてのイベントが順調に進んでいた。
奈々がメインで担当したのは、ショッピングモールの広場で行われる特別ショー。
子供たちがワイワイと騒ぎ、ヒーローショーに夢中になっている。
その子供たちを目を細めて眺める親たちや、おじいちゃん、おばあちゃん。
みんながこのイベントを楽しんでくれているのが伝わり、奈々は胸を撫で下ろした。
「高杉、休憩していいぞ」
上司の言葉に甘えて、奈々は持ち場を離れた。昼の時間はとっくにすぎている。
どこのお店もランチは終了していて、仕方がないのでチェーン店らしき喫茶店でコーヒーとパンでも取ろうと思い、店の前まで来たときだった。
「宮田・・・くん?」
窓越しに見えたのは、まぎれも無く宮田だった。
そして目を、宮田の対面に座っている人物に移したときのこと。
大きな槍で体を串刺しにされたような痛みが走った。
宮田の目の前に居たのは、ロングヘアの美しい女性。
話をしている感じを見ると、初対面というワケではなさそうだ。
あの宮田が少しリラックスしているようにも見えた。
奈々はとっさに体の向きを変え、宮田に気づかれる前にその場を駆け出した。
別の店に入ろうにも、さっきまで空いていた腹が一気に食欲を無くしてしまい、入る気になれない。
こんな時に休憩など出来ないと思った奈々は、すぐに持ち場に戻り、上司に「やっぱりイベント気になるんで、ここにいます」と言い、十分に休みを取れという上司の言葉を無視するように、居残り続けた。
宮田くん、そっか。
彼女が居たんだ。
そうだよね。
宮田くんにお似合いの、綺麗な人だったもん。
私なんかより、大人っぽくて。
いいんだ、宮田くんは私の目標だから。
それには、変わりないから。
そう唱えつつも、心はいっこうに定まらない。
たまらずにトイレに駆け込み、溢れ出る涙を抑えながら、息を整えた。
*****
「どうもありがとう、いい取材になったわ」
「いえ」
「今後の活躍も期待してるわよ」
「ありがとうございます」
飯村はそういうと、伝票をひらりと取ってレジへと向かった。
宮田は会計をしている最中の飯村に一礼して、先に店を出る。
ボクシングの取材、というのはどうも慣れない。
てっきりジムでやるのかと思いきや、もっと具体的な話がしたいからとわざわざこんな場所を指定され・・・
やれ家庭環境だとか、やれ自前のボクシング理論だとかを根掘り葉掘り問われ、ずいぶんと突っ込んだ取材をするもんだ、と宮田は気疲れしていた。
店を出て、特にショッピングをする趣味も無い宮田は、この建物自体からさっさと出ようとした。
モールを歩いていると、なにやら賑やかな声が聞こえてくる。何かのイベントをやっているようだ。
そういえば奈々はイベント会社だったな、と思い、その賑やかな方へ足を伸ばしてみた。
自分にとってはくだらないとすら思う子供だましのヒーローショーであったが、それを見ている子供たちや保護者たちが皆笑顔に溢れているのを見て、宮田は奈々の見ている景色の一部を感じ、ふっと喜びに似た気持ちを味わった。
ふとステージ袖を見ると、見知った顔があった。
腕を組んで、何やらスケジュールらしきものをチェックしている奈々。
宮田がしばらく奈々の様子を見ていると、奈々がふと顔をあげ、宮田に気づいた。
奈々のことだから軽く手くらい振ってくるもんだと思っていたのだが、宮田の予想とは全く逆に、奈々は突然、逃げ出すように袖を飛び出してしまった。
「・・・お、おい!」
自分のことに気づいたはずなのに無視するかのように逃げてしまった奈々を、宮田は考えるよりも早く追いかけていた。
いつもと様子が違うのは明らかだ。
自分が相手に何かをした記憶はない。
けれども、あの様子はどうも自分に原因がありそうだ。
しかし、大きなショッピングモールである。
人ごみに紛れて、奈々の姿はすぐに分からなくなってしまった。
自分もそろそろジムに戻らなければならない。
奈々が戻ってくるまで、ステージ袖を凝視しているような時間はなかった。
「なんだってんだよ、一体・・・・」
突然態度を変えた奈々の様子に、宮田はただただ困惑するしかなかった。