君の背中
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2.再会
もう辞めたい、頑張る理由もわからない。
眠いし、怠いし、こんなことをしていったい何になるっていうの?
毎日午前様が続き、いよいよ頭もぼうっとしてきた。
冬のくせに照りつける太陽が、商店街のガラス窓に反射してやけにキラキラする。
眩しい、鬱陶しい、と思いながら、やがて訪れる夜の過酷な作業を思い出さないように顔を上げた。
ランニング中の学生らしき人物が、道路を挟んで向かい側から駆けてくるのを目にし、奈々はふとこないだの青年を思い出した。
あれからきちんとお礼も言えず、何処の誰かも分からないし、もう二度と会うこともないのかなぁ。
打ち合わせから戻る途中、甘い物でも買って頭をすっきりさせようと、奈々は会社のすぐ近くにあるコンビニエンスストアに立ち寄った。
普段はさほど利用しない店だ。
というのも、奈々の会社には東玄関と西玄関があり、奈々は出退勤には東玄関を利用するため、西玄関側にあるこの店は近場にありながら縁遠い存在だったのだ。
「いらっしゃいませ」
店内に響く簡素な挨拶が、疲れた身体にはちょうど良かった。
レジには誰も居ず、声はドリンクなどが並ぶ店の奥から遠く発せられたものらしい。
まず菓子のコーナーで好物のチョコレートを選ぶ。
それから徹夜用のガムを選び、最後に眠気さましのコーヒーを手に取ろうと奥へ移動すると、先ほどの声の主らしい店員を見かけた。
あれ?
どこかで見かけたことのある背中。
ゆっくりと振り返る店員の顔をよく見ると、そこにはつい最近“お世話になった”彼がいた。
「あ!」
思わず声をあげてしまったが、彼の方は全く動じている様子がない。
人違いかと一瞬躊躇ったが、思い切って声を掛けてみることにした。
「あの、ひょっとして先日変態から助けてくれた方じゃないですか?」
彼は何も答えず、ふいっと顔を背けてしまった。
それから何事も無かったように、商品の陳列を整え始めた。
人違いではない。以前に感じた既視感の原因はこれだ。
そっか、彼ここの店員だったんだ、道理で見たことがあったはずだ、と奈々は確信し、さらに続けた。
「その節は本当にありがとう!名前も何もわからなくて、お礼のしようもないなって思ってたの」
「…どうも」
顔だけ少しこちらを振り返るようにしつつも、相変わらず無表情のまま彼は答えた。
「本当に本当にありがとう!」
「礼を言われるほどのものじゃないですよ。」
「ううん、死ぬかと思ったんだから!助けてくれて嬉しかった」
ようやく彼は手を止め、身体全体をこちらに向けて話し始めた。ふと名札を見ると「宮田」と書いてある。
これが好青年の名前か、と奈々は頭に刻み込んだ。
「最近はちゃんとタクシーで帰ってますか」
「うん、もうあんな怖い目にあうのはこりごりだし、また宮田くんに迷惑かけちゃうといけないからね!」
自分の名前を呼ばれて、宮田は一瞬戸惑った様子を見せたが、その後小さな笑みを浮かべて、またくるりと背を向けた。
以前、親切に家まで送ってくれた彼とは打って変わって、親しみを感じさせない彼の簡素な態度に戸惑いつつも、奈々は感謝の気持ちを隠さずには居られなかった。
「あの…もしよければお礼させてくれないかな?」
奈々が背中越しに話しかけると、宮田は作業をする手を止めることなく
「気にしないでください。助けたってほどのものでもないし」
「でも、私にとってはすごく助けられたの。このままありがとうでは済まされない恩を感じてて、だから…」
そこまで話している最中に、奈々の携帯電話が鳴った。
番号を見ると、先ほど打ち合わせを終えてきた会社からだった。
慌ててカバンを探り、すぐ手前にあった名刺入れから1枚の名刺を取り出し、宮田に渡した。
「これ、私の連絡先!あとで番号教えて!お礼するから!よろしく!あ、もしもし、高杉ですけど!あ、はい、はい、ええ…」
肩で携帯を固定しつつ、手に持った品物をレジへ持って行く。
レジには別の店員が居て、手際よく会計を済ませてくれた。
電話の用件は、先ほど渡した見積もりの内容についての再確認だった。
急いで会社に戻り、追加の資料を作成して送らなければならない。
頭の中は仕事ですぐにいっぱいになり、宮田に一瞥することも忘れて店を後にした。
宮田は手に名刺を持ったまま、突然去っていった奈々の後ろ姿をぼうっと眺めていた。
頭の中は仕事で一杯といった感じで、嵐のように去っていった奈々を見ながらかすかに笑った。
「あの人、前と変わってねぇな」
もう辞めたい、頑張る理由もわからない。
眠いし、怠いし、こんなことをしていったい何になるっていうの?
毎日午前様が続き、いよいよ頭もぼうっとしてきた。
冬のくせに照りつける太陽が、商店街のガラス窓に反射してやけにキラキラする。
眩しい、鬱陶しい、と思いながら、やがて訪れる夜の過酷な作業を思い出さないように顔を上げた。
ランニング中の学生らしき人物が、道路を挟んで向かい側から駆けてくるのを目にし、奈々はふとこないだの青年を思い出した。
あれからきちんとお礼も言えず、何処の誰かも分からないし、もう二度と会うこともないのかなぁ。
打ち合わせから戻る途中、甘い物でも買って頭をすっきりさせようと、奈々は会社のすぐ近くにあるコンビニエンスストアに立ち寄った。
普段はさほど利用しない店だ。
というのも、奈々の会社には東玄関と西玄関があり、奈々は出退勤には東玄関を利用するため、西玄関側にあるこの店は近場にありながら縁遠い存在だったのだ。
「いらっしゃいませ」
店内に響く簡素な挨拶が、疲れた身体にはちょうど良かった。
レジには誰も居ず、声はドリンクなどが並ぶ店の奥から遠く発せられたものらしい。
まず菓子のコーナーで好物のチョコレートを選ぶ。
それから徹夜用のガムを選び、最後に眠気さましのコーヒーを手に取ろうと奥へ移動すると、先ほどの声の主らしい店員を見かけた。
あれ?
どこかで見かけたことのある背中。
ゆっくりと振り返る店員の顔をよく見ると、そこにはつい最近“お世話になった”彼がいた。
「あ!」
思わず声をあげてしまったが、彼の方は全く動じている様子がない。
人違いかと一瞬躊躇ったが、思い切って声を掛けてみることにした。
「あの、ひょっとして先日変態から助けてくれた方じゃないですか?」
彼は何も答えず、ふいっと顔を背けてしまった。
それから何事も無かったように、商品の陳列を整え始めた。
人違いではない。以前に感じた既視感の原因はこれだ。
そっか、彼ここの店員だったんだ、道理で見たことがあったはずだ、と奈々は確信し、さらに続けた。
「その節は本当にありがとう!名前も何もわからなくて、お礼のしようもないなって思ってたの」
「…どうも」
顔だけ少しこちらを振り返るようにしつつも、相変わらず無表情のまま彼は答えた。
「本当に本当にありがとう!」
「礼を言われるほどのものじゃないですよ。」
「ううん、死ぬかと思ったんだから!助けてくれて嬉しかった」
ようやく彼は手を止め、身体全体をこちらに向けて話し始めた。ふと名札を見ると「宮田」と書いてある。
これが好青年の名前か、と奈々は頭に刻み込んだ。
「最近はちゃんとタクシーで帰ってますか」
「うん、もうあんな怖い目にあうのはこりごりだし、また宮田くんに迷惑かけちゃうといけないからね!」
自分の名前を呼ばれて、宮田は一瞬戸惑った様子を見せたが、その後小さな笑みを浮かべて、またくるりと背を向けた。
以前、親切に家まで送ってくれた彼とは打って変わって、親しみを感じさせない彼の簡素な態度に戸惑いつつも、奈々は感謝の気持ちを隠さずには居られなかった。
「あの…もしよければお礼させてくれないかな?」
奈々が背中越しに話しかけると、宮田は作業をする手を止めることなく
「気にしないでください。助けたってほどのものでもないし」
「でも、私にとってはすごく助けられたの。このままありがとうでは済まされない恩を感じてて、だから…」
そこまで話している最中に、奈々の携帯電話が鳴った。
番号を見ると、先ほど打ち合わせを終えてきた会社からだった。
慌ててカバンを探り、すぐ手前にあった名刺入れから1枚の名刺を取り出し、宮田に渡した。
「これ、私の連絡先!あとで番号教えて!お礼するから!よろしく!あ、もしもし、高杉ですけど!あ、はい、はい、ええ…」
肩で携帯を固定しつつ、手に持った品物をレジへ持って行く。
レジには別の店員が居て、手際よく会計を済ませてくれた。
電話の用件は、先ほど渡した見積もりの内容についての再確認だった。
急いで会社に戻り、追加の資料を作成して送らなければならない。
頭の中は仕事ですぐにいっぱいになり、宮田に一瞥することも忘れて店を後にした。
宮田は手に名刺を持ったまま、突然去っていった奈々の後ろ姿をぼうっと眺めていた。
頭の中は仕事で一杯といった感じで、嵐のように去っていった奈々を見ながらかすかに笑った。
「あの人、前と変わってねぇな」