君の背中
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16.本心
『この間の試合、本当におめでとう。感動したよ。』
たったこれだけのメッセージなのに、奈々は送信ボタンを押す手が震えた。
電話をしようか、とも悩んだけれど、宮田が今どういう状態にいるのか分からない。
いつでも見られるメールの方がよいだろうと思ったものの、何から書いていいのか分からない。
散々迷ったあげくの、酷く簡単な内容。
それからしばらくして、携帯のメール着信音が鳴った。
『ありがとう。かなり打たれたから、しばらく寝てた』
てっきり簡素な返事が返ってくるもんだと思っていたのに、宮田から送られて来たメールが思いのほか長文だったことに、奈々は驚いた。
いつもは用件主体のメールが多いせいもあって「OK」「わかった」など5文字以下の返事ばかりだからだ。
奈々は返信画面を開いて、何を書こうかと散々迷った。
お祝いがしたい、ということを伝えたいけれど、メールではまどろっこしいし、かといっていきなり電話するのも気が引ける。
とりあえず様子を探るような一文を送信。
『今、家にいるの?』
すると5分もしないうちに、奈々の電話が鳴った。
着信画面に表示される「宮田くん」の文字に、奈々の胸が高鳴る。
心の準備など何も出来ていないのに、電話の音は鳴り止まない。
半ば混乱した状態で、電話に出た。
「も、もしもし」
「・・・オレだけど」
宮田はいつものような低い調子で口を開き、それから少し黙ってしまった。
「あ、あの・・・どうしたの?」
宮田が電話をかけてくること自体が珍しく、奈々はますます心が落ち着かない。
「いや・・・メール打つのが面倒だから」
相変わらずそっけない口調で宮田が答える。
奈々は、宮田がチマチマとメールを打っているところを想像して、確かに似合わないなと少し笑った。それがきっかけで少し緊張がほぐれ、
「本当におめでとう」
「どうも」
「感動したよ」
「さっき聞いたぜ」
「可愛くないわね・・・・」
相変わらずの宮田節だな、と自然と笑みがこぼれた。
「あのね・・・・」
「うん?」
"チャンピオンになったお祝いがしたい"
その一言を伝えたいのに、どうしても喉元に引っかかって、言葉が出てこない。
前は簡単に「お礼がしたい!」なんて言うことができたのに。
奈々は自分が不思議で仕方なかった。
こんな簡単なことを、どうして言えなくなってしまったんだろう。
「あの・・・疲れは、とれた?」
全然関係ないことを聞いてしまう。電話では互いに顔が見えないから良い。
もし面と向かっていたら、宮田に自分の赤面っぷりがバレてしまうからだ。
「昨日の今日だしな、まだ頭がクラクラする。顔も腫れてる」
「そっか。すごい試合だったもんね」
「なんにせよ、打たれすぎたんだけどよ」
世間話が続く。
言いたいことは何一つ言えてない。
宮田の性格上、ダラダラと話を続けるとは思えない。
奈々はいつ「それじゃまた」と切り出されるかと、ドキドキしていた。
「ところでよ」
宮田が突然、話題を変えるように切り出した。
「チケット代払いに来たんだってな」
「えっ・・・っていうか、宮田くん、その時いたよね?」
「知らねぇよ」
宮田は本当に何も覚えていないようだ。
奈々がそのときの状況を話すと、宮田は自分が何も覚えていないことに恥ずかしさを感じたのか、押し黙ってしまった。
「まぁともかく・・・ありがとな」
「ううん。それ以上のもの、見せてもらったから」
奈々がそういうと、宮田は再び黙り込んでしまった。
向かい合っての話ならそれほど長く感じない沈黙も、電話越しだとやけに長く感じる。
この沈黙が会話の終わりを意味しているのではないかと、奈々はますます焦った。
早く、言わなければ。誘わなければ。
そう思えば思うほど、言葉は喉元に突っかかって出てこなくなる。
「今度の日曜日」
宮田が突然、想いもよらぬ言葉を口にした。
奈々の心臓が再び重たく、ゆっくりと脈を打った。
「空いてるか?」
突然のことで、何を言われたのか分からなかった。
言葉は奈々の耳から耳へ抜けていってしまったかのように、現実感が無い。
「・・・あ、空いてます」
緊張しすぎたせいか、何故か敬語で答えてしまった。
返事を聞いて宮田が少し笑った。
「18時に迎えにいくから」
「あ、はい」
「じゃあな」
「う、うん。じゃあ」
電話は何の余韻も無く切れた。
何が起きたのか、全然分からない。
携帯を閉じると、パタンという音がやけに部屋に響いた。
そして、それ以外の音はなにもしない。
とりあえず奈々は、"お祝いさせて"の一言も言えなかった自分を殴りたくなった。
同時に、宮田のよくわからない、色気も何も無い謎のお誘いに戸惑いを隠せない。
それどころか、宮田が自分を誘ったことすらも、信じられない。
一体、なぜ?
「ああ、宮田の好きな子かぁ」
先日言われたことを思い出す。そして、ぶんぶんと強く頭を振る。
そんな虫のいい話、あるわけがない。
相手は女の子にキャーキャー言われてるイケメンの超人気ボクサー。
さらには先日チャンピオンになったばかりと、自分とはほど遠い存在にすら思えてきたのだ。
それなのに、たかが知り合い程度の自分に・・・変な期待なんてしたくない。
それでも、頭から離れない。
どうして、ドキドキしてるんだろう。
どうして、「お礼がしたい」程度のことが言えなかったんだろう。
どうして、彼のことを考えると、頭が混乱するんだろう。
どうして、彼と話しただけで、こんなに浮き足立っちゃうんだろう。
そこまで考えて、奈々は自分の心の奥底に潜む本心に気づいた。
「・・・・あー、もう。」
すべての視界を塞ぐように、顔を枕に埋めた。
『この間の試合、本当におめでとう。感動したよ。』
たったこれだけのメッセージなのに、奈々は送信ボタンを押す手が震えた。
電話をしようか、とも悩んだけれど、宮田が今どういう状態にいるのか分からない。
いつでも見られるメールの方がよいだろうと思ったものの、何から書いていいのか分からない。
散々迷ったあげくの、酷く簡単な内容。
それからしばらくして、携帯のメール着信音が鳴った。
『ありがとう。かなり打たれたから、しばらく寝てた』
てっきり簡素な返事が返ってくるもんだと思っていたのに、宮田から送られて来たメールが思いのほか長文だったことに、奈々は驚いた。
いつもは用件主体のメールが多いせいもあって「OK」「わかった」など5文字以下の返事ばかりだからだ。
奈々は返信画面を開いて、何を書こうかと散々迷った。
お祝いがしたい、ということを伝えたいけれど、メールではまどろっこしいし、かといっていきなり電話するのも気が引ける。
とりあえず様子を探るような一文を送信。
『今、家にいるの?』
すると5分もしないうちに、奈々の電話が鳴った。
着信画面に表示される「宮田くん」の文字に、奈々の胸が高鳴る。
心の準備など何も出来ていないのに、電話の音は鳴り止まない。
半ば混乱した状態で、電話に出た。
「も、もしもし」
「・・・オレだけど」
宮田はいつものような低い調子で口を開き、それから少し黙ってしまった。
「あ、あの・・・どうしたの?」
宮田が電話をかけてくること自体が珍しく、奈々はますます心が落ち着かない。
「いや・・・メール打つのが面倒だから」
相変わらずそっけない口調で宮田が答える。
奈々は、宮田がチマチマとメールを打っているところを想像して、確かに似合わないなと少し笑った。それがきっかけで少し緊張がほぐれ、
「本当におめでとう」
「どうも」
「感動したよ」
「さっき聞いたぜ」
「可愛くないわね・・・・」
相変わらずの宮田節だな、と自然と笑みがこぼれた。
「あのね・・・・」
「うん?」
"チャンピオンになったお祝いがしたい"
その一言を伝えたいのに、どうしても喉元に引っかかって、言葉が出てこない。
前は簡単に「お礼がしたい!」なんて言うことができたのに。
奈々は自分が不思議で仕方なかった。
こんな簡単なことを、どうして言えなくなってしまったんだろう。
「あの・・・疲れは、とれた?」
全然関係ないことを聞いてしまう。電話では互いに顔が見えないから良い。
もし面と向かっていたら、宮田に自分の赤面っぷりがバレてしまうからだ。
「昨日の今日だしな、まだ頭がクラクラする。顔も腫れてる」
「そっか。すごい試合だったもんね」
「なんにせよ、打たれすぎたんだけどよ」
世間話が続く。
言いたいことは何一つ言えてない。
宮田の性格上、ダラダラと話を続けるとは思えない。
奈々はいつ「それじゃまた」と切り出されるかと、ドキドキしていた。
「ところでよ」
宮田が突然、話題を変えるように切り出した。
「チケット代払いに来たんだってな」
「えっ・・・っていうか、宮田くん、その時いたよね?」
「知らねぇよ」
宮田は本当に何も覚えていないようだ。
奈々がそのときの状況を話すと、宮田は自分が何も覚えていないことに恥ずかしさを感じたのか、押し黙ってしまった。
「まぁともかく・・・ありがとな」
「ううん。それ以上のもの、見せてもらったから」
奈々がそういうと、宮田は再び黙り込んでしまった。
向かい合っての話ならそれほど長く感じない沈黙も、電話越しだとやけに長く感じる。
この沈黙が会話の終わりを意味しているのではないかと、奈々はますます焦った。
早く、言わなければ。誘わなければ。
そう思えば思うほど、言葉は喉元に突っかかって出てこなくなる。
「今度の日曜日」
宮田が突然、想いもよらぬ言葉を口にした。
奈々の心臓が再び重たく、ゆっくりと脈を打った。
「空いてるか?」
突然のことで、何を言われたのか分からなかった。
言葉は奈々の耳から耳へ抜けていってしまったかのように、現実感が無い。
「・・・あ、空いてます」
緊張しすぎたせいか、何故か敬語で答えてしまった。
返事を聞いて宮田が少し笑った。
「18時に迎えにいくから」
「あ、はい」
「じゃあな」
「う、うん。じゃあ」
電話は何の余韻も無く切れた。
何が起きたのか、全然分からない。
携帯を閉じると、パタンという音がやけに部屋に響いた。
そして、それ以外の音はなにもしない。
とりあえず奈々は、"お祝いさせて"の一言も言えなかった自分を殴りたくなった。
同時に、宮田のよくわからない、色気も何も無い謎のお誘いに戸惑いを隠せない。
それどころか、宮田が自分を誘ったことすらも、信じられない。
一体、なぜ?
「ああ、宮田の好きな子かぁ」
先日言われたことを思い出す。そして、ぶんぶんと強く頭を振る。
そんな虫のいい話、あるわけがない。
相手は女の子にキャーキャー言われてるイケメンの超人気ボクサー。
さらには先日チャンピオンになったばかりと、自分とはほど遠い存在にすら思えてきたのだ。
それなのに、たかが知り合い程度の自分に・・・変な期待なんてしたくない。
それでも、頭から離れない。
どうして、ドキドキしてるんだろう。
どうして、「お礼がしたい」程度のことが言えなかったんだろう。
どうして、彼のことを考えると、頭が混乱するんだろう。
どうして、彼と話しただけで、こんなに浮き足立っちゃうんだろう。
そこまで考えて、奈々は自分の心の奥底に潜む本心に気づいた。
「・・・・あー、もう。」
すべての視界を塞ぐように、顔を枕に埋めた。