君の背中
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15.与える人
奈々にとって、人生2度目の後楽園ホール。
宮田がガウンをまといコーナーから出てくると、会場からは割れんばかりの声援が起きた。
会場内は満席で、女性からの黄色い声援も多い。期待されている人気の選手なのだな、と奈々は初めて実感した。
宮田の試合は初めて見る。
あまりのスピードと圧倒的な内容に、1R目はただただ目を奪われた。
試合前はあれほどフラフラだったにも関わらず、別人のような動きを見せている。
会場の誰もが、ベルトは易々と手に入りそうだと思った試合。
しかし、2R目。
宮田の顔が鮮血に染まると、奈々は息をするのも忘れてただリングに釘付けになった。
倒れても立ち上がり、ボロボロの体を引きずってでも、攻撃をやめない。
自分ならとっくに諦めてしまうだろう。
でも宮田は、普通ならとっくに心が折れてもおかしくないような状態で、立ち上がってくる。
どうして、そこまでできるんだろう。
何が、彼をそこまで支えているんだろう。
最後の最後で、宮田の拳が相手を打ち抜いた。
10カウントがやけに長く感じる。
アーニーがガックリとうなだれたところで、試合は終わった。
奈々は、自分でもわけが分からないほどに、大粒の涙をこぼしていた。
大勢の人から、雨のような拍手。
その中を、胸を張って歩いてくる宮田くん。
宮田くんの見てる景色の一部が、皆の景色の一部になって...
彼の人生が、誰かの人生の大切な思い出や、勇気や、力になって...
一生のうちで、誰かにこんな感動を与えられることってあるだろうか?
なんて凄い生き方なんだろう。
*****
「あれ?高杉ちゃん?」
ホールからの帰り道に誰かに呼び止められ、ふと振り返ると木村と数人の男が立っていた。
「あ、木村さん」
「宮田の試合、見に来てたんだ?」
「ええ・・・」
すると突然リーゼントの大男が、木村と奈々の間に割り込むようにして、
「なんだぁ?木村の知り合いかあ?」
大男が嫌らしそうな笑みを浮かべて木村を覗き込んでいる。木村は慌てて
「違いますよ。ほら、例の宮田の!」
「・・・あー、キサマ、宮田の例の彼女か」
「か、か、彼女?」
キョトンとする奈々を他所に、残った男たちも「宮田くんの彼女!?」「ああ、あの宮田の女かぁ」とざわめき始めた。
「わ、私、彼女じゃないですよ!ただの知り合いで・・・」
「ああ、そっか。彼女じゃなくて、宮田の好きな子か」
ミ、ミヤタノスキナコ・・・?
聞き慣れない単語に奈々が呆然とすると、木村が再度慌てて、場のバランスを取るように
「好きかどうかは知らねぇけど、ほら、ちょっといい感じの子がいるって、そういう話で・・・って聞いてます?鷹村さん!!」
「アイツといい感じなんて滅多にねぇよ!イコール惚れてるってことじゃねぇか!ガハハハ!おい、アイツ呼んで来いよここに!」
「試合直後に来るわけないでしょうが!っていうか声デカいんだよアンタは!!」
目の前で繰り広げられるやりとりに、奈々は正直付いて行けなかった。
自分と宮田との話が尾ひれがついてとんでもないことになっている、というのは微かに理解したものの、この場をどうおさめていいのかサッパリ検討も付かない。
「おう、彼女。宮田は今夜は少しくらい頑張ったからな。お祝いのキスのひとつくらいしてやれよ!」
「だから、まだそんな間柄まで行ってないんスよ!」
木村が小声で解釈したものの、鷹村には全く届いていないらしい。
ガハハハと豪快な笑い声を上げて、「ほら、こんな風によぉ!」と言いながら、パンチパーマの男にキスを仕掛けている。「ぎゃああ」と叫びながら逃げ惑うパンチパーマと、それを追う鷹村と、なだめて追いかける気の弱そうな男性。
奈々は変な集団だとは思っても、まさか全員がボクサーであるなどとは夢にも思っていなかった。
宮田戦の衝撃を引きずっていたのもあって、なんだか頭がぼーっとしている。
そんな奈々の様子を、自分たちの悪ふざけで機嫌を悪くしたものだと勘違いした木村が慌ててフォローする。
「・・・わ、悪ぃな、高杉ちゃん」
「いいえ。木村さんが変な噂を流しているってことだけはわかりましたんで」
奈々が冷たく言うと木村はバツが悪そうに縮こまったので、思わず吹き出してしまった。
「とにかく、今日の宮田はすごかったな」
木村が笑顔で言う。奈々も笑顔で大きく頷くと、木村は耳打ちをするように
「お祝いしてやったら、アイツきっと喜ぶよん」
と茶化して、先に歩みを進めていた鷹村たちに追いつこうと、早足で去って行った。
奈々は自分でも赤面したのが分かるほど、体が一気に熱くなった。
宮田の好きな子、宮田の彼女、そんなのは別に大げさな噂だとは分かっていても・・・そういうのを聞くにつれ、自分の感情が分からなくなる。
最初はカッコいいなと思ってドキドキして。
次に、好き放題言われて、悔しくて。
それから、肩を並べて話したいって、目標にして。
そして、追いついたと思ったら、全然まだまだ遠くて。
むしろ手の届かない存在のように感じてしまったほど。
自分にとって、彼ってなんなんだろう。
病室で倒れたときに支えてくれた、力強い腕。
その後の、長い沈黙と一瞥。
それを思い出すと、胸の鼓動が止まらなくなる。
「お祝いかぁ」
ふっと空を見上げて、奈々は小さなため息をついた。
奈々にとって、人生2度目の後楽園ホール。
宮田がガウンをまといコーナーから出てくると、会場からは割れんばかりの声援が起きた。
会場内は満席で、女性からの黄色い声援も多い。期待されている人気の選手なのだな、と奈々は初めて実感した。
宮田の試合は初めて見る。
あまりのスピードと圧倒的な内容に、1R目はただただ目を奪われた。
試合前はあれほどフラフラだったにも関わらず、別人のような動きを見せている。
会場の誰もが、ベルトは易々と手に入りそうだと思った試合。
しかし、2R目。
宮田の顔が鮮血に染まると、奈々は息をするのも忘れてただリングに釘付けになった。
倒れても立ち上がり、ボロボロの体を引きずってでも、攻撃をやめない。
自分ならとっくに諦めてしまうだろう。
でも宮田は、普通ならとっくに心が折れてもおかしくないような状態で、立ち上がってくる。
どうして、そこまでできるんだろう。
何が、彼をそこまで支えているんだろう。
最後の最後で、宮田の拳が相手を打ち抜いた。
10カウントがやけに長く感じる。
アーニーがガックリとうなだれたところで、試合は終わった。
奈々は、自分でもわけが分からないほどに、大粒の涙をこぼしていた。
大勢の人から、雨のような拍手。
その中を、胸を張って歩いてくる宮田くん。
宮田くんの見てる景色の一部が、皆の景色の一部になって...
彼の人生が、誰かの人生の大切な思い出や、勇気や、力になって...
一生のうちで、誰かにこんな感動を与えられることってあるだろうか?
なんて凄い生き方なんだろう。
*****
「あれ?高杉ちゃん?」
ホールからの帰り道に誰かに呼び止められ、ふと振り返ると木村と数人の男が立っていた。
「あ、木村さん」
「宮田の試合、見に来てたんだ?」
「ええ・・・」
すると突然リーゼントの大男が、木村と奈々の間に割り込むようにして、
「なんだぁ?木村の知り合いかあ?」
大男が嫌らしそうな笑みを浮かべて木村を覗き込んでいる。木村は慌てて
「違いますよ。ほら、例の宮田の!」
「・・・あー、キサマ、宮田の例の彼女か」
「か、か、彼女?」
キョトンとする奈々を他所に、残った男たちも「宮田くんの彼女!?」「ああ、あの宮田の女かぁ」とざわめき始めた。
「わ、私、彼女じゃないですよ!ただの知り合いで・・・」
「ああ、そっか。彼女じゃなくて、宮田の好きな子か」
ミ、ミヤタノスキナコ・・・?
聞き慣れない単語に奈々が呆然とすると、木村が再度慌てて、場のバランスを取るように
「好きかどうかは知らねぇけど、ほら、ちょっといい感じの子がいるって、そういう話で・・・って聞いてます?鷹村さん!!」
「アイツといい感じなんて滅多にねぇよ!イコール惚れてるってことじゃねぇか!ガハハハ!おい、アイツ呼んで来いよここに!」
「試合直後に来るわけないでしょうが!っていうか声デカいんだよアンタは!!」
目の前で繰り広げられるやりとりに、奈々は正直付いて行けなかった。
自分と宮田との話が尾ひれがついてとんでもないことになっている、というのは微かに理解したものの、この場をどうおさめていいのかサッパリ検討も付かない。
「おう、彼女。宮田は今夜は少しくらい頑張ったからな。お祝いのキスのひとつくらいしてやれよ!」
「だから、まだそんな間柄まで行ってないんスよ!」
木村が小声で解釈したものの、鷹村には全く届いていないらしい。
ガハハハと豪快な笑い声を上げて、「ほら、こんな風によぉ!」と言いながら、パンチパーマの男にキスを仕掛けている。「ぎゃああ」と叫びながら逃げ惑うパンチパーマと、それを追う鷹村と、なだめて追いかける気の弱そうな男性。
奈々は変な集団だとは思っても、まさか全員がボクサーであるなどとは夢にも思っていなかった。
宮田戦の衝撃を引きずっていたのもあって、なんだか頭がぼーっとしている。
そんな奈々の様子を、自分たちの悪ふざけで機嫌を悪くしたものだと勘違いした木村が慌ててフォローする。
「・・・わ、悪ぃな、高杉ちゃん」
「いいえ。木村さんが変な噂を流しているってことだけはわかりましたんで」
奈々が冷たく言うと木村はバツが悪そうに縮こまったので、思わず吹き出してしまった。
「とにかく、今日の宮田はすごかったな」
木村が笑顔で言う。奈々も笑顔で大きく頷くと、木村は耳打ちをするように
「お祝いしてやったら、アイツきっと喜ぶよん」
と茶化して、先に歩みを進めていた鷹村たちに追いつこうと、早足で去って行った。
奈々は自分でも赤面したのが分かるほど、体が一気に熱くなった。
宮田の好きな子、宮田の彼女、そんなのは別に大げさな噂だとは分かっていても・・・そういうのを聞くにつれ、自分の感情が分からなくなる。
最初はカッコいいなと思ってドキドキして。
次に、好き放題言われて、悔しくて。
それから、肩を並べて話したいって、目標にして。
そして、追いついたと思ったら、全然まだまだ遠くて。
むしろ手の届かない存在のように感じてしまったほど。
自分にとって、彼ってなんなんだろう。
病室で倒れたときに支えてくれた、力強い腕。
その後の、長い沈黙と一瞥。
それを思い出すと、胸の鼓動が止まらなくなる。
「お祝いかぁ」
ふっと空を見上げて、奈々は小さなため息をついた。