君の背中
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12.接近
「あの朝に出会う前から、オレはアンタを知ってたんだ」
宮田の言葉に、奈々は以前の記憶を辿ろうとしたけれど、どうも思い出せなかった。
「ど、どこで・・・?」
「店で、さ」
宮田は顔色ひとつ変えずに答えた。
「いつだったかは忘れたけど、アンタがうちの店に来て、買い物してて。途中で電話が鳴って、アンタ慌てて電話に出て、会計して・・・」
それから宮田は、少し笑みを浮かべて続けた。
「買ったモン全部忘れて、出てっちまったんだよな」
「・・・えっ!?」
奈々はもう一度記憶を呼び起こそうとしたけれど、全く思い出せない。
「オレ、そのあと追いかけて品物渡して」
「そ、そうなんだ・・・」
「覚えてねぇんだな」
「全然」
「アンタらしいよ」
そういって、宮田はまた笑った。
「アンタのとこの会社の人」
「うん?」
「みんな、覇気がないっつーか、いつも愚痴ばっか言ってて」
気がつくと、宮田の顔からは笑みが消えている。
宮田はチラリと奈々の表情を確認してから続けた。
「でもアンタは・・・疲れてそうな時もあったけど、いつも一生懸命に見えた。だから覚えてた」
『覚えてた』
宮田の一言が、奈々の心をギュッと締め付けた。
宮田くんが、私を覚えてた。
あの日、出会う前から、私を知っていてくれてた。
そんなこと、夢にも思ったこと無かった。
「この間・・・悪かったな」
宮田がボソリとつぶやいた。
「え?な、何が?」
「アンタがあんなこと言うから、つい」
宮田の言葉が、例の“叱咤”のことをさしているのは奈々にも理解できた。
まさか謝られるとは思ってもいなかった奈々は、ベッドサイドにいる宮田に近づくように乗り出して否定した。
「あ、謝る理由なんてないよ!私、感謝してるんだし・・」
奈々の迫力に、宮田は少し気圧された感じで言葉を失った。
そして少し考えてから、
「同じになってほしくなかったんだ」
「え?」
「アンタのところの、会社の人とさ」
宮田の言わんとしていることが、奈々には今ひとつ理解できなかった。
しかし宮田は、たった今自分が発した言葉に自分で驚いたのか、照れをかき消すように言葉を続けた。
「まぁ、ゆっくり休めよ」
「う、うん」
「じゃ、オレはこれで」
宮田がすっと椅子から腰を上げた。
奈々はあまりにも突然の申し出に、やや驚いて身を乗り出し答えた。
「送っていくよ」
「いいよ」
「大丈夫、送らせて」
「いいから寝てろって」
そんな押し問答が続き、奈々が無理矢理に立ち上がった瞬間だった。
まだ体力の回復しきっていない体は、言うことを聞いてくれないらしい。
ふっと目の回るような感覚が奈々を支配し、足がもつれてしまった。
「お、おい!」
とっさに宮田が奈々を支える。
奈々は、宮田の胸の中に飛び込むような形になった。
「ったく・・・大人しく寝てろよ」
「・・・だって・・・せっかく来てくれたのに」
まだ頭が少しクラクラするのもあって、奈々はしっかりと宮田をつかんでいる。
宮田はそのまま奈々を支えながら、小さくため息をついて
「疲れを抜くのも大事な仕事だぜ」
「・・・ハイ」
「大人しく寝てろ」
「・・・ハイ」
奈々はようやく平衡感覚を取り戻し、少しずつ宮田から体を離した。
体を離す途中でふっと見上げると、宮田の顔が思いがけなく近い距離にあったので、驚きのあまり体が硬直してしまった。
その奈々の体の反応が、宮田にも伝わったらしい。
宮田の体も緊張したのが、つかんだ腕を通して奈々に伝わった。
そのまま、二人は見つめ合った状態で固まっている。
宮田は無言で奈々を見つめたままだ。
奈々は時計の秒針の音が、いっそう大きくなった気がした。
宮田の澄んだ瞳に、自分が映っているのがわかる。
吸い込まれそうな、奇麗な瞳。
秒針と呼応するような、大きな心臓の音。
「あ、あの・・・・」
奈々が何かを言いかけて、口を開いたときだった。
「よっ!高杉さん!見舞いにきたぜ!」
「奈々ちゃん、大丈夫かい?」
ドアの方向から突然の呼びかけ。
ハッと見てみると、そこには木村園芸の店長とその息子・・・・
つまり木村親子が立っていた。
「あ」
木村は奈々と宮田の様子を見るなり、慌ててドアの影に隠れた。
そして「いやぁ~」と病室に入り込もうとする父親の襟首を捕まえて、そのまま二人同時に隠れてしまったのだった。
物陰に隠れて姿は見えないものの、何やら親子で小競り合いをしているようすが伝わってくる。
宮田は奈々から体を離し、小さくため息をついて言った。
「・・・じゃ、オレはこれで」
「あ、うん」
奈々の頭をポンと軽く叩いて、宮田はその場を去った。
宮田がドアの影に隠れた木村を無視するように通り過ぎると、その後ろ姿をボーゼンと眺めているだけだった木村は、ハッと我に返って宮田を追った。
「ちょ、ちょっと待て宮田ぁ!親父ィ、先に入っててくれ!」
花束を抱えた木村園芸の店長が病室に入ってきた。
息子はあとから来ます、と小声で済まなそうに説明する。
奈々は見舞いの応対をしながら、どこか上の空で、あの二人を心配していた。
そういえば・・・・あの二人って、友達だったのよね。
・・・・ちょっとマズいところ見られたのかな?
早足で木村を無視し続ける宮田の心中は、奈々には計り知れなかった。
「だから待てっての!宮田ぁ!」
「あの朝に出会う前から、オレはアンタを知ってたんだ」
宮田の言葉に、奈々は以前の記憶を辿ろうとしたけれど、どうも思い出せなかった。
「ど、どこで・・・?」
「店で、さ」
宮田は顔色ひとつ変えずに答えた。
「いつだったかは忘れたけど、アンタがうちの店に来て、買い物してて。途中で電話が鳴って、アンタ慌てて電話に出て、会計して・・・」
それから宮田は、少し笑みを浮かべて続けた。
「買ったモン全部忘れて、出てっちまったんだよな」
「・・・えっ!?」
奈々はもう一度記憶を呼び起こそうとしたけれど、全く思い出せない。
「オレ、そのあと追いかけて品物渡して」
「そ、そうなんだ・・・」
「覚えてねぇんだな」
「全然」
「アンタらしいよ」
そういって、宮田はまた笑った。
「アンタのとこの会社の人」
「うん?」
「みんな、覇気がないっつーか、いつも愚痴ばっか言ってて」
気がつくと、宮田の顔からは笑みが消えている。
宮田はチラリと奈々の表情を確認してから続けた。
「でもアンタは・・・疲れてそうな時もあったけど、いつも一生懸命に見えた。だから覚えてた」
『覚えてた』
宮田の一言が、奈々の心をギュッと締め付けた。
宮田くんが、私を覚えてた。
あの日、出会う前から、私を知っていてくれてた。
そんなこと、夢にも思ったこと無かった。
「この間・・・悪かったな」
宮田がボソリとつぶやいた。
「え?な、何が?」
「アンタがあんなこと言うから、つい」
宮田の言葉が、例の“叱咤”のことをさしているのは奈々にも理解できた。
まさか謝られるとは思ってもいなかった奈々は、ベッドサイドにいる宮田に近づくように乗り出して否定した。
「あ、謝る理由なんてないよ!私、感謝してるんだし・・」
奈々の迫力に、宮田は少し気圧された感じで言葉を失った。
そして少し考えてから、
「同じになってほしくなかったんだ」
「え?」
「アンタのところの、会社の人とさ」
宮田の言わんとしていることが、奈々には今ひとつ理解できなかった。
しかし宮田は、たった今自分が発した言葉に自分で驚いたのか、照れをかき消すように言葉を続けた。
「まぁ、ゆっくり休めよ」
「う、うん」
「じゃ、オレはこれで」
宮田がすっと椅子から腰を上げた。
奈々はあまりにも突然の申し出に、やや驚いて身を乗り出し答えた。
「送っていくよ」
「いいよ」
「大丈夫、送らせて」
「いいから寝てろって」
そんな押し問答が続き、奈々が無理矢理に立ち上がった瞬間だった。
まだ体力の回復しきっていない体は、言うことを聞いてくれないらしい。
ふっと目の回るような感覚が奈々を支配し、足がもつれてしまった。
「お、おい!」
とっさに宮田が奈々を支える。
奈々は、宮田の胸の中に飛び込むような形になった。
「ったく・・・大人しく寝てろよ」
「・・・だって・・・せっかく来てくれたのに」
まだ頭が少しクラクラするのもあって、奈々はしっかりと宮田をつかんでいる。
宮田はそのまま奈々を支えながら、小さくため息をついて
「疲れを抜くのも大事な仕事だぜ」
「・・・ハイ」
「大人しく寝てろ」
「・・・ハイ」
奈々はようやく平衡感覚を取り戻し、少しずつ宮田から体を離した。
体を離す途中でふっと見上げると、宮田の顔が思いがけなく近い距離にあったので、驚きのあまり体が硬直してしまった。
その奈々の体の反応が、宮田にも伝わったらしい。
宮田の体も緊張したのが、つかんだ腕を通して奈々に伝わった。
そのまま、二人は見つめ合った状態で固まっている。
宮田は無言で奈々を見つめたままだ。
奈々は時計の秒針の音が、いっそう大きくなった気がした。
宮田の澄んだ瞳に、自分が映っているのがわかる。
吸い込まれそうな、奇麗な瞳。
秒針と呼応するような、大きな心臓の音。
「あ、あの・・・・」
奈々が何かを言いかけて、口を開いたときだった。
「よっ!高杉さん!見舞いにきたぜ!」
「奈々ちゃん、大丈夫かい?」
ドアの方向から突然の呼びかけ。
ハッと見てみると、そこには木村園芸の店長とその息子・・・・
つまり木村親子が立っていた。
「あ」
木村は奈々と宮田の様子を見るなり、慌ててドアの影に隠れた。
そして「いやぁ~」と病室に入り込もうとする父親の襟首を捕まえて、そのまま二人同時に隠れてしまったのだった。
物陰に隠れて姿は見えないものの、何やら親子で小競り合いをしているようすが伝わってくる。
宮田は奈々から体を離し、小さくため息をついて言った。
「・・・じゃ、オレはこれで」
「あ、うん」
奈々の頭をポンと軽く叩いて、宮田はその場を去った。
宮田がドアの影に隠れた木村を無視するように通り過ぎると、その後ろ姿をボーゼンと眺めているだけだった木村は、ハッと我に返って宮田を追った。
「ちょ、ちょっと待て宮田ぁ!親父ィ、先に入っててくれ!」
花束を抱えた木村園芸の店長が病室に入ってきた。
息子はあとから来ます、と小声で済まなそうに説明する。
奈々は見舞いの応対をしながら、どこか上の空で、あの二人を心配していた。
そういえば・・・・あの二人って、友達だったのよね。
・・・・ちょっとマズいところ見られたのかな?
早足で木村を無視し続ける宮田の心中は、奈々には計り知れなかった。
「だから待てっての!宮田ぁ!」