君の背中
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11.ありがとう
気がついたら、全然見慣れない天井があった。
こんな体験は初めてだ、と奈々は腕に刺さる点滴のチューブを見ながら、現実に慣れないでいる。
昨日まで、上司や同僚やら友達がお見舞いにきてくれた。
置き去りにされた仕事は、それぞれ分担されたようだ。
みんな他にも仕事を抱えているというのに、さらに負担をかけることになり、申し訳なさで胸が苦しくなる。
そういうと上司は「何も考えないで寝ろ」と笑ってくれた。
ゆっくり眠ったなんて、いつぶりだろう。
こんなに自分のことを考えたのなんて、いつぶりだろう。
何をするわけでもなく、ぼーっとする時間。
入院4日目にして、もはや少し退屈を感じていた。
ハードワークが身にしみてしまって、自分は貧乏性だなと自嘲した。
病室には誰もいない。散歩や面会や検査などで、同室の人たちはみんな出払っていた。
改めてふうっとため息をつき、背中を起こしたベッドにもたれて、読みかけの本を手に取ろうとしたときだった。
ドアの入り口に、見たことのある人物がいるのに気づいた。
「・・・・み、み、みみみみみ・・」
奈々は、言葉にならない衝撃を覚えた。
入り口に立っているのは、自分が入院したことも、ここにいることも知らないはずの人物だったからだ。
「宮田くん!?」
「・・・・入っていいか?」
奈々は驚きのあまり、ただ惚けて宮田を見ることしか出来なかった。
奈々の返事を待たずして宮田は静かに病室に入り、ベッドの前まで歩いてきた。
「ど、どうして?」
「アンタが入院したって聞いて・・・」
「だ、誰から?」
宮田は質問に答えず、ベッド脇に置いてある椅子に腰掛けた。
奈々はまだ、自分の目が信じられなかった。
「体は大丈夫か?」
宮田がじっと奈々を見つめて言った。
会うのはずいぶんと久しぶりだった。
奈々は目の前の宮田に驚きを隠せずにいたが、気を取り直して答えた。
「あ、うん。さすがに4日もぼーっとしてたから。もう退院してもいいんだけどね」
「焦らないで、ゆっくりしてろよ」
「そうだけどさ・・・」
誰もいない病室は静かだ。宮田は何かを語るわけでもなく、ただ椅子に座っている。
互いに無言の状態が続く。
奈々は目の前の宮田を見ながら、“胸を張って会いたい”という気持ちを思い出した。
本来なら、イベントが終わった後にでも伝えようと思っていたこと。
入院だなんて少しみっともない結果になったけれど、宮田が目の前に居る今、どうしても伝えたかった。
「宮田くん、私さぁ・・・」
宮田は少し顔を上げ、奈々を見つめた。大きな瞳に、自分の姿が映ったのがわかる。
「私、この仕事が好きだよ」
言葉は空間に吸い込まれるように、静かに消えた。
宮田は顔色ひとつ変えずに奈々を見つめたままだ。
「結果的に倒れちゃったけど、頑張れたのは宮田くんのおかげだよ。宮田くんが、ああやって叱咤してくれたから今があるんだ。だから・・・ありがとう」
奈々は心の底からそう思っていた。
宮田に言われた言葉は、奈々にとってすごく重たいものだった。
ショックでもあったし、なにより反発心が芽生えなかったわけでもない。
それでも、あのことがなければ、ここまで自分を奮い立たせることは出来なかった。
そしてそれが、あの木村選手のような舞台で闘っている人の言葉だから、なおさら。
「頑張った人にしか見えない景色って、あるんだよね。それが見えて良かった」
奈々の笑顔を見て、宮田は苦しそうな顔をして下を向いてしまった。
宮田の態度に、奈々は自分が何かおかしなことでも口走ってしまったかと思った。
やがて宮田は静かに、こう口を開いた。
「初めて会ったとき・・・・」
「ん?」
「オレが、アンタに初めて会ったとき、さ」
会話の糸口がつかめず、奈々は首をかしげた。
宮田はそのまま続けて
「あの朝に出会う前から、オレはアンタを知ってたんだ」
「・・・えっ?」
宮田は顔を上げて、奈々を見つめた。
時計の秒針の音が、室内にやけに響く。
かろうじて時間が止まっていないことを、それが証明してくれた。
気がついたら、全然見慣れない天井があった。
こんな体験は初めてだ、と奈々は腕に刺さる点滴のチューブを見ながら、現実に慣れないでいる。
昨日まで、上司や同僚やら友達がお見舞いにきてくれた。
置き去りにされた仕事は、それぞれ分担されたようだ。
みんな他にも仕事を抱えているというのに、さらに負担をかけることになり、申し訳なさで胸が苦しくなる。
そういうと上司は「何も考えないで寝ろ」と笑ってくれた。
ゆっくり眠ったなんて、いつぶりだろう。
こんなに自分のことを考えたのなんて、いつぶりだろう。
何をするわけでもなく、ぼーっとする時間。
入院4日目にして、もはや少し退屈を感じていた。
ハードワークが身にしみてしまって、自分は貧乏性だなと自嘲した。
病室には誰もいない。散歩や面会や検査などで、同室の人たちはみんな出払っていた。
改めてふうっとため息をつき、背中を起こしたベッドにもたれて、読みかけの本を手に取ろうとしたときだった。
ドアの入り口に、見たことのある人物がいるのに気づいた。
「・・・・み、み、みみみみみ・・」
奈々は、言葉にならない衝撃を覚えた。
入り口に立っているのは、自分が入院したことも、ここにいることも知らないはずの人物だったからだ。
「宮田くん!?」
「・・・・入っていいか?」
奈々は驚きのあまり、ただ惚けて宮田を見ることしか出来なかった。
奈々の返事を待たずして宮田は静かに病室に入り、ベッドの前まで歩いてきた。
「ど、どうして?」
「アンタが入院したって聞いて・・・」
「だ、誰から?」
宮田は質問に答えず、ベッド脇に置いてある椅子に腰掛けた。
奈々はまだ、自分の目が信じられなかった。
「体は大丈夫か?」
宮田がじっと奈々を見つめて言った。
会うのはずいぶんと久しぶりだった。
奈々は目の前の宮田に驚きを隠せずにいたが、気を取り直して答えた。
「あ、うん。さすがに4日もぼーっとしてたから。もう退院してもいいんだけどね」
「焦らないで、ゆっくりしてろよ」
「そうだけどさ・・・」
誰もいない病室は静かだ。宮田は何かを語るわけでもなく、ただ椅子に座っている。
互いに無言の状態が続く。
奈々は目の前の宮田を見ながら、“胸を張って会いたい”という気持ちを思い出した。
本来なら、イベントが終わった後にでも伝えようと思っていたこと。
入院だなんて少しみっともない結果になったけれど、宮田が目の前に居る今、どうしても伝えたかった。
「宮田くん、私さぁ・・・」
宮田は少し顔を上げ、奈々を見つめた。大きな瞳に、自分の姿が映ったのがわかる。
「私、この仕事が好きだよ」
言葉は空間に吸い込まれるように、静かに消えた。
宮田は顔色ひとつ変えずに奈々を見つめたままだ。
「結果的に倒れちゃったけど、頑張れたのは宮田くんのおかげだよ。宮田くんが、ああやって叱咤してくれたから今があるんだ。だから・・・ありがとう」
奈々は心の底からそう思っていた。
宮田に言われた言葉は、奈々にとってすごく重たいものだった。
ショックでもあったし、なにより反発心が芽生えなかったわけでもない。
それでも、あのことがなければ、ここまで自分を奮い立たせることは出来なかった。
そしてそれが、あの木村選手のような舞台で闘っている人の言葉だから、なおさら。
「頑張った人にしか見えない景色って、あるんだよね。それが見えて良かった」
奈々の笑顔を見て、宮田は苦しそうな顔をして下を向いてしまった。
宮田の態度に、奈々は自分が何かおかしなことでも口走ってしまったかと思った。
やがて宮田は静かに、こう口を開いた。
「初めて会ったとき・・・・」
「ん?」
「オレが、アンタに初めて会ったとき、さ」
会話の糸口がつかめず、奈々は首をかしげた。
宮田はそのまま続けて
「あの朝に出会う前から、オレはアンタを知ってたんだ」
「・・・えっ?」
宮田は顔を上げて、奈々を見つめた。
時計の秒針の音が、室内にやけに響く。
かろうじて時間が止まっていないことを、それが証明してくれた。