金魚すくい
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お祭りの雰囲気が、この人にはよく似合う。
御神輿なんか担がせたら、日本一似合うんじゃないかな、なんて思いながら、奈々はその男の隣を歩いていた。
「あ、金魚!」
奈々は金魚すくい屋を見るなり、駆け込むようにして水槽をのぞいた。
赤、金、黒の可愛い金魚が、水槽を所狭しと泳ぐ様をうっとりと眺めていると、千堂が不思議そうに声をかけてきた。
「なんや奈々、金魚が好きなんか?」
「うん、まあ・・・。」
実際には、泳いでいる金魚を見るのが好きなだけで飼うつもりは全くないのだが、反射的に返事をしてしまった。それを聞いた千堂は、急にやる気になって、
「よっしゃ、ワイが取ったる。」
しまった、と思ったが遅かった。金魚を飼う気はない、ということをどう弁解しようか考えている内に、千堂はTシャツの袖を肩までまくり上げて、気合いを入れ始めていた。
「待っとれよ!でかいの釣ったるさかい。おっちゃん、一回な!」
弁解を待たずに店のオジサンに料金を払ってしまった。だが、奈々は千堂のこの大爆走ぶりが好きだったので、とりあえず一回は見守ることにする。
ベシャッ
勢いよく突っ込みすぎて、掬い紙がすぐに破けてしまった。
まん丸に空いた穴を見て、千堂は牙をむきだし、店のオジサンに100円玉を投げた。
「もう一回や!!」
「せ、千堂さん、いいよ別に・・・」
「ええから待っとけ。次は取る!!」
ベシャッ
「~~~~~がぁっ!もっかいや!」
奈々のために金魚を捕るはずが、回数を重ねる内に自分と金魚の戦いへと変わってしまったらしい。
気が付くと1000円近くものお金をつぎ込んでいた。
「おっ・・これは・・いけるで。」
10回目で、やっと掬い紙の上へ金魚が乗っかった。
勝算を見いだした千堂は、勢いよく金魚を持ち上げた。
ベシャ
「残念やったなー、ロッキー。最後は静かに上げんと」
「や、やかましいわい!もっかいや!」
親切にアドバイスしてくれた店のオジサンにも耳を貸さず、千堂は再び100円玉を投げようとしたが、もう小銭がなくなってしまったようで、ポケットからゴソゴソ千円札を取り出した。
「千堂さん、もういいってば!!行こうよ!!十分だから!」
「そや、彼女退屈しとるで~」
「う~・・・そ、そうか。ほな。」
未練たっぷりに、金魚すくい屋を後にした。
「ホンマ申し訳ないな、奈々・・ワイ、全然ダメやった。」
子どものようにしょんぼりしながら、千堂は言った。
「いいよ、面白かったし・・・・気にしないでよ。」
事実、コントを見ているようで面白かった。もちろん、自分のためにやってくれたことなので、口が裂けても言わないが。
「また来年がんばるわ。特訓や。そんで釣れたらそれに武士って名前つけて、かわいがってくれな。」
「・・・死んじゃったらやだなあ。」
「・・・そやな。」
会話の途中で、ふと千堂は何かを見つけたらしい。
ちょっとまっててな、と言い残して、人混みのなかへ紛れてしまった。
ホンの数秒の出来事で、千堂が何処へ行ったのか全く見当も付かなかったが、とりあえず言われたとおりにその場で待機していると。
「奈々、またせてしもたな。」
数分経って、千堂は紙袋を手に持って帰ってきた。そうして、そのなかから何かとりだし、奈々に手渡した。
「た、たい焼き・・・?」
「そや。あんこギッシリや。」
「どうしたの?」
湯気ののぼる出来たてのたい焼きを一口かじって、千堂は答えた。
「・・・金魚、釣れへんかったから。たい焼き釣ってきたんや・・・」
奈々はおもわず、吹き出してしまった。
「ありがとう。美味しそうだね。いただきまーす!」
「おう。来年はちゃんとした金魚、食おうな。」
「食えるかっ!」
おわり
初稿 2003.7.13 リライト2010.12 高杉R26号
千堂はああいうの絶対苦手だと思います。奇跡的に釣ってもすぐ死なせそう(笑)
ーーーー
20年後の手直し 2024.8.31
フォレストページ閉鎖記念。フォレストページ+には千堂短編全然移転されてなかったのを今知りました(爆)。
この作品は、フォレスト移行前の手作りHP時代のシロモノでデータが手元に残っていたので、夢を書き始めた初期の拙い文体を少しだけ手直しして、復活させました。実は結構気に入っています。
御神輿なんか担がせたら、日本一似合うんじゃないかな、なんて思いながら、奈々はその男の隣を歩いていた。
「あ、金魚!」
奈々は金魚すくい屋を見るなり、駆け込むようにして水槽をのぞいた。
赤、金、黒の可愛い金魚が、水槽を所狭しと泳ぐ様をうっとりと眺めていると、千堂が不思議そうに声をかけてきた。
「なんや奈々、金魚が好きなんか?」
「うん、まあ・・・。」
実際には、泳いでいる金魚を見るのが好きなだけで飼うつもりは全くないのだが、反射的に返事をしてしまった。それを聞いた千堂は、急にやる気になって、
「よっしゃ、ワイが取ったる。」
しまった、と思ったが遅かった。金魚を飼う気はない、ということをどう弁解しようか考えている内に、千堂はTシャツの袖を肩までまくり上げて、気合いを入れ始めていた。
「待っとれよ!でかいの釣ったるさかい。おっちゃん、一回な!」
弁解を待たずに店のオジサンに料金を払ってしまった。だが、奈々は千堂のこの大爆走ぶりが好きだったので、とりあえず一回は見守ることにする。
ベシャッ
勢いよく突っ込みすぎて、掬い紙がすぐに破けてしまった。
まん丸に空いた穴を見て、千堂は牙をむきだし、店のオジサンに100円玉を投げた。
「もう一回や!!」
「せ、千堂さん、いいよ別に・・・」
「ええから待っとけ。次は取る!!」
ベシャッ
「~~~~~がぁっ!もっかいや!」
奈々のために金魚を捕るはずが、回数を重ねる内に自分と金魚の戦いへと変わってしまったらしい。
気が付くと1000円近くものお金をつぎ込んでいた。
「おっ・・これは・・いけるで。」
10回目で、やっと掬い紙の上へ金魚が乗っかった。
勝算を見いだした千堂は、勢いよく金魚を持ち上げた。
ベシャ
「残念やったなー、ロッキー。最後は静かに上げんと」
「や、やかましいわい!もっかいや!」
親切にアドバイスしてくれた店のオジサンにも耳を貸さず、千堂は再び100円玉を投げようとしたが、もう小銭がなくなってしまったようで、ポケットからゴソゴソ千円札を取り出した。
「千堂さん、もういいってば!!行こうよ!!十分だから!」
「そや、彼女退屈しとるで~」
「う~・・・そ、そうか。ほな。」
未練たっぷりに、金魚すくい屋を後にした。
「ホンマ申し訳ないな、奈々・・ワイ、全然ダメやった。」
子どものようにしょんぼりしながら、千堂は言った。
「いいよ、面白かったし・・・・気にしないでよ。」
事実、コントを見ているようで面白かった。もちろん、自分のためにやってくれたことなので、口が裂けても言わないが。
「また来年がんばるわ。特訓や。そんで釣れたらそれに武士って名前つけて、かわいがってくれな。」
「・・・死んじゃったらやだなあ。」
「・・・そやな。」
会話の途中で、ふと千堂は何かを見つけたらしい。
ちょっとまっててな、と言い残して、人混みのなかへ紛れてしまった。
ホンの数秒の出来事で、千堂が何処へ行ったのか全く見当も付かなかったが、とりあえず言われたとおりにその場で待機していると。
「奈々、またせてしもたな。」
数分経って、千堂は紙袋を手に持って帰ってきた。そうして、そのなかから何かとりだし、奈々に手渡した。
「た、たい焼き・・・?」
「そや。あんこギッシリや。」
「どうしたの?」
湯気ののぼる出来たてのたい焼きを一口かじって、千堂は答えた。
「・・・金魚、釣れへんかったから。たい焼き釣ってきたんや・・・」
奈々はおもわず、吹き出してしまった。
「ありがとう。美味しそうだね。いただきまーす!」
「おう。来年はちゃんとした金魚、食おうな。」
「食えるかっ!」
おわり
初稿 2003.7.13 リライト2010.12 高杉R26号
千堂はああいうの絶対苦手だと思います。奇跡的に釣ってもすぐ死なせそう(笑)
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20年後の手直し 2024.8.31
フォレストページ閉鎖記念。フォレストページ+には千堂短編全然移転されてなかったのを今知りました(爆)。
この作品は、フォレスト移行前の手作りHP時代のシロモノでデータが手元に残っていたので、夢を書き始めた初期の拙い文体を少しだけ手直しして、復活させました。実は結構気に入っています。
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