千堂短編集
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「ねぇねぇ、武士さん」
「なんやぁ」
台所からヒョイと顔を出して、麦茶を飲みながら返事をする千堂。
話しかけた本人は、今でゴロリと大の字になったまま動かない。
「暑い」
「せやな」
「クーラー買うてや」
「アホォ、バアちゃん凍えてまうで」
今時クーラーもない家。
何十年前かわからないレトロなデザインの扇風機が、カラカラと危なっかしい音を立てながら回り続けている。
「じゃあ、アイス買うてや」
「まあ、アイスくらいならええけど。好きなん持って行けや」
居間でスライムのように溶けていた声の主は、千堂の返答を聞いて固体に戻り、ガバッと起きて祖母の座っている店の入り口の方へ、四つん這いで向かっていく。
「バァちゃん、ウチ、ポッキン割るやつ食べたいわぁ」
「はいよ」
「お代は武士さんにつけてな」
「はいよ。持ってき」
祖母は一歩も動くことなく、一点を見つめたまま答える。
「はい、武士さん、おすそわけ」
そしてアイスを二つにポキっと割って、千堂に差し出す。
「何がおすそ分けや。ワイのおごりやんか」
奪い去るように、やや力任せに強引にアイスを取って、大きなため息をつく。
そして大きな口を開けて、アイスを頬張った。
そんな後ろ姿が愛おしくて、思わず抱きつく。
「武士さん、すき」
「ガキに好かれてもなぁ」
「ロリコン、流行りやんか」
「流行ってへんわ!暑いからどけぇ!」
振り払われて、畳にドスンと転がる。
白いタンクトップが眩しい。
今年の夏も、暑い。
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2019.8.1 高杉R26号