千堂短編集
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『勝利者インタビュー』
見事なKO勝利で、大阪府立体育館は揺れた。
世界に向けてその豪腕を奮う千堂。
そして、その拳に夢を馳せる観衆。
カリスマ、というとチープに聞こえるかもしれない。
けれど、それ以外の言葉が見あたらない。
高々と上がる拳に、観衆は絶叫にも似た喜びの声を上げた。
「それでは、たったいま試合を終えた千堂選手にお話をお伺いします!」
千堂は人気ボクサーだ。
毎回、テレビ中継が入っていて、試合の終わりには必ずインタビューが入る。
元々千堂は、こういった物に臆するタイプではない。
それにもう何度も経験しているのもあって、慣れた様子でリングの中央に君臨する。
「どうでしたか、今日の相手は?」
「楽勝やな」
すると観衆から「打たれてたやないけー!」とヤジが飛び、どっと笑いが起きた。
「アホォ!ワイかてたまにはパンチ食らうこともあるわっ!」
冗談めいて答える千堂に、観客がまた笑う。
「見えてきましたね、世界までの道が。今のお気持ちはどうですか?」
「そやな。とりあえず、もっと強いヤツとどつき合って、早よ皆にワイの強さを証明したいわ」
些かビッグマウスとも言われる千堂の口調ではあったが、観客はそれがただのハッタリで無いことをよく知っている。
この男の拳は世界を獲れる、獲って欲しい、その期待が歓声となって、体育館を包んだ。
「心強いですね〜。もはや、千堂選手が恐れるものは無いんじゃないですか?」
アナウンサーがそういってマイクを千堂に向けると、さっきまでのスピーディな受け答えとは違って、少し考えるように間をおいた。
観衆も、千堂の言葉に固唾をのんでいる。
「ある」
千堂の一言に、体育館がざわっと揺れた。
すると千堂は、アナウンサーからマイクを奪い取り、リングサイドを指さして、こういった。
「嫁や」
観衆の目が一同に自分へ向いた。
突然のことに、呆然とするしかない。
一瞬の静けさのあと、クラッカーでも鳴らしたかのように一斉に観客が笑い出す。
「なんやー!尻に敷かれとるんかぁ千堂!」
「虎やなくて猫なんとちゃうかー!」
「嫁が先に世界獲ったら立場無いでー!」
次々に親近感のあるヤジが飛び、千堂は真面目な顔をして声を荒げた。
「じゃかぁしいっ!ホンマ強いねんぞ!?こないだなんて鍋投げてきよったんや!」
天然なのかリップサービスなのかどうか分からないが、自分たちのプライベートをリング上で大声で話す千堂に、顔が真っ赤になるほど恥ずかしい気持ちになった。
「避ける練習になるやろが!」
「今度は包丁投げたりぃや!」
「ええ嫁もろて幸せやな千堂!」
またも観衆からヤジが飛ぶ。
「そうや」
千堂がいたずらっぽく笑って、
「ウチの嫁は最高や」
そういってマイクをアナウンサーに渡し、リングを降りる。
その際、チラッとリングサイドを見て、何かをやり遂げたような清々しい表情を浮かべて通り過ぎていった。
「なんや結局ノロケかいな!」
「新婚やっちゅーて気ィ抜くなや!」
「ごっそーさんでしたぁ!」
KO勝利とあって、控え室に戻った千堂は鼻歌交じりの上機嫌だった。
そこに、リングサイドから「避難」してきた愛しき妻を見つける。
「おう、おもろかったやろ?今日の試合」
しかし自分は、それどころじゃなかった。
千堂がリングを降りた後、周囲の人間から散々冷やかされ、散々ヤジを飛ばされたのだ。
「武士・・・覚えとき」
ギロリと睨むと、千堂は躾けられた動物のようにシュンと大人しくなった。
その様子を見て柳岡は「この嫁は世界を獲れる」と思ったとか、思わないとか・・・
後日、なにわ拳闘会の元に、何枚も「鬼嫁Tシャツ」が送られてきたそうだ。
END
見事なKO勝利で、大阪府立体育館は揺れた。
世界に向けてその豪腕を奮う千堂。
そして、その拳に夢を馳せる観衆。
カリスマ、というとチープに聞こえるかもしれない。
けれど、それ以外の言葉が見あたらない。
高々と上がる拳に、観衆は絶叫にも似た喜びの声を上げた。
「それでは、たったいま試合を終えた千堂選手にお話をお伺いします!」
千堂は人気ボクサーだ。
毎回、テレビ中継が入っていて、試合の終わりには必ずインタビューが入る。
元々千堂は、こういった物に臆するタイプではない。
それにもう何度も経験しているのもあって、慣れた様子でリングの中央に君臨する。
「どうでしたか、今日の相手は?」
「楽勝やな」
すると観衆から「打たれてたやないけー!」とヤジが飛び、どっと笑いが起きた。
「アホォ!ワイかてたまにはパンチ食らうこともあるわっ!」
冗談めいて答える千堂に、観客がまた笑う。
「見えてきましたね、世界までの道が。今のお気持ちはどうですか?」
「そやな。とりあえず、もっと強いヤツとどつき合って、早よ皆にワイの強さを証明したいわ」
些かビッグマウスとも言われる千堂の口調ではあったが、観客はそれがただのハッタリで無いことをよく知っている。
この男の拳は世界を獲れる、獲って欲しい、その期待が歓声となって、体育館を包んだ。
「心強いですね〜。もはや、千堂選手が恐れるものは無いんじゃないですか?」
アナウンサーがそういってマイクを千堂に向けると、さっきまでのスピーディな受け答えとは違って、少し考えるように間をおいた。
観衆も、千堂の言葉に固唾をのんでいる。
「ある」
千堂の一言に、体育館がざわっと揺れた。
すると千堂は、アナウンサーからマイクを奪い取り、リングサイドを指さして、こういった。
「嫁や」
観衆の目が一同に自分へ向いた。
突然のことに、呆然とするしかない。
一瞬の静けさのあと、クラッカーでも鳴らしたかのように一斉に観客が笑い出す。
「なんやー!尻に敷かれとるんかぁ千堂!」
「虎やなくて猫なんとちゃうかー!」
「嫁が先に世界獲ったら立場無いでー!」
次々に親近感のあるヤジが飛び、千堂は真面目な顔をして声を荒げた。
「じゃかぁしいっ!ホンマ強いねんぞ!?こないだなんて鍋投げてきよったんや!」
天然なのかリップサービスなのかどうか分からないが、自分たちのプライベートをリング上で大声で話す千堂に、顔が真っ赤になるほど恥ずかしい気持ちになった。
「避ける練習になるやろが!」
「今度は包丁投げたりぃや!」
「ええ嫁もろて幸せやな千堂!」
またも観衆からヤジが飛ぶ。
「そうや」
千堂がいたずらっぽく笑って、
「ウチの嫁は最高や」
そういってマイクをアナウンサーに渡し、リングを降りる。
その際、チラッとリングサイドを見て、何かをやり遂げたような清々しい表情を浮かべて通り過ぎていった。
「なんや結局ノロケかいな!」
「新婚やっちゅーて気ィ抜くなや!」
「ごっそーさんでしたぁ!」
KO勝利とあって、控え室に戻った千堂は鼻歌交じりの上機嫌だった。
そこに、リングサイドから「避難」してきた愛しき妻を見つける。
「おう、おもろかったやろ?今日の試合」
しかし自分は、それどころじゃなかった。
千堂がリングを降りた後、周囲の人間から散々冷やかされ、散々ヤジを飛ばされたのだ。
「武士・・・覚えとき」
ギロリと睨むと、千堂は躾けられた動物のようにシュンと大人しくなった。
その様子を見て柳岡は「この嫁は世界を獲れる」と思ったとか、思わないとか・・・
後日、なにわ拳闘会の元に、何枚も「鬼嫁Tシャツ」が送られてきたそうだ。
END