HEKIREKI
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8.王者と犬
宮田の初防衛戦が終わった。
前日計量はリミットいっぱいでパス。
そして試合は、蓋を開けてみれば2R1分35秒、宮田のTKO勝ち。
顔こそ綺麗なものだったが、対戦相手はさすがのハードパンチャー、体にはいくつかアザのような痕ができていた。
会場で試合を見ていた春樹は、減量中の失礼のお詫び、それから勝利のお祝いを伝えるべく、控え室に足を運んだ。
「宮田さんに・・・俺、なんて言えばいいかな・・・」
ジムでひと騒動起こしてから、さすがに反省したのか、宮田に話しかけることは一切なかった春樹。
緊張しながら控室までたどり着くと、控え室の前は記者や関係者でごった返し、混雑していた。
勝利者インタビューを受けているところらしい。
時折パシャパシャと、フラッシュの光が立ち込める。
「インタビューはこれくらいにしてくれ。詳細は後日ジムで!疲れているんだ、休ませてくれ」
「あ、宮田コーチ!ちょっと・・」
追い出されるようにして記者たちが続々と控え室から出てくる。
全員が外に出たことを確認してドアを閉めようとした宮田父は、廊下に立ち尽くす春樹を発見した。
「あ、あの・・・」
「高杉か。悪いが後でな」
ドアは無情にも閉まる。
さすがの春樹もドアを勝手に開けて入ったりなどはしない。仕方がないので、その場にずっと立って待っていることにした。
それから間も無く、ドアが開いて宮田が顔を出した。
ドアのすぐ前にいた春樹とは明らかに目があったが、特に何を言うわけでもなく通り過ぎる。
「あ、み、宮田さん・・・」
宮田は父に連れられて医務室へ行くところらしい。
快勝したとはいえ、試合後のドクターチェックは必須だ。
そして医務室から帰って来て、また控室に入る。
「あ、宮田さん・・その・・・」
春樹が話しかけるものの返事はなく、無情にも扉が閉まった。
控室からは何やら話し声が聞こえてくるが、うまく聞き取れない。
きっと今日の試合について振り返って、あれこれ話をしているのだろう。
『悪いが後でな』
そう宮田父に言われたものの、その"後で”が一向に来る気配がない。
ただただ、その時が来るのをじっと待つしかなかった。
しばらくして、控え室の電気が消え、中から木田マネージャー、宮田父、宮田の3人がぞろぞろと出て来た。
「あ、宮田さん・・・」
「高杉、お前まだいたのか?」
宮田の父が春樹を見かけて、驚きの声をあげる。
試合終了からかなりの時間が経っているのにも関わらず、ずっとここで立って待っていたらしい。
"後でな”とは言ったものの、もうすっかり帰っているとばかり思っていたからだ。
「あの、宮田さんに・・お詫びとお祝いをと・・・」
「・・・どうも」
宮田は冷たく、目を伏せがちに答える。
しかし春樹は宮田を前にして興奮が冷めやらぬらしい、目を潤ませながら次々と話しかける。
「げ、減量中はすいませんでした!俺がバカでした!許してください!あと試合すごかったです!マジ感動しました!」
「高杉くん、わかったよ。もう遅いから高校生は早く家に帰った方がいいよ?」
木田マネージャーが苦笑いで諭すと、春樹は「は、はい・・・」と小さくおとなしくなった。
春樹が帰ったのを見届けて、3人も後楽園ビルを後にする。
「一郎、お前もう少し愛想よくできんのか」
「・・・どういう意味だよ、父さん」
宮田父が呆れたようにいうと、宮田も面白くなさそうに返事をする。
「高杉、ずっとお前を待っていたんだろう?もう少し気の利いたことでも言ってやれば・・・」
「興味ないね」
「お前は王者だろう?ジムの先輩としても、もう少し礼儀をだな・・」
「最低限の礼儀は尽くしてるつもりだけど」
「まぁまぁ宮田さんも一郎くんも落ち着いて!」
険悪なムードを和ませるように木田が口を挟む。
宮田の父も、息子があの高杉という練習生にイライラさせられていることは知っていた。
それでも、あのズケズケと人の懐に入ろうとする図々しさが、人付き合いに疎い息子の鉄壁を崩すいい材料になるのではないか、と期待していたりもする。
「日を改めて祝賀会を行うことになっているから、その時はもう少し愛想をよくして後援会の皆さんにご挨拶するようにな」
「・・・」
「一郎、聞いているのか?」
「わかってるよ」
OPBFの王者ともなると後援会がつく。
定職を持っていれば職場などで構成されることも多いのだが、宮田の場合は川原ジムの縁者から構成されている後援会だ。
チケットを捌いたり、寄付をしてもらったりなど、後援会の役割というのは本当に大きい。
超がつくほどの無愛想・宮田一郎が後援会を持てているのは、木田マネージャーや宮田父が各関係者と良好な関係を築いているおかげに他ならない。
そういうわけで、息子が「ただボクシングができればいい」と閉鎖的な考えで、特に愛想もおべっかも使うことがない点は、宮田父にとって正直頭の痛いところだ。
そして、祝賀会の日がやってきて・・・
川原ジムのプロ選手も、もちろん同席することになり、春樹もその場に呼ばれることになったのである。
宮田の初防衛戦が終わった。
前日計量はリミットいっぱいでパス。
そして試合は、蓋を開けてみれば2R1分35秒、宮田のTKO勝ち。
顔こそ綺麗なものだったが、対戦相手はさすがのハードパンチャー、体にはいくつかアザのような痕ができていた。
会場で試合を見ていた春樹は、減量中の失礼のお詫び、それから勝利のお祝いを伝えるべく、控え室に足を運んだ。
「宮田さんに・・・俺、なんて言えばいいかな・・・」
ジムでひと騒動起こしてから、さすがに反省したのか、宮田に話しかけることは一切なかった春樹。
緊張しながら控室までたどり着くと、控え室の前は記者や関係者でごった返し、混雑していた。
勝利者インタビューを受けているところらしい。
時折パシャパシャと、フラッシュの光が立ち込める。
「インタビューはこれくらいにしてくれ。詳細は後日ジムで!疲れているんだ、休ませてくれ」
「あ、宮田コーチ!ちょっと・・」
追い出されるようにして記者たちが続々と控え室から出てくる。
全員が外に出たことを確認してドアを閉めようとした宮田父は、廊下に立ち尽くす春樹を発見した。
「あ、あの・・・」
「高杉か。悪いが後でな」
ドアは無情にも閉まる。
さすがの春樹もドアを勝手に開けて入ったりなどはしない。仕方がないので、その場にずっと立って待っていることにした。
それから間も無く、ドアが開いて宮田が顔を出した。
ドアのすぐ前にいた春樹とは明らかに目があったが、特に何を言うわけでもなく通り過ぎる。
「あ、み、宮田さん・・・」
宮田は父に連れられて医務室へ行くところらしい。
快勝したとはいえ、試合後のドクターチェックは必須だ。
そして医務室から帰って来て、また控室に入る。
「あ、宮田さん・・その・・・」
春樹が話しかけるものの返事はなく、無情にも扉が閉まった。
控室からは何やら話し声が聞こえてくるが、うまく聞き取れない。
きっと今日の試合について振り返って、あれこれ話をしているのだろう。
『悪いが後でな』
そう宮田父に言われたものの、その"後で”が一向に来る気配がない。
ただただ、その時が来るのをじっと待つしかなかった。
しばらくして、控え室の電気が消え、中から木田マネージャー、宮田父、宮田の3人がぞろぞろと出て来た。
「あ、宮田さん・・・」
「高杉、お前まだいたのか?」
宮田の父が春樹を見かけて、驚きの声をあげる。
試合終了からかなりの時間が経っているのにも関わらず、ずっとここで立って待っていたらしい。
"後でな”とは言ったものの、もうすっかり帰っているとばかり思っていたからだ。
「あの、宮田さんに・・お詫びとお祝いをと・・・」
「・・・どうも」
宮田は冷たく、目を伏せがちに答える。
しかし春樹は宮田を前にして興奮が冷めやらぬらしい、目を潤ませながら次々と話しかける。
「げ、減量中はすいませんでした!俺がバカでした!許してください!あと試合すごかったです!マジ感動しました!」
「高杉くん、わかったよ。もう遅いから高校生は早く家に帰った方がいいよ?」
木田マネージャーが苦笑いで諭すと、春樹は「は、はい・・・」と小さくおとなしくなった。
春樹が帰ったのを見届けて、3人も後楽園ビルを後にする。
「一郎、お前もう少し愛想よくできんのか」
「・・・どういう意味だよ、父さん」
宮田父が呆れたようにいうと、宮田も面白くなさそうに返事をする。
「高杉、ずっとお前を待っていたんだろう?もう少し気の利いたことでも言ってやれば・・・」
「興味ないね」
「お前は王者だろう?ジムの先輩としても、もう少し礼儀をだな・・」
「最低限の礼儀は尽くしてるつもりだけど」
「まぁまぁ宮田さんも一郎くんも落ち着いて!」
険悪なムードを和ませるように木田が口を挟む。
宮田の父も、息子があの高杉という練習生にイライラさせられていることは知っていた。
それでも、あのズケズケと人の懐に入ろうとする図々しさが、人付き合いに疎い息子の鉄壁を崩すいい材料になるのではないか、と期待していたりもする。
「日を改めて祝賀会を行うことになっているから、その時はもう少し愛想をよくして後援会の皆さんにご挨拶するようにな」
「・・・」
「一郎、聞いているのか?」
「わかってるよ」
OPBFの王者ともなると後援会がつく。
定職を持っていれば職場などで構成されることも多いのだが、宮田の場合は川原ジムの縁者から構成されている後援会だ。
チケットを捌いたり、寄付をしてもらったりなど、後援会の役割というのは本当に大きい。
超がつくほどの無愛想・宮田一郎が後援会を持てているのは、木田マネージャーや宮田父が各関係者と良好な関係を築いているおかげに他ならない。
そういうわけで、息子が「ただボクシングができればいい」と閉鎖的な考えで、特に愛想もおべっかも使うことがない点は、宮田父にとって正直頭の痛いところだ。
そして、祝賀会の日がやってきて・・・
川原ジムのプロ選手も、もちろん同席することになり、春樹もその場に呼ばれることになったのである。