HEKIREKI
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5.清々しいバカ
「宮田さんって・・・結構お茶目ですよね」
他の練習生と混じってロードワークに汗を流す春樹が、ボソリと呟く。
ざっざっと規則正しい足音に紛れて、ジムメイトが口々に反応する。
「そんなこと思ってるのはお前だけだよ」
「よく近づけるよな、俺なんておっかなくて目も合わせられねえよ」
「空気読めないのもそこまでくると、もはや才能に感じるぜ」
やれやれ、というため息交じりの皮肉も、春樹にはまっすぐ届かないらしい。
何か褒められたのかと勘違いして、嬉しそうに頰を緩ませている。
「俺・・・人当たりだけはいいんすよね!」
「ああ、そう思っているのはお前だけという事実な」
「お前のことマジ天才だと思うわ」
ロードワークのコースの半分を過ぎた頃、後ろから誰かが走ってくる気配がした。
振り返るまでも無く、その影は春樹の集団とは桁違いのスピードで、横を通り過ぎていく。
「は、早ぇ・・」
「あっという間に抜かれちまった、さすが宮田さんだな」
宮田は自分ら練習生より後から出発したにも関わらず、あっという間に追い抜いて行ってしまった。こういう基礎的な部分に、プロとアマチュアの違いがハッキリでる。
遠くなる後ろ姿ですら雄々しく、目を引きつけて止まない。
春樹は何か火をつけられたように、自らも加速を始めた。
「俺・・・追いかけてきます!」
「え?お、おい、高杉!?」
「またあいつは・・・今度こそ殺されるぞ」
宮田の腕時計がピピピと鳴る。3分経った合図だ。
走る速度を緩めて、1分間のインターバルを軽く流す。
その間に、ドドドドと砂埃を立てんばかりの勢いで、後ろから迫ってくる人物の気配に気がついた。
嫌な予感がする。
「み、み、宮田さあああん!!」
なんだろう、この既視感は。
男から、大きな声で名前を呼ばれる、このシチュエーション。
本当につくづく、イヤな奴に似ていやがる、と宮田は小さなため息をつく。
「お、俺も一緒に走っていいすか?」
「・・・」
無視して何も答えないのをいいことに、春樹はそのまま横に居座る。
全く大した度胸だぜ、と今度は大きなため息が出てきそうになった。
しばし流したところで、また腕時計がピッと鳴り、宮田は猛ダッシュを始めた。
「え!?ちょ、ちょっと、宮田さん!!は、早ッ」
食らいつくようにして春樹が並走するも、時間が長引けば長引くほど、どんどん距離を離されていく。
3分経ってまた腕時計がピピピとなり、走る速度を落とす。
春樹がようやく宮田に追いついたと思ったら、インターバルが終わってまた宮田が走り出す。
それを何度か繰り返していくうちに、宮田はつい熱くなってしまったらしい、ロードワークの折り返し地点をすっかり忘れて、どんどん遠くへ来てしまった。
振り返るともう春樹の姿は無く、やっと諦めたかと思って、帰路はジムまで軽く流す程度にしようと、立ち止まって腕時計の設定を変更した。
その場でしばしシャドウをし、腕や足首などの関節を少し伸ばして、また走り出そうとした時のこと。
「み・・・・みや・・・た・・・さん・・・マジ・・・すげっ・・・す」
トドメを刺したと思ったのに死んでないゾンビ、そんな映画をかつて見たことがあるような気がしないでもない、と宮田は思った。
目の前にはぜいぜいと全身を使って息をし、今にも倒れそうな春樹が立っていた。
だからと言って優しい言葉をかけたりする宮田ではない。
そして、逃げるようにダッシュするのも癪で、宮田は何も見なかったかのように、再びロードワークを続ける。
そして、生意気にも春樹は、その後を追ってきた。
「み、宮田さん・・・」
いやはや、凄い執念だと宮田はむしろ感心した。
ここまで冷たく突き放されて、普通の人間だったらまず金輪際近づいてこないはずなのに。
「宮田さんって・・・彼女いるんすか?」
今しがた耳を通り過ぎた言葉を、宮田は疑った。
曲がりなりにもジムの先輩、そしてOPBF王者である自分と、ロードワークで並走して、最初の一言がコレか?と。
「やっぱいますよね?いや、いないか。そんな暇・・・ないですかね?でも・・モテそうですよね?やっぱ彼女います?・・・あ、ひょっとして・・男性の方が・・・好き・・・ですか?」
息を切らしながら延々と話しかけてくる。バカもここまでいくと清々しいものがある。
「・・・・いるよ」
相手にしなくていいものを、なぜだかどうして答えてしまった。
相手がバカすぎてこちらの頭もおかしくなったか。
「わあ・・・やっぱり・・・どんな人ですか?」
「お前に関係ねぇだろ」
「じゃ・・じゃあ・・俺・・・当てます・・・!」
ハァハァともうだいぶ息も上がっているだろうに、どうも食らいついてくるのが気に入らない。
宮田は気づかれない程度に少しずつ、走る速度を上げた。
「と・・・年上!!」
その言葉を聞いた瞬間、宮田はドキリとして、思わず足を止めそうになった。
なんで知っている?
どこかで目撃でもされたのか?
それともオレにそんな年上好きのオーラでもでているのか?
「どうですか・・?年上?・・・ですよね?」
「・・・そうだけど」
「わあ・・・・や、やっぱり・・・つ、付き合って・・・長いですか・・・?」
どこまで続くんだこの尋問。
宮田はこれ以上は何も言うまいと、ギリリと歯を食いしばる。
「いいなぁ・・・」
だんだんと、春樹の速度が落ちていき、声は後ろから聞こえるようになって来た。
「何がだよ」
横っ面が見えなくなってせいせいしたのもあり、宮田は前を向きながら聞き返す。
「俺も・・・女だったら・・・宮田さんの彼女に・・・・なりたいっす・・」
ゾワワと何か、虫が背中を這うような気色の悪さを感じ、宮田は思いっきり速度を上げた。
「あ、ちょ、ちょっと・・・宮田さああん!!」
最後の叫び声はもう、かなり遠くから飛んでくるほど小さくなっていたが、それでも宮田は足を止めずにダッシュを続ける。
なんだ、こいつは・・・
どこまで幕之内に似ているんだ・・・・
まさかソッチの気があるとは思わないが、天然バカにもほどがある・・・・
「どうした一郎、随分息が上がってるな」
ジムに着くなり父親に声をかけられた宮田は、小さく「あぁ」とだけ返事をして、ベンチに座りうなだれた。
「宮田さんって・・・結構お茶目ですよね」
他の練習生と混じってロードワークに汗を流す春樹が、ボソリと呟く。
ざっざっと規則正しい足音に紛れて、ジムメイトが口々に反応する。
「そんなこと思ってるのはお前だけだよ」
「よく近づけるよな、俺なんておっかなくて目も合わせられねえよ」
「空気読めないのもそこまでくると、もはや才能に感じるぜ」
やれやれ、というため息交じりの皮肉も、春樹にはまっすぐ届かないらしい。
何か褒められたのかと勘違いして、嬉しそうに頰を緩ませている。
「俺・・・人当たりだけはいいんすよね!」
「ああ、そう思っているのはお前だけという事実な」
「お前のことマジ天才だと思うわ」
ロードワークのコースの半分を過ぎた頃、後ろから誰かが走ってくる気配がした。
振り返るまでも無く、その影は春樹の集団とは桁違いのスピードで、横を通り過ぎていく。
「は、早ぇ・・」
「あっという間に抜かれちまった、さすが宮田さんだな」
宮田は自分ら練習生より後から出発したにも関わらず、あっという間に追い抜いて行ってしまった。こういう基礎的な部分に、プロとアマチュアの違いがハッキリでる。
遠くなる後ろ姿ですら雄々しく、目を引きつけて止まない。
春樹は何か火をつけられたように、自らも加速を始めた。
「俺・・・追いかけてきます!」
「え?お、おい、高杉!?」
「またあいつは・・・今度こそ殺されるぞ」
宮田の腕時計がピピピと鳴る。3分経った合図だ。
走る速度を緩めて、1分間のインターバルを軽く流す。
その間に、ドドドドと砂埃を立てんばかりの勢いで、後ろから迫ってくる人物の気配に気がついた。
嫌な予感がする。
「み、み、宮田さあああん!!」
なんだろう、この既視感は。
男から、大きな声で名前を呼ばれる、このシチュエーション。
本当につくづく、イヤな奴に似ていやがる、と宮田は小さなため息をつく。
「お、俺も一緒に走っていいすか?」
「・・・」
無視して何も答えないのをいいことに、春樹はそのまま横に居座る。
全く大した度胸だぜ、と今度は大きなため息が出てきそうになった。
しばし流したところで、また腕時計がピッと鳴り、宮田は猛ダッシュを始めた。
「え!?ちょ、ちょっと、宮田さん!!は、早ッ」
食らいつくようにして春樹が並走するも、時間が長引けば長引くほど、どんどん距離を離されていく。
3分経ってまた腕時計がピピピとなり、走る速度を落とす。
春樹がようやく宮田に追いついたと思ったら、インターバルが終わってまた宮田が走り出す。
それを何度か繰り返していくうちに、宮田はつい熱くなってしまったらしい、ロードワークの折り返し地点をすっかり忘れて、どんどん遠くへ来てしまった。
振り返るともう春樹の姿は無く、やっと諦めたかと思って、帰路はジムまで軽く流す程度にしようと、立ち止まって腕時計の設定を変更した。
その場でしばしシャドウをし、腕や足首などの関節を少し伸ばして、また走り出そうとした時のこと。
「み・・・・みや・・・た・・・さん・・・マジ・・・すげっ・・・す」
トドメを刺したと思ったのに死んでないゾンビ、そんな映画をかつて見たことがあるような気がしないでもない、と宮田は思った。
目の前にはぜいぜいと全身を使って息をし、今にも倒れそうな春樹が立っていた。
だからと言って優しい言葉をかけたりする宮田ではない。
そして、逃げるようにダッシュするのも癪で、宮田は何も見なかったかのように、再びロードワークを続ける。
そして、生意気にも春樹は、その後を追ってきた。
「み、宮田さん・・・」
いやはや、凄い執念だと宮田はむしろ感心した。
ここまで冷たく突き放されて、普通の人間だったらまず金輪際近づいてこないはずなのに。
「宮田さんって・・・彼女いるんすか?」
今しがた耳を通り過ぎた言葉を、宮田は疑った。
曲がりなりにもジムの先輩、そしてOPBF王者である自分と、ロードワークで並走して、最初の一言がコレか?と。
「やっぱいますよね?いや、いないか。そんな暇・・・ないですかね?でも・・モテそうですよね?やっぱ彼女います?・・・あ、ひょっとして・・男性の方が・・・好き・・・ですか?」
息を切らしながら延々と話しかけてくる。バカもここまでいくと清々しいものがある。
「・・・・いるよ」
相手にしなくていいものを、なぜだかどうして答えてしまった。
相手がバカすぎてこちらの頭もおかしくなったか。
「わあ・・・やっぱり・・・どんな人ですか?」
「お前に関係ねぇだろ」
「じゃ・・じゃあ・・俺・・・当てます・・・!」
ハァハァともうだいぶ息も上がっているだろうに、どうも食らいついてくるのが気に入らない。
宮田は気づかれない程度に少しずつ、走る速度を上げた。
「と・・・年上!!」
その言葉を聞いた瞬間、宮田はドキリとして、思わず足を止めそうになった。
なんで知っている?
どこかで目撃でもされたのか?
それともオレにそんな年上好きのオーラでもでているのか?
「どうですか・・?年上?・・・ですよね?」
「・・・そうだけど」
「わあ・・・・や、やっぱり・・・つ、付き合って・・・長いですか・・・?」
どこまで続くんだこの尋問。
宮田はこれ以上は何も言うまいと、ギリリと歯を食いしばる。
「いいなぁ・・・」
だんだんと、春樹の速度が落ちていき、声は後ろから聞こえるようになって来た。
「何がだよ」
横っ面が見えなくなってせいせいしたのもあり、宮田は前を向きながら聞き返す。
「俺も・・・女だったら・・・宮田さんの彼女に・・・・なりたいっす・・」
ゾワワと何か、虫が背中を這うような気色の悪さを感じ、宮田は思いっきり速度を上げた。
「あ、ちょ、ちょっと・・・宮田さああん!!」
最後の叫び声はもう、かなり遠くから飛んでくるほど小さくなっていたが、それでも宮田は足を止めずにダッシュを続ける。
なんだ、こいつは・・・
どこまで幕之内に似ているんだ・・・・
まさかソッチの気があるとは思わないが、天然バカにもほどがある・・・・
「どうした一郎、随分息が上がってるな」
ジムに着くなり父親に声をかけられた宮田は、小さく「あぁ」とだけ返事をして、ベンチに座りうなだれた。