HEKIREKI
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14.最後の挨拶
「しかし、残念だな」
会長室で、宮田父がボソリと呟く。
「いえ・・・こちらこそ、色々ご指導いただいたにも関わらず、中途半端にして申し訳ありません」
「いやいや、仕方ないよ」
春樹がペコペコと平謝りするのを、木田がなだめるようにして抑える。
会長がジムにいるタイミングで正式に、引退を表明した春樹。たった1度の試合しかせず、入門期間は1年に満たない。
それでも起こした数々の事件は印象が濃かったようで、あたかも何年も在籍した選手のように、春樹の存在は皆の脳裏に深く焼き付けられている。
「たまに遊びにおいでよ」
「あ・・・はい。ありがとうございます!」
木田の優しい言葉が心にしみる。
「今日は大丈夫なんだろ?最後だからしっかり汗流していけよな。宮田さんもミットしてくれるそうだから」
「ほ、本当ですか?やった!」
厳しかったコーチも優しい口調になり、最後は少し名残惜しそうな顔で春樹を見ていた。
1階に降りてジムワークをこなしていると、間も無く宮田の父が降りて来て、ミットを構え出した。
「高杉、次から3R行けるか?」
「は、はい!お願いします!!」
相変わらずのえげつないミット音は、ジム内の誰もが振り返るほどだ。
宮田の父も思わず唸る。
全く、1戦のみで引退してしまうには惜しい逸材ではあるが、それにしても仕方ない。
命をかけられるほどのものが心になければ、いずれはどこかで上へ上れなくなってしまうから。
「あ・・・ありがとう・・・ございまし・・・た」
「うむ。達者でな」
宮田の父は両手にミットをつけたまま、ポスンと春樹の頭を叩いて激励した。
リングを降りたところで、ちょうど着替えを終えた宮田がロッカールームから出てくるのがわかった。
「あ、宮田さん。こんにちは」
「ああ」
相変わらずクールな対応だ。
今日で最後なのを知っているだろうに、特にそのことについて話しかけて来たりもしない。
毎日毎日、穴があくほど見ていた憧れの人の練習風景・・・
それももう、今日で最後だ。
そう思うと、春樹は自分の練習もおろそかになる程、宮田の一挙一動に釘付けになってしまっていた。
じいっと見られているのを知っていて宮田は、それでもなお無視を決め込んでいる。
そしてやがて、集中状態に入り込み、周りのことは一切見えなくなっていった。
それから1時間ほど経ったころだろうか。
春樹が最後のクールダウンに入ろうと、ストレッチマットを広げているのが目に入った。
宮田はつかつかと春樹の元へ近づいて、マットに座って柔軟を始めた春樹の頭上から声をかけた。
「高杉、グローブつけてリングに上がれ」
「・・え?」
突然のことに驚いて顔を上げる春樹をよそに、宮田も自らグローブをつけて、ロープをくぐってリングに上がった。
「え、ま、まさか・・・スパー・・ですか?」
「早く上がれよ」
「は、はいっ」
春樹は慌ててマットをたたみ、グローブをつけてリングに上がった。
ちょうど、1分間のインターバルを告げるブザーが鳴る。
「あ、あの・・・宮田さん」
「ヘッドギアつけろよ」
「は、はい!」
突然のことで心臓が高鳴って止まらない。
一方で宮田は涼しい顔をしてマウスピースをつけ、その場でステップを確認している。
宮田本人は、ヘットギアはしないらしい。
グローブも一回り大きい10オンスだ。
リング上の2人を見かけて、ぞろぞろとリングの周りに人が集まってくる。
そしてビーッとブザーが鳴り、宮田と春樹のスパーが始まった。
「しかし、残念だな」
会長室で、宮田父がボソリと呟く。
「いえ・・・こちらこそ、色々ご指導いただいたにも関わらず、中途半端にして申し訳ありません」
「いやいや、仕方ないよ」
春樹がペコペコと平謝りするのを、木田がなだめるようにして抑える。
会長がジムにいるタイミングで正式に、引退を表明した春樹。たった1度の試合しかせず、入門期間は1年に満たない。
それでも起こした数々の事件は印象が濃かったようで、あたかも何年も在籍した選手のように、春樹の存在は皆の脳裏に深く焼き付けられている。
「たまに遊びにおいでよ」
「あ・・・はい。ありがとうございます!」
木田の優しい言葉が心にしみる。
「今日は大丈夫なんだろ?最後だからしっかり汗流していけよな。宮田さんもミットしてくれるそうだから」
「ほ、本当ですか?やった!」
厳しかったコーチも優しい口調になり、最後は少し名残惜しそうな顔で春樹を見ていた。
1階に降りてジムワークをこなしていると、間も無く宮田の父が降りて来て、ミットを構え出した。
「高杉、次から3R行けるか?」
「は、はい!お願いします!!」
相変わらずのえげつないミット音は、ジム内の誰もが振り返るほどだ。
宮田の父も思わず唸る。
全く、1戦のみで引退してしまうには惜しい逸材ではあるが、それにしても仕方ない。
命をかけられるほどのものが心になければ、いずれはどこかで上へ上れなくなってしまうから。
「あ・・・ありがとう・・・ございまし・・・た」
「うむ。達者でな」
宮田の父は両手にミットをつけたまま、ポスンと春樹の頭を叩いて激励した。
リングを降りたところで、ちょうど着替えを終えた宮田がロッカールームから出てくるのがわかった。
「あ、宮田さん。こんにちは」
「ああ」
相変わらずクールな対応だ。
今日で最後なのを知っているだろうに、特にそのことについて話しかけて来たりもしない。
毎日毎日、穴があくほど見ていた憧れの人の練習風景・・・
それももう、今日で最後だ。
そう思うと、春樹は自分の練習もおろそかになる程、宮田の一挙一動に釘付けになってしまっていた。
じいっと見られているのを知っていて宮田は、それでもなお無視を決め込んでいる。
そしてやがて、集中状態に入り込み、周りのことは一切見えなくなっていった。
それから1時間ほど経ったころだろうか。
春樹が最後のクールダウンに入ろうと、ストレッチマットを広げているのが目に入った。
宮田はつかつかと春樹の元へ近づいて、マットに座って柔軟を始めた春樹の頭上から声をかけた。
「高杉、グローブつけてリングに上がれ」
「・・え?」
突然のことに驚いて顔を上げる春樹をよそに、宮田も自らグローブをつけて、ロープをくぐってリングに上がった。
「え、ま、まさか・・・スパー・・ですか?」
「早く上がれよ」
「は、はいっ」
春樹は慌ててマットをたたみ、グローブをつけてリングに上がった。
ちょうど、1分間のインターバルを告げるブザーが鳴る。
「あ、あの・・・宮田さん」
「ヘッドギアつけろよ」
「は、はい!」
突然のことで心臓が高鳴って止まらない。
一方で宮田は涼しい顔をしてマウスピースをつけ、その場でステップを確認している。
宮田本人は、ヘットギアはしないらしい。
グローブも一回り大きい10オンスだ。
リング上の2人を見かけて、ぞろぞろとリングの周りに人が集まってくる。
そしてビーッとブザーが鳴り、宮田と春樹のスパーが始まった。