HEKIREKI
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11.甘い考え
デビュー戦をKO勝利で迎えた春樹。
休養を挟んでジムに顔を出すと、コーチや会長、ジムメイトからの祝福が待っていた。
照れながら礼を言い、ロッカーへ向かう。
着替えを済ませてロードワークへ行くと、道の途中でジムに向かう途中の宮田に遭遇した。
「あ、宮田さん。こんちわっす」
「ああ」
目を伏せていつも通りクールな対応をする宮田。
春樹もぺこりとお辞儀をして通り過ぎようとしたのだが、「あっ」と思い出して足を止め、宮田の方を振り返って、声を張り上げた。
「宮田さん、俺こないだの試合、勝ちました!」
「ああ・・・聞いたよ」
試合を見に行ったくせに、そのことを隠すかのように宮田は伝聞形で答える。
春樹は当然そのことを知らないが、それでも自分の勝敗を聞いて知ってくれていたことが嬉しかったようで、犬のようにハシャギ出した。
「宮田さんのおかげで勝てました!」
「オレは何もしてねぇけど」
「いやもう、心の支えなんす!!」
またもゾワゾワと虫の這うような気味悪さが、宮田の背中を伝う。
どうしてこういうセリフを平気で吐けるのか、若さゆえなのか、それとも性格なのか・・・宮田はなんだかめまいがして来た。
「俺・・・宮田さんみたいに・・・なりたいんす!!!」
目を輝かせてまっすぐこちらを見てくる少年。
ただの練習生ならば、それはそれで微笑ましい情景で済まされたものだが…
今や、自分と道を同じくするプロ選手となった少年に、宮田は以前とはまた少し違う感情を持ち始めていた。
理不尽なほどの強打を持つボクサー。
その行き着く先が・・・・オレだって?
宮田は大きな違和感を押しつぶすようにギリリと奥歯を噛んで、やり場のない拳を握りしめて相手を睨みつけた。
「オレみたいになりたくてプロになったのかよ?」
「え?・・・あ、いや、その」
ハッと慌てたように身構えて、下を向きながらモジモジとする春樹がなおさら気に入らなく感じられ、宮田はさらに語気を強めて言い放った。
「そんな甘い考えでリングに上がるんじゃねぇよ」
宮田の冷たい一言を聞いて、いつもならキャンキャンと口答えをして来る春樹が、どういうわけか全く口を開かなくなってしまった。
さすがの宮田も子供相手に言いすぎたかと思い、バツが悪そうに頰を指で引っ掻く。
「・・・じゃあな」
宮田はそのまま振り返ることなく、春樹に背を向けたままジムの方向へ歩き始めた。
いつもなら無神経の塊となって大声で名前を呼びながら追いかけていただろう春樹は、遠くなっていく宮田の背中をただ眺めるしかなかった。
「俺・・・宮田さんになりたいんです」
自分にすら聞こえないほどの小声で再度呟く。
そう。
あの日、あの時の、胸の高鳴りを。
俺は忘れていない。
俺の前に、雷電のごとく現れたヒーロー。
あの時から俺はずっと憧れて、追い続けて。
それで、宮田さんになれたら満足なのか?
宮田さんになる、って何だ?
電光石火のスピード?
華麗なフットワーク?
鮮やかなカウンター?
「どうして俺・・・こんなずんぐりむっくりのインファイターなんだろう」
肉厚でゴツゴツした、まるで岩のような拳をまじまじと見ながら、春樹は大きなため息をついた。
自分がどうあがいても手の届かないものばかりを持つ宮田。
比較をすればするほど虚しくなる。
憧れを追えば追うほど、現実を突きつけられる。
ー宮田さんみたいになりたいー
『甘い考え』と吐き捨てられた夢が、どんどんと色褪せていく気がした。
デビュー戦をKO勝利で迎えた春樹。
休養を挟んでジムに顔を出すと、コーチや会長、ジムメイトからの祝福が待っていた。
照れながら礼を言い、ロッカーへ向かう。
着替えを済ませてロードワークへ行くと、道の途中でジムに向かう途中の宮田に遭遇した。
「あ、宮田さん。こんちわっす」
「ああ」
目を伏せていつも通りクールな対応をする宮田。
春樹もぺこりとお辞儀をして通り過ぎようとしたのだが、「あっ」と思い出して足を止め、宮田の方を振り返って、声を張り上げた。
「宮田さん、俺こないだの試合、勝ちました!」
「ああ・・・聞いたよ」
試合を見に行ったくせに、そのことを隠すかのように宮田は伝聞形で答える。
春樹は当然そのことを知らないが、それでも自分の勝敗を聞いて知ってくれていたことが嬉しかったようで、犬のようにハシャギ出した。
「宮田さんのおかげで勝てました!」
「オレは何もしてねぇけど」
「いやもう、心の支えなんす!!」
またもゾワゾワと虫の這うような気味悪さが、宮田の背中を伝う。
どうしてこういうセリフを平気で吐けるのか、若さゆえなのか、それとも性格なのか・・・宮田はなんだかめまいがして来た。
「俺・・・宮田さんみたいに・・・なりたいんす!!!」
目を輝かせてまっすぐこちらを見てくる少年。
ただの練習生ならば、それはそれで微笑ましい情景で済まされたものだが…
今や、自分と道を同じくするプロ選手となった少年に、宮田は以前とはまた少し違う感情を持ち始めていた。
理不尽なほどの強打を持つボクサー。
その行き着く先が・・・・オレだって?
宮田は大きな違和感を押しつぶすようにギリリと奥歯を噛んで、やり場のない拳を握りしめて相手を睨みつけた。
「オレみたいになりたくてプロになったのかよ?」
「え?・・・あ、いや、その」
ハッと慌てたように身構えて、下を向きながらモジモジとする春樹がなおさら気に入らなく感じられ、宮田はさらに語気を強めて言い放った。
「そんな甘い考えでリングに上がるんじゃねぇよ」
宮田の冷たい一言を聞いて、いつもならキャンキャンと口答えをして来る春樹が、どういうわけか全く口を開かなくなってしまった。
さすがの宮田も子供相手に言いすぎたかと思い、バツが悪そうに頰を指で引っ掻く。
「・・・じゃあな」
宮田はそのまま振り返ることなく、春樹に背を向けたままジムの方向へ歩き始めた。
いつもなら無神経の塊となって大声で名前を呼びながら追いかけていただろう春樹は、遠くなっていく宮田の背中をただ眺めるしかなかった。
「俺・・・宮田さんになりたいんです」
自分にすら聞こえないほどの小声で再度呟く。
そう。
あの日、あの時の、胸の高鳴りを。
俺は忘れていない。
俺の前に、雷電のごとく現れたヒーロー。
あの時から俺はずっと憧れて、追い続けて。
それで、宮田さんになれたら満足なのか?
宮田さんになる、って何だ?
電光石火のスピード?
華麗なフットワーク?
鮮やかなカウンター?
「どうして俺・・・こんなずんぐりむっくりのインファイターなんだろう」
肉厚でゴツゴツした、まるで岩のような拳をまじまじと見ながら、春樹は大きなため息をついた。
自分がどうあがいても手の届かないものばかりを持つ宮田。
比較をすればするほど虚しくなる。
憧れを追えば追うほど、現実を突きつけられる。
ー宮田さんみたいになりたいー
『甘い考え』と吐き捨てられた夢が、どんどんと色褪せていく気がした。