HEKIREKI
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10.プロデビュー
宮田の祝賀会から1ヶ月ほど経ったある日。
春樹がコーチに呼ばれ2階へ行くと、デビュー戦が決まったことを告げられた。
「お、俺が・・・デビュー?」
「相手は2戦2勝のアウトボクサーだ。2戦とも判定勝ちでパンチはなさそうだが、かなりのテクニシャンと聞いている。お前とは相性が悪そうだ」
ただでさえデビュー戦というだけでガチガチに緊張しそうなものなのに、さらに相性が悪いと来た。
緊張にさらに拍車がかかる。
「すまんな高杉、本来ならお前の勝ちやすい相手を探してやるべきだったんだが・・・なかなか相手が決まらなくてな」
「いえ・・・試合させてもらえるだけ嬉しいですから」
「チケットだがな、こないだの銘酒に感動した後援会の皆さんが買ってくれると言っていたぞ。あとで挨拶回りしてこいよ」
「は、はいっ」
失礼します、と頭を下げて会議室を後にする。
小柄な春樹はバンタム級でデビューすることになり、減量もそれほど辛くなさそうだ。
それでも試合が近づくにつれ、少しの節制は必要になる。
今まで好きなだけ食べて飲んでいたのに、辛い練習の後も控えめな食事でウエイトコントロールしなければならない。
こんな軽めの減量ですらお腹が空いて仕方がないのに、宮田さんの減量は・・・・
宮田のことを思えば思うほど、泣き言を言いたくなる自分に喝が入る。
宮田さんはすごい・・・
俺も、宮田さんに追いつきたい・・・
宮田さんの見ている景色が見たい・・・
「あ、宮田さんこんにちは」
「・・・・ああ」
ジム内でシャドウをしていると、今しがた現れた宮田と目が合ったので挨拶をする。
「宮田さん、俺、今度デビュー戦なんす!」
「あ、そう」
「俺、頑張ります!」
宮田はいつも通り、半ば無視するような形だが、春樹は全く気にせずに会話をしていると思い込んでいるようだ。
「宮田さんのデビュー戦はどうでした?」
「コラァ高杉、サボってるんじゃねぇぞ!」
「あ、はい、すいません!」
コーチに怒られて春樹は再びシャドウに専念する。宮田は小さなため息をついて、その場を離れた。
デビュー戦当日。
案の定、ガッチガチに緊張して、そわそわと落ち着かない様子の春樹。
セコンドにはいつものコーチ、さらに宮田の父までもが付き添っていた。
「高杉、緊張しすぎだ、体が冷えているぞ」
「は、は、はい」
そうはいっても、緊張が解けるわけでもなく。
ガチガチのまま入場し、リングサイドに上がる。
やけに眩しいスポットライトとは対照的に、観客席は人もまばらだ。
4回戦のデビュー戦ともなれば、当然だろうが。
ゴングが鳴って、わけがわからぬまま試合が始まる。
相手がこちらに向かってジャブを繰り出してくる。
緊張して体がこわばっているせいか、普段なら避けられるものが避けられない。
「高杉、何してんだ!頭を振れ!」
コーチの怒号が飛んでくる。
1Rはワケがわからぬまま終了した。
コーナーに戻った途端、コーチに頭を叩かれる。
「緊張してんじゃねーよ!」
「まぁまぁ・・・高杉、固くなるのはわかる」
激怒するコーチの横で、宮田父が極めて冷静に声をかけて来た。
「高杉、お前は何を目指してプロになった?」
「・・・え・・?」
「お前がここで試合をしているのは何のためだ?」
ビーッとブザーが鳴り、セコンドアウトが指示される。
「行ってこい、高杉」
宮田の父にバシンと背中を叩かれ、春樹はまっすぐ前を見据えた。
広いリングの上に、目の前に、相手がいる。
憧れの人と同じ舞台に立っている。
相手はアウトボクサーだって?
相性が悪いって?
悪いけど俺は・・・
毎日、極上のアウトボクサーを見ているんだ。
そのスピードと比べたら、お前なんか止まって見えるんだよ!!
緊張のほぐれたあとの試合展開は、一方的だった。
逃げ回るアウトボクサーに対してダッシュで距離を詰め、自慢の強打を打ち込む。
暇そうにぼーっと天井を眺めていた観客が思わずリングに目を見やるほどの、鈍い音が何度も響いて・・
2Rも残り15秒というところで、レフェリーが試合を止めた。
「か、勝ちやがったあの野郎!」
「よくやったな、高杉」
リング上で手を高らかに挙げられる。
パラパラと雨のように拍手が降りて来て、スポットライトの眩しい光がやけに眩しい。
「あ、ありがとうございます!ありがとうございます!」
ペコペコと四方八方にお辞儀をしていると、またコーチに頭を叩かれた。
「わはは、面白い奴がいるな!」
「高校生ボクサーだってよ!」
「礼儀正しいぞ〜!」
笑い声の飛び交うホールの片隅で、ひっそりと、サングラスをかけながら壁に寄りかかってリングを見ている男が1人。
「・・ったく、どこまで似てるんだよ本当に」
ふう、と一息ついて、リングの上で嬉しそうに頭を下げる後輩を見て、苦笑いをする。
勝ち方と言い去り際と言い、幕之内との共通点が多すぎる。
自分がライバルと認めた男に、何かと似ている後輩・・・
なんだかんだでデビュー戦も見に来てしまった自分がいる。
「厄介な性分だぜ、まったく」
この拳がどこまで上を目指せるのか。
この拳がどこまで通用するのか。
ボクシングファンとしての血が騒ぎ始める。
騒がしい喧騒に背を向けて、宮田は会場を後にした。
宮田の祝賀会から1ヶ月ほど経ったある日。
春樹がコーチに呼ばれ2階へ行くと、デビュー戦が決まったことを告げられた。
「お、俺が・・・デビュー?」
「相手は2戦2勝のアウトボクサーだ。2戦とも判定勝ちでパンチはなさそうだが、かなりのテクニシャンと聞いている。お前とは相性が悪そうだ」
ただでさえデビュー戦というだけでガチガチに緊張しそうなものなのに、さらに相性が悪いと来た。
緊張にさらに拍車がかかる。
「すまんな高杉、本来ならお前の勝ちやすい相手を探してやるべきだったんだが・・・なかなか相手が決まらなくてな」
「いえ・・・試合させてもらえるだけ嬉しいですから」
「チケットだがな、こないだの銘酒に感動した後援会の皆さんが買ってくれると言っていたぞ。あとで挨拶回りしてこいよ」
「は、はいっ」
失礼します、と頭を下げて会議室を後にする。
小柄な春樹はバンタム級でデビューすることになり、減量もそれほど辛くなさそうだ。
それでも試合が近づくにつれ、少しの節制は必要になる。
今まで好きなだけ食べて飲んでいたのに、辛い練習の後も控えめな食事でウエイトコントロールしなければならない。
こんな軽めの減量ですらお腹が空いて仕方がないのに、宮田さんの減量は・・・・
宮田のことを思えば思うほど、泣き言を言いたくなる自分に喝が入る。
宮田さんはすごい・・・
俺も、宮田さんに追いつきたい・・・
宮田さんの見ている景色が見たい・・・
「あ、宮田さんこんにちは」
「・・・・ああ」
ジム内でシャドウをしていると、今しがた現れた宮田と目が合ったので挨拶をする。
「宮田さん、俺、今度デビュー戦なんす!」
「あ、そう」
「俺、頑張ります!」
宮田はいつも通り、半ば無視するような形だが、春樹は全く気にせずに会話をしていると思い込んでいるようだ。
「宮田さんのデビュー戦はどうでした?」
「コラァ高杉、サボってるんじゃねぇぞ!」
「あ、はい、すいません!」
コーチに怒られて春樹は再びシャドウに専念する。宮田は小さなため息をついて、その場を離れた。
デビュー戦当日。
案の定、ガッチガチに緊張して、そわそわと落ち着かない様子の春樹。
セコンドにはいつものコーチ、さらに宮田の父までもが付き添っていた。
「高杉、緊張しすぎだ、体が冷えているぞ」
「は、は、はい」
そうはいっても、緊張が解けるわけでもなく。
ガチガチのまま入場し、リングサイドに上がる。
やけに眩しいスポットライトとは対照的に、観客席は人もまばらだ。
4回戦のデビュー戦ともなれば、当然だろうが。
ゴングが鳴って、わけがわからぬまま試合が始まる。
相手がこちらに向かってジャブを繰り出してくる。
緊張して体がこわばっているせいか、普段なら避けられるものが避けられない。
「高杉、何してんだ!頭を振れ!」
コーチの怒号が飛んでくる。
1Rはワケがわからぬまま終了した。
コーナーに戻った途端、コーチに頭を叩かれる。
「緊張してんじゃねーよ!」
「まぁまぁ・・・高杉、固くなるのはわかる」
激怒するコーチの横で、宮田父が極めて冷静に声をかけて来た。
「高杉、お前は何を目指してプロになった?」
「・・・え・・?」
「お前がここで試合をしているのは何のためだ?」
ビーッとブザーが鳴り、セコンドアウトが指示される。
「行ってこい、高杉」
宮田の父にバシンと背中を叩かれ、春樹はまっすぐ前を見据えた。
広いリングの上に、目の前に、相手がいる。
憧れの人と同じ舞台に立っている。
相手はアウトボクサーだって?
相性が悪いって?
悪いけど俺は・・・
毎日、極上のアウトボクサーを見ているんだ。
そのスピードと比べたら、お前なんか止まって見えるんだよ!!
緊張のほぐれたあとの試合展開は、一方的だった。
逃げ回るアウトボクサーに対してダッシュで距離を詰め、自慢の強打を打ち込む。
暇そうにぼーっと天井を眺めていた観客が思わずリングに目を見やるほどの、鈍い音が何度も響いて・・
2Rも残り15秒というところで、レフェリーが試合を止めた。
「か、勝ちやがったあの野郎!」
「よくやったな、高杉」
リング上で手を高らかに挙げられる。
パラパラと雨のように拍手が降りて来て、スポットライトの眩しい光がやけに眩しい。
「あ、ありがとうございます!ありがとうございます!」
ペコペコと四方八方にお辞儀をしていると、またコーチに頭を叩かれた。
「わはは、面白い奴がいるな!」
「高校生ボクサーだってよ!」
「礼儀正しいぞ〜!」
笑い声の飛び交うホールの片隅で、ひっそりと、サングラスをかけながら壁に寄りかかってリングを見ている男が1人。
「・・ったく、どこまで似てるんだよ本当に」
ふう、と一息ついて、リングの上で嬉しそうに頭を下げる後輩を見て、苦笑いをする。
勝ち方と言い去り際と言い、幕之内との共通点が多すぎる。
自分がライバルと認めた男に、何かと似ている後輩・・・
なんだかんだでデビュー戦も見に来てしまった自分がいる。
「厄介な性分だぜ、まったく」
この拳がどこまで上を目指せるのか。
この拳がどこまで通用するのか。
ボクシングファンとしての血が騒ぎ始める。
騒がしい喧騒に背を向けて、宮田は会場を後にした。