第1章:夢追う人
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学祭まであと数日。
「まじでだるいわ、高杉のやつ」
教室のドアを開けるか開けないかの際に飛び込んできたのは、机の上に座ってジュースを飲みながら、ダラダラと話を続けているクラスメイトの姿だった。
「あ、宮田」
「うわーこき使われてる。高杉、最低だな」
「お前も大変だな、宮田ぁ」
下敷きを団扇がわりにパタパタと仰ぎながら、クラスメイトたちは茶化すような言葉を投げかけてくる。
返事をするのもめんどくさい宮田は彼らを無視し、今運んできた道具一式を机の上に広げた。
「適当にやってりゃいいのにさあ。あの熱意?なにあれ」
「古臭ぇよなぁ」
「青春ごっこが好きなんじゃねぇの?」
「なぁ、宮田もそう思うだろ?」
宮田は作業をしながら「別に」とそっけなく答える。
「他にやることねぇんだろうな、あいつ」
「バカバカしいよな、学祭ごときであんなに熱くなって」
ゲラゲラと笑う同級生の声が、だんだん疎ましく思えてきた。
自分たちは何一つ身を入れて手伝わないくせに、人のことをバカにできる神経がわからない・・・
ふと、宮田は学祭の準備に取り掛かる前の自分を思い出した。
『そんなに青春したいなら一人でやれば?』
奈々を茶化しながら笑うクラスメイトと、同じことを言っていた自分。
そして今、自分はしぶしぶながら学祭の準備に取り掛かっている。
何が面白いのか、和気藹々と準備を進めるクラスメイトを疎ましく感じていたのも事実だが、逆に何もしないくせに熱意を持って作業をしている人間をバカにする奴らも、腹立たしくてならない。
「なんかさ、アイツが嬉々として作ってるこの内装も、蹴り破りたくなってきたわ」
「いいねぇ、やっちまう?」
「宮田、お前パンチ得意だろ?殴って壊しちまおうぜ」
そういってクラスメイトは、まだ乾ききっていない壁のペンキに足蹴りをし、
「うわあ、足跡ついたぁ!」
「ってか上靴にペンキついてんじゃんよ!」
「やべぇよペンキ取れねえじゃん」
大笑いしながら、帰り支度を始めた。
「おい」
宮田は作業する手を止めて、3人を睨む。
「なんだよ宮田。にらみやがって。お前も蹴るか?」
「直せよ」
「はぁ?」
「ちゃんと塗り直してから帰れよ」
宮田の真面目な顔を見て、3人は吹き出しながら続けた。
「宮田ぁ、お前なにその真面目な顔!?」
「お前も高杉の影響受けちゃったの?」
その3人の高笑いは、宮田の真剣な表情の前に、みるみる音を下げていった。
「外野でどうこう言うのはかまわないが・・・」
宮田は教台の上に置いてあったペンキを持ち、相手の眼前に突き出しながら、
「邪魔をするな」
宮田がプロを目指しているボクサーだと言うことは誰もが知っていて・・・
その男に鋭い目線を向けられると、いくら同級生でも、足がすくむ思いがする。
「み、宮田ぁ・・・冗談だよ」
「早く直せよ」
「わ、わかったよ・・・睨むなよ・・」
同級生たちの先程までの不真面目な態度は消えて無くなり、熱心にペンキを塗り直す背中は一段と小さく見えた。
__________________
「あ、宮田。ガムテープ持ってきてくれたんだね」
しばらくして、教室のドアが開いて、奈々が姿を表した。
その刹那、いつもはダラダラと作業もせず遊んでいるクラスメイトが一生懸命ペンキを塗っている姿を見て、奈々は思わず目を丸くした。
「あれ、ペンキ・・・」
「剥がれたから塗り直してる」
「へぇ・・・アイツらがねぇ・・・」
意外そうな顔をしてクラスメイトを眺める奈々の横で宮田は、なぜ奈々をかばうような発言をしたのかと、自分で自分を不思議に思った。
『邪魔をするな』
別に青春が心地良いわけじゃないし、
一生懸命やってるやつを陰でバカにしたってかまわない。
けど・・・邪魔はするな。
プロボクサーを目指しているとよく言われる。
あんな食えない仕事を目指すなんて、バカじゃないかとか。
引退後、五体満足な体で過ごせるとも限らないのに、正気か?とか。
外野が色々言うのは構わない。
でも、お前らに、オレの夢を、目標を、邪魔する権利はない。
ベクトルは全く違うにも関わらず、宮田は自分の境遇と奈々の境遇が、なんだか奇妙に重なっているように思えた。
「まじでだるいわ、高杉のやつ」
教室のドアを開けるか開けないかの際に飛び込んできたのは、机の上に座ってジュースを飲みながら、ダラダラと話を続けているクラスメイトの姿だった。
「あ、宮田」
「うわーこき使われてる。高杉、最低だな」
「お前も大変だな、宮田ぁ」
下敷きを団扇がわりにパタパタと仰ぎながら、クラスメイトたちは茶化すような言葉を投げかけてくる。
返事をするのもめんどくさい宮田は彼らを無視し、今運んできた道具一式を机の上に広げた。
「適当にやってりゃいいのにさあ。あの熱意?なにあれ」
「古臭ぇよなぁ」
「青春ごっこが好きなんじゃねぇの?」
「なぁ、宮田もそう思うだろ?」
宮田は作業をしながら「別に」とそっけなく答える。
「他にやることねぇんだろうな、あいつ」
「バカバカしいよな、学祭ごときであんなに熱くなって」
ゲラゲラと笑う同級生の声が、だんだん疎ましく思えてきた。
自分たちは何一つ身を入れて手伝わないくせに、人のことをバカにできる神経がわからない・・・
ふと、宮田は学祭の準備に取り掛かる前の自分を思い出した。
『そんなに青春したいなら一人でやれば?』
奈々を茶化しながら笑うクラスメイトと、同じことを言っていた自分。
そして今、自分はしぶしぶながら学祭の準備に取り掛かっている。
何が面白いのか、和気藹々と準備を進めるクラスメイトを疎ましく感じていたのも事実だが、逆に何もしないくせに熱意を持って作業をしている人間をバカにする奴らも、腹立たしくてならない。
「なんかさ、アイツが嬉々として作ってるこの内装も、蹴り破りたくなってきたわ」
「いいねぇ、やっちまう?」
「宮田、お前パンチ得意だろ?殴って壊しちまおうぜ」
そういってクラスメイトは、まだ乾ききっていない壁のペンキに足蹴りをし、
「うわあ、足跡ついたぁ!」
「ってか上靴にペンキついてんじゃんよ!」
「やべぇよペンキ取れねえじゃん」
大笑いしながら、帰り支度を始めた。
「おい」
宮田は作業する手を止めて、3人を睨む。
「なんだよ宮田。にらみやがって。お前も蹴るか?」
「直せよ」
「はぁ?」
「ちゃんと塗り直してから帰れよ」
宮田の真面目な顔を見て、3人は吹き出しながら続けた。
「宮田ぁ、お前なにその真面目な顔!?」
「お前も高杉の影響受けちゃったの?」
その3人の高笑いは、宮田の真剣な表情の前に、みるみる音を下げていった。
「外野でどうこう言うのはかまわないが・・・」
宮田は教台の上に置いてあったペンキを持ち、相手の眼前に突き出しながら、
「邪魔をするな」
宮田がプロを目指しているボクサーだと言うことは誰もが知っていて・・・
その男に鋭い目線を向けられると、いくら同級生でも、足がすくむ思いがする。
「み、宮田ぁ・・・冗談だよ」
「早く直せよ」
「わ、わかったよ・・・睨むなよ・・」
同級生たちの先程までの不真面目な態度は消えて無くなり、熱心にペンキを塗り直す背中は一段と小さく見えた。
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「あ、宮田。ガムテープ持ってきてくれたんだね」
しばらくして、教室のドアが開いて、奈々が姿を表した。
その刹那、いつもはダラダラと作業もせず遊んでいるクラスメイトが一生懸命ペンキを塗っている姿を見て、奈々は思わず目を丸くした。
「あれ、ペンキ・・・」
「剥がれたから塗り直してる」
「へぇ・・・アイツらがねぇ・・・」
意外そうな顔をしてクラスメイトを眺める奈々の横で宮田は、なぜ奈々をかばうような発言をしたのかと、自分で自分を不思議に思った。
『邪魔をするな』
別に青春が心地良いわけじゃないし、
一生懸命やってるやつを陰でバカにしたってかまわない。
けど・・・邪魔はするな。
プロボクサーを目指しているとよく言われる。
あんな食えない仕事を目指すなんて、バカじゃないかとか。
引退後、五体満足な体で過ごせるとも限らないのに、正気か?とか。
外野が色々言うのは構わない。
でも、お前らに、オレの夢を、目標を、邪魔する権利はない。
ベクトルは全く違うにも関わらず、宮田は自分の境遇と奈々の境遇が、なんだか奇妙に重なっているように思えた。