第4章:一喜一憂
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「ねぇ聞いた?」
「あー、あれ?聞いた。びっくりだよね」
女子更衣室は噂の宝庫。
体育が終わり着替えをしているところに、次に授業するクラスの生徒が入り込んで来て、更衣室内は一層と女子の匂いにあふれている。
「今年は全拒否かと思ったら、本命のは受け取るんだぁ」
「っていうか、本命以外お断りなんだよきっと」
「えー!宮田って結構硬派!」
あまりなじみのない、同学年だがフロアの違うクラスの生徒の会話に、奈々は思わず胸がドキリとざわついた。
話の端々から想像するに、宮田のバレンタインの話に違いない。
まさか、自分が宮田にチョコをあげたことが、他の人にバレてしまったのか・・・?
「ねえ奈々遅れるよ?早く着替えなよ」
「あ、うん」
ミズキが大きな声で自分を呼ぶので、噂の張本人である自分の存在が、今まさに噂話をしている彼女たちに気付かれるのではないかと、奈々は一瞬肝が冷えた。
しかし、噂話をしている当本人たちは、奈々を少しも気にすることなく、相変わらずダラダラと着替えをしながら話を続けている。
「やっぱり、中学から一緒だもんね〜」
「胸もデカいし、そこそこ可愛いもんね〜」
先ほどまで、自分の話をされているのだと思って冷えていた肝が、新情報の襲来によって全く別方向に冷えていくのを感じた。
これは、自分の話では・・・・ない。
「みんなの断ってたのに、1つだけ受け取ったってことは、つまりもうOKってことじゃない?」
「“今年は1つだけって決めてた”とか言ってたらしいよ?」
「わ〜、キザすぎてむしろ引く〜」
どこかで聞いたことのあるセリフが飛んで来た。
と同時に、熱くてドロドロしたものが、胃の中から湧き出てくるのを感じた。
受け取ったのは、私のだけじゃないってこと?
同じこと、他の人にも言ってたの?
“宮田はすんごい女好き”
またしても、嫌な単語が頭を駆け巡る。
「ちょっと、早くぅ!」
すっかり着替えを終えたミズキが、更衣室のドア前で声を張り上げる。
「もー、先行っちゃうよぉ?」
「うん・・・行ってて」
ミズキの方を振り返る余裕もなく、奈々はただ頭を駆け巡る様々な感情に涙腺を刺激されないよう、呼吸を止めるのに精一杯だった。
どういうことなの?
一体・・・何がしたいの?
宮田・・・
私のこと、なんだと思ってるの?
気がつけば、更衣室には自分1人。
乾いたチャイムの音が、頭上に響いた。