第4章:一喜一憂
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「・・・よぉ」
奈々が歩いて近づいてくるのを待っているかのように、宮田は足を止めて振り向いたままだ。
奈々は小走りで宮田の元へ駆け寄っていく。
「宮田・・・ジムに行くの?」
「ああ」
頭に浮かんだ疑問が、そのまま推敲を経ずに口から流れ出ていく。
「お父さんと映画は?」
そう、宮田は毎年、クリスマスには父親と映画を観に行くと言っていた。それゆえ、奈々はてっきり、宮田は今日は父親と出かけたものだと思っていたのだ。
しかし、宮田の返答は予想とは全く異なっていた。
「もう、プロになったからな」
奈々が自分の隣へ追いついたのを確認すると、宮田はまたゆっくりと歩を進めて呟いた。
「昔みたいにはいかねぇよ」
「そ、そっか・・・」
残念そうな顔を浮かべた奈々を見て、宮田が思わず苦笑する。
「なんだよ」
「だって・・・素敵な恒例行事だと思ってたから」
奈々は口を尖らせて、長い溜息をつく。
「お前は買い物か?」
「あー、うん。駅前のスーパーまで」
なんて事のない会話が続く。
今日は冬休みの2日目にして、クリスマス・イブ。
学業も何もかもを忘れ、恋人たちが楽しく過ごす夜。
思わず空を見上げる。
ミズキは今頃、彼と一緒に過ごしてるのかなぁ。
そしてチラりと横を見る。
好きになってしまった、クラスメイトがいる。
「今日・・・宮田に会えるとは思わなかったな」
ぼそりと口をついて出てきた言葉。
それを聞いた宮田が、少し驚いたような顔をしているのを見て、初めて自分が何を言ったか自覚した。
「あ!!ち、違う!“会える”じゃなくて!会う!!会うとは思わなかった!!」
慌てて否定すればするほど、顔が赤くなっていく気がする。
「な、なによ!別に変なこと言ってないけど!」
「別に何も思っちゃいねぇよ」
宮田は少し目を細めて、呆れたように答えた。
それから、妙に気まずくなった二人は急に口を閉ざし、ただ靴が地面を蹴る音だけが外壁に響いてこだまする。
奈々は自分の“失言”に、頭を抱えたいほどの恥ずかしさを覚えていたが、冷静を装うのに必死でただ数百メートル先にあるスーパーの看板を遠目で見るしかなかった。
「サンタクロースなんて・・・」
沈黙を破るように、宮田が前を見たまま呟く。
「信じたことはねぇけどさ」
「・・ん、ん?」
混乱する奈々の横で、宮田は口角をかすかに上げて、続けた。
「実はいるのかもしれないな」
宮田の不思議な独り言に、奈々はただただ大きなハテナマークを頭に浮かべて固まる。
「どうしたの急に」
「別に」
宮田はちらりとこちらを見て、少し意地悪そうに笑うだけだった。
「暗くなってきたから気をつけて帰れよ」
意味不明の発言を受けて固まり続ける奈々の頭を、宮田はまたポンと叩いて何も言わずに去っていった。
「・・・・サンタクロース・・・ねぇ・・・」
吐く息は相変わらず白いが、寒さに震えていた指先はいつの間にか、赤く熱くなっていた。