第9章:遠回り
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自宅から徒歩10分のところにある本屋。
宮田が海外から戻って来た後、初めて再会した場所でもある。
実は、足を踏み入れるのは、あの時以来。
相変わらず自動じゃないドアを開けて、中に入る。
宮田の姿はまだない。
目につくところにいようと思い、店を入ってすぐの新刊コーナーで、パラパラと小説などをめくっていると、すぐにドアが開いて、振り返ると宮田が立っていた。
クリスマス以降、一度電話で話したきり。
3ヶ月ぶりに見る宮田は、試合前とあってか、かなり疲れてそうな、正気のない顔をしていた。
「来てもらって悪いな」
そう言って、ポケットから二つ折りにした封筒を取り出し奈々に手渡す。
「あ、じゃあこれお金」
奈々もコートのポケットから封筒を取り出して、宮田に渡した。
「・・・どうもな」
「ごめんね、やっぱり近くで見るのは怖くて・・・」
晴れ舞台なのでリングサイドのVIP席を取ってあげたかったが、宮田の殴られる姿を間近で見る勇気がどうしても出なかった。
「まぁ・・・血とか水とか飛ぶしな。離れてた方がいいぜ」
「そ、そうなの?」
テレビ中継では決してわからない裏側を、サラリと言いのけた宮田。
血はまぁわかるとして、水ってなんだろうと思ったが、具合の悪そうな宮田を前に世間話を長々とする気にはなれなかった。
「じゃあ・・・練習、頑張ってね」
「ああ」
宮田も余裕がないのだろう。
もともと愛想よく微笑むタイプではないのもあって、今日もいつものように無愛想に返事をする。
「私、ついでに本探して帰るから」
「・・じゃあな」
宮田がくるりとドアの方を向いて、帰ろうとした時だった。
奈々はふっと思いつき、背中に向かって言葉を投げた。
「きっと……きっと宮田は、チャンピオンになるよ」
宮田は振り返らなかったが、静かに拳を上げて応えた。
そして、桜が散り、緑の葉っぱが芽生え、季節が夏を迎える準備を始めようとしている4月末。
宮田の、東洋太平洋タイトルマッチが行われた。
順調にダウンを奪い楽勝かと思われた1Rから、逆にダウンを奪われる急展開を見せた2R。
1秒たりとも目が離せない試合を制したのは、宮田だった。
大きなガッツポーズを作り、全身で喜びを表した宮田に、会場中が湧く。
普段、感情を表に出さないタイプなのはファンの人間も良く知っていて、だからこそこのパフォーマンスには多くの人たちが感動した。
チャンピオンベルトを巻いた宮田の姿。
奈々は不思議と、それが当たり前のような、既視感めいたみたいなものを受けずにはいられなかった。
ああそうだ。
私はこの姿をずっと、知っていた。
“きっと宮田はチャンピオンになるよ”
そう言った、あの日から。