第1章:夢追う人
お名前設定はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
学祭まであと数日。
たった1週間の約束とはいえ、非常に長く感じるのは、この1週間がいわゆる「学祭準備期間」と称して、午後からの授業が全てなくなり、準備期間に当てられているせいだろう。
ジムには学校準備が終わってから夜遅く顔を出しているので、トレーニングができていないわけではないが、いつものルーティーンが叶わず調子が狂う面もある。
それにしてもたった何日かしか働いていないにも関わらず、
「宮田ぁ、これどこに置くんだ?」
「Bの棚の上」
「宮田くん、借りてきたポットの電源って…」
「延長コードを使う」
いつのまにか、宮田に指示を仰ぐ人まで出てくる始末。
クラスメイトの中にはこっそりと準備を抜け出して帰る人もいる。
しかし宮田はこの数日で業務の中核を手伝ってしまったらしく、抜けるに抜けられない状態になってしまった。
「あ、宮田くん!ちょっと」
奈々に呼ばれて宮田が作業の手を止める。
「昨日言ってた配膳の流れだけどさ・・・」
「何でお前がオレに相談するんだよ」
「だって、宮田のアドバイスって結構的確なんだもん」
お店の見取り図を広げながら二人で話し合っているところを、周りは物珍しそうに見ていた。
「なんか喉乾いたな。ちょっとジュース買いに行かない?」
「オレはいい」
「えー。付き合い悪いなぁ、宮田。行こうよぉ」
「・・・」
確かに少し喉が渇いたと思った宮田は、流されるままに奈々についていく。
1階の食堂には3種類の自販機が置いてあって、宮田はそこから牛乳を、奈々は果物ジュースをそれぞれ買った。
「宮田ってさぁ」
「なんだよ」
「ボクシング、強いんだってね。男子が言ってた」
奈々は一口飲んで、さらに続ける。
「今更だけど、練習の邪魔してごめんね」
「おせぇよ」
「でもさ、宮田ってあれだね。選ばれた人なんだろうね」
「・・・は?」
宮田も一口飲んで、奈々の次の言葉を待った。
「みんな、何かに夢中になるけど、結果を出せるのはその中のほんの一握りじゃない?宮田は選ばれた人なんだと思うよ」
「まだデビューもしてない練習生が、選ばれたもクソもねぇだろ」
宮田は半ば呆れながら、残りの牛乳を飲み干す。
「いや、きっと宮田はチャンピオンになるよ。そんな気がする」
遠目でどこかに思いを馳せるような、ドラマチックな言い方をする奈々を見て宮田は少し笑って答えた。
「オレもそう思ってるけどね」
「あ、言うねぇ!」
奈々は宮田の腕をパシンと叩いて笑った。