第8章:新しい恋
お名前設定はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あの日のことは、ミズキには言えなかった。
後悔してる、だなんて・・・
綺麗になったな、だなんて・・・
ただの社交辞令に決まってる。
彼女が試合を見にきていたじゃない。
だからきっぱり忘れるって、約束したじゃない。
いつまでも未練がましい自分が嫌い。
忘れられないのを理由に、過去にしがみついている自分が嫌い。
こんな自分を変えたい。
季節は巡り。
いつの間にかもう、冬。
「奈々ちゃん、僕と付き合ってくれませんか?」
サークルの飲み会の帰り。
少し遅くなったから、と帰る方向が同じ男子学生が家まで送ってくれると言い出した。
駅を降りて、自宅に向かう途中の道で、突然言われた告白。
男性に愛を告白されたのは、これが初めてだった。
困惑して固まる奈々の表情を見て、相手は慌てたように続ける。
「あ、今すぐ返事が欲しいとは思ってない!」
「・・・・でも・・」
「まずは友達からでいいんだ。もう少しお互いのこと、理解してみませんか?」
ほんわかとした雰囲気の、メガネをかけた優しい男性。
プロボクサーであり、とっつきにくい性格の宮田とは正反対のタイプだ。
「じゃ、じゃあ・・・友達から・・」
しどろもどろで返事をすると、相手は少し頰を紅潮させて、
「や、やったぁ・・・!じゃあ、また電話します!ありがとう!」
奈々の自宅前までついた後、奈々が家に入るまでずっと手を振りながら見届けてくれた。
バタン、と玄関を閉じて2階に上がると、弟が廊下に立っていた。
「ねーちゃん、さっきの彼氏?つーか彼氏変えたの?」
「・・・彼氏じゃないし、変えてもいないけど。何、見てたの?」
「前の彼氏の方が、カッコよかったのに。フラれたの?」
「う、うるさいな。彼氏じゃないし。アンタに関係ないでしょ」
憎たらしい弟に悪態をついてドアを閉める。
カバンを床に無造作に置いて、ベッドに寝転ぶ。
告白されたと言うのに、まるでドキドキ感がない。
この状態をなんと言うのだろう。
宮田には、頭をポンポンと叩かれただけで、一晩中モヤモヤさせられたのに。
「友達から・・・かぁ」
________________________
宮田は、ジムから自宅まではいつも徒歩で通っている。
冬は風が冷たいが、練習後の火照った体をクールダウンするにはちょうどいい距離だ。
赤信号を待っている間に、なぜかふと、目の前の車が目についた。
一瞬、何か見覚えのある顔が視界に入った気がしたからだ。
少し顎を上げて、車の中を遠目で見てみる。
助手席に、運転席の男性と楽しく話をしている、奈々の姿が見えた。
見間違いではないかと思ったが、何度見ても、奈々本人に間違いはなさそうだ。
ふと腕時計に目をやる。
時間は22時近くを指している。
車で、これから自宅に送るところなのだろう。
きっと相手は、健全で、優しい男に違いない。
良かったな、と喜ぶべきところなのだろうか。
それとも・・・・
久々に見たアイツの笑顔は、自分に向けられたものではなかった。
それならばいっそ、忘れたままの方が良かった気がした。
よそを向いている笑顔が、頭から離れなくなって・・・
自分がしたことの意味とその結果を、改めて見せつけられてしまった。