第7章:未練と決別
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宮田のKO勝利で幕を閉じた試合の後。
まだ次の試合が残っていたが、帰りが遅くなりそうだったので、宮田の試合だけを見て帰ることにした。
他にも、宮田目当てと思われる女性客がちらほらと、席を立って出て行くのが見えた。次の選手に申し訳ない気持ちになりながらも、自分も後について行く。
“その辺のキャーキャー言ってる人たち”
「本当だ」
小さく自嘲気味に呟く。
自分はボクシングのことは何も知らない。
他の選手を応援する気持ちもなくて、ただ宮田のことだけを見に来て。
“応援している”といえば聞こえはいいが、実際はただのミーハーだ。
「いつまでこうなんだろ、私」
ビルの外に出ると、ふっと強い風が吹き込んで来た。
細かい砂埃が舞ってきて、思わず目を瞑る。
パンパン、とコートの埃を払って、再び歩き出そうとした目の前に、今日、見なくてホッとしたはずの人物が立っていた。
「高杉さん」
「あ・・あなたも・・・来てたの」
「当然でしょう?」
例の宮田の彼女だ。
ホールの前までは来ていたようだが、中では確かに見かけなかった。
何度も何度も頭をキョロキョロさせて見たのだから、間違いない。
「試合は見なかったの?」
「・・・一郎くんと喧嘩しちゃって、入りづらかった」
「そう・・・」
“彼女”を目にして奈々はミズキの顔を思い浮かべた。
『もし、今日・・・例の彼女が来てたら、諦める』
自分で言った言葉だ。責任を取らなきゃ。
これはもう、諦めろ、忘れろ、というメッセージなんだ。
「っていうか、あなたまだ一郎くんを追いかけてたの?手を出さないでって言ったじゃない」
嘲笑うようにして、妙な上から目線で話しかけてくる。
前々から嫌味な女だとは思っていたが、久々に会ってもそれは変わらないどころか、ますます度を増していた。
「・・・手は出してないわよ。出されたけど。」
苛立ちながら、ボソリと反論する。
「ど、どういう意味!?」
「あ、聞こえた?」
「手を出されたってどういう意味よ!?一郎くんがそんなことするはずないでしょ!」
相手がどんどんヒートアップしていくと、不思議と自分はだんだん冷静になってくるものだ。
どうせこれが最後、と思い、奈々は相手の言葉を遮るように、やや怒鳴り気味で答えた。
「アンタの彼氏の方が勝手にキスしてきたんです!!もう金輪際、近づかないから安心してください!!さようなら!!!」
奈々の叫びを聞いて、“彼女”は雷にでも打たれたかのように目を見開いて固まってしまった。
奈々はそのまま早足で相手の前を通り過ぎ、後ろを一度も振り返ることなく、帰路へついた。