第7章:未練と決別
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あれから1年とちょっと。
4月になって。
悩みに悩んだ末に、買ってしまったチケット。
宮田一郎の、凱旋帰国、1戦目。
「自分を振った男の試合なんて、普通見る?」
後楽園ホールにほど近い喫茶店で、ミズキはコーヒーを飲みながら、呆れて言った。
「わかってるの?アンタは振・ら・れ・た・の!」
「あ〜もう、わかってる・・・もういいの、私は選手のファンってことにしてよ!」
頭を抱えて逃げるように言った奈々に、ミズキはさらに冷たい言葉を投げかける。
「じゃ、アンタもその辺のキャーキャー言ってる人たちと同じってことね」
「・・・意地悪言わないでよ」
「言いたくもなるよ。なんであたしの大事な奈々が、あんな女好きに苦しめられ続けなきゃいけないの?正直、もう忘れてほしい!」
「私だって、できることならそうしたいよ・・・」
「じゃ、もう見に行くのやめなよ!!」
ミズキが本気で心配して、本気で怒っているのは十分伝わっている。
「もし、今日・・・」
「ん?」
「例の彼女が来てたら、諦める」
「・・・約束してね?」
「うん、する」
二人の飲み物が空になり、外も暗くなって来た頃だった。
奈々がチラリと時計を見ると、ミズキはゆっくり立ち上がり、
「時間ね。行ってらっしゃい」
「うん・・・いつも、ありがと」
ミズキはボクシングにまるで興味がないので会場には行かないが、試合の前はいつもこうやってお茶に付き合ってくれていた。
「これも・・・今日で最後かもしれないね」
チケットを握りしめながら、目の前の後楽園ホールを眺めて、奈々は一人でポツリと呟いた。
会場に入ってあたりを見回す。
相変わらず、女性の姿が多く見られた。
しかし、例の彼女の姿は見られない。
高校の時は毎回毎回、試合を見に来ていたのに。
てっきりいるものだと思っていた奈々は少し拍子抜けしながら、心のどこかでホッと喜んでいる自分がいるのを知った。
と同時に、二人の間に何があったのか?と心配になる自分もいた。
「宮田ぁ!待ってたぞぉ!」
「宮田くんおかえりぃー!勝ってねぇ!」
宮田の試合が始まるアナウンスがかかり、花道を歩くかあるかないかのうちに、会場中から老若男女問わずの歓声が湧き上がる。
海外戦績11戦10勝1分、という輝かしい記録を引っさげて、文字通りの“凱旋”に、往年のファンもこの日を待ちわびていたという感じだ。
花道を通る宮田の姿が見えた瞬間、錆び付いていた心臓が動き出したかのように、大げさな鼓動を立て始めた。
ああ、少したくましくなった気がする。
大人っぽい顔になってる気がする。
相変わらず無愛想なところは変わらなくて、でも凛々しいところはそのまま。
・・・なんて、きっとこの会場にいる女性ファンがみな、同じく思っているところだろう。
“アンタもその辺のキャーキャー言ってる人たちと同じ”
ミズキに言われた言葉が頭をかすめる。
そう、その通り。
私はもう、ただの1ファンでしかない。
それでもいい。というか、それしかないや。
宮田がチャンピオンになって、夢を叶えるまで、応援し続けたい。
それがどんな形であれ。
あれから1年とちょっと。
4月になって。
悩みに悩んだ末に、買ってしまったチケット。
宮田一郎の、凱旋帰国、1戦目。
「自分を振った男の試合なんて、普通見る?」
後楽園ホールにほど近い喫茶店で、ミズキはコーヒーを飲みながら、呆れて言った。
「わかってるの?アンタは振・ら・れ・た・の!」
「あ〜もう、わかってる・・・もういいの、私は選手のファンってことにしてよ!」
頭を抱えて逃げるように言った奈々に、ミズキはさらに冷たい言葉を投げかける。
「じゃ、アンタもその辺のキャーキャー言ってる人たちと同じってことね」
「・・・意地悪言わないでよ」
「言いたくもなるよ。なんであたしの大事な奈々が、あんな女好きに苦しめられ続けなきゃいけないの?正直、もう忘れてほしい!」
「私だって、できることならそうしたいよ・・・」
「じゃ、もう見に行くのやめなよ!!」
ミズキが本気で心配して、本気で怒っているのは十分伝わっている。
「もし、今日・・・」
「ん?」
「例の彼女が来てたら、諦める」
「・・・約束してね?」
「うん、する」
二人の飲み物が空になり、外も暗くなって来た頃だった。
奈々がチラリと時計を見ると、ミズキはゆっくり立ち上がり、
「時間ね。行ってらっしゃい」
「うん・・・いつも、ありがと」
ミズキはボクシングにまるで興味がないので会場には行かないが、試合の前はいつもこうやってお茶に付き合ってくれていた。
「これも・・・今日で最後かもしれないね」
チケットを握りしめながら、目の前の後楽園ホールを眺めて、奈々は一人でポツリと呟いた。
会場に入ってあたりを見回す。
相変わらず、女性の姿が多く見られた。
しかし、例の彼女の姿は見られない。
高校の時は毎回毎回、試合を見に来ていたのに。
てっきりいるものだと思っていた奈々は少し拍子抜けしながら、心のどこかでホッと喜んでいる自分がいるのを知った。
と同時に、二人の間に何があったのか?と心配になる自分もいた。
「宮田ぁ!待ってたぞぉ!」
「宮田くんおかえりぃー!勝ってねぇ!」
宮田の試合が始まるアナウンスがかかり、花道を歩くかあるかないかのうちに、会場中から老若男女問わずの歓声が湧き上がる。
海外戦績11戦10勝1分、という輝かしい記録を引っさげて、文字通りの“凱旋”に、往年のファンもこの日を待ちわびていたという感じだ。
花道を通る宮田の姿が見えた瞬間、錆び付いていた心臓が動き出したかのように、大げさな鼓動を立て始めた。
ああ、少したくましくなった気がする。
大人っぽい顔になってる気がする。
相変わらず無愛想なところは変わらなくて、でも凛々しいところはそのまま。
・・・なんて、きっとこの会場にいる女性ファンがみな、同じく思っているところだろう。
“アンタもその辺のキャーキャー言ってる人たちと同じ”
ミズキに言われた言葉が頭をかすめる。
そう、その通り。
私はもう、ただの1ファンでしかない。
それでもいい。というか、それしかないや。
宮田がチャンピオンになって、夢を叶えるまで、応援し続けたい。
それがどんな形であれ。