第7章:未練と決別
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韓国へ着いた宮田は、入国審査と税関を経て、出口のゲートを出た瞬間、ここで遭遇するはずのない人物を目の当たりにし、言葉を失った。
「一郎くん、来ちゃった」
例の、“宮田の彼女”である。
相手がつかつかと寄ってこようとした瞬間、宮田は目を伏せて、相手のことを無視しながらスーツケースを引いて歩き始めた。
「ちょっと、一郎くん!」
慌てて追いかける彼女の後ろで、ゴホンと大きな咳払いをしたのは、宮田の父だった。
「また、君かね」
「あ、おじさま」
「いい加減にしてくれないか」
「すみません・・でも、心配で、会いたくて・・・」
体をしならせて、可憐な少女でも演じているつもりらしいが、その演技はもう川原陣営には見慣れたものになっていた。
「君ね、そういうのを、付きまとい行為っていうんじゃないかい」
マネージャーの木田が、きつめの口調で相手を責めるように言った。
「ジムで無理やり、あの手この手を使って、こちらのスケジュールを問いただしたそうじゃないか。もういい加減、こちらも法的措置を考えているよ」
「法的措置だなんて!私たち、付き合ってるんですよ?」
「一郎からそんな話を聞いたことは、ただの一度もないよ」
宮田の父親がそう言っても、“彼女”は全く聞き耳を持たずに、引き裂かれたヒロインを演じ続けて(実際にそう思い込んでいるのかもしれないが)、はらはらと涙を流した。
「一郎くん、お父様たちになんとか言って!私たちは愛し合ってるって!」
「・・・・」
遠くでしばし3人のやり取りを見ていた宮田だったが、再び足を早めて、迎えの車が停まっている出口まで歩き出した。
「照れているのね?一郎くん!待ってよ、待って・・・」
「ほら、もうやめなさい!警察を呼ぶよ!?」
「一郎くん!一郎くん!!」
車に乗り込んだ一行は、先ほどの“彼女”が追ってこないところを見て、ふぅっと安堵のため息をついた。
「父さん、木田さん・・・すいません」
「いやいや、一郎くんに落ち度はないよ!もうあの子は警察に任せるしかないね」
「しかし・・・凄い執念だな。お前本当に、手ェ出してないだろうな?」
「だから何度も言ってるだろ・・・とっくに振ってるし、そもそも手なんか出すはずがない」
「うむ・・・じゃあどうしてあんな風に・・・」
「こっちが知りたいよ」
ハァとため息をついて、宮田は窓の外の景色を眺める。
ついこの間まで、タガログ語の看板を眺めていたのに、今日からはハングル。
どちらも、何が書いてあるのかサッパリだ。
敗戦後、怪我でトレーニングができず、空いた時間で英語の勉強に打ち込んだが、タイでも韓国でも使う機会がなさそうだ。
「父さん、次の試合、もう決まってるんだったよね?」
「ああ、月末だ」
「一郎くん、体の調子はどうだい?」
「・・・問題ないです」
たとえ問題があったとしても、やるしかない。
「あの子のことは、我々の方で処理しておくから。一郎くんは、試合に集中してくれていいからね」
木田が、いつもの優しい口調で宮田に伝えると、宮田はハッと目を見開いてから、ふっと笑って
「忘れてました」
と言った。
宮田父は、息子の隣に座りながら、鋭利な刃物を突きつけられているような鋭敏なオーラを感じずにはいられなかった。
韓国へ着いた宮田は、入国審査と税関を経て、出口のゲートを出た瞬間、ここで遭遇するはずのない人物を目の当たりにし、言葉を失った。
「一郎くん、来ちゃった」
例の、“宮田の彼女”である。
相手がつかつかと寄ってこようとした瞬間、宮田は目を伏せて、相手のことを無視しながらスーツケースを引いて歩き始めた。
「ちょっと、一郎くん!」
慌てて追いかける彼女の後ろで、ゴホンと大きな咳払いをしたのは、宮田の父だった。
「また、君かね」
「あ、おじさま」
「いい加減にしてくれないか」
「すみません・・でも、心配で、会いたくて・・・」
体をしならせて、可憐な少女でも演じているつもりらしいが、その演技はもう川原陣営には見慣れたものになっていた。
「君ね、そういうのを、付きまとい行為っていうんじゃないかい」
マネージャーの木田が、きつめの口調で相手を責めるように言った。
「ジムで無理やり、あの手この手を使って、こちらのスケジュールを問いただしたそうじゃないか。もういい加減、こちらも法的措置を考えているよ」
「法的措置だなんて!私たち、付き合ってるんですよ?」
「一郎からそんな話を聞いたことは、ただの一度もないよ」
宮田の父親がそう言っても、“彼女”は全く聞き耳を持たずに、引き裂かれたヒロインを演じ続けて(実際にそう思い込んでいるのかもしれないが)、はらはらと涙を流した。
「一郎くん、お父様たちになんとか言って!私たちは愛し合ってるって!」
「・・・・」
遠くでしばし3人のやり取りを見ていた宮田だったが、再び足を早めて、迎えの車が停まっている出口まで歩き出した。
「照れているのね?一郎くん!待ってよ、待って・・・」
「ほら、もうやめなさい!警察を呼ぶよ!?」
「一郎くん!一郎くん!!」
車に乗り込んだ一行は、先ほどの“彼女”が追ってこないところを見て、ふぅっと安堵のため息をついた。
「父さん、木田さん・・・すいません」
「いやいや、一郎くんに落ち度はないよ!もうあの子は警察に任せるしかないね」
「しかし・・・凄い執念だな。お前本当に、手ェ出してないだろうな?」
「だから何度も言ってるだろ・・・とっくに振ってるし、そもそも手なんか出すはずがない」
「うむ・・・じゃあどうしてあんな風に・・・」
「こっちが知りたいよ」
ハァとため息をついて、宮田は窓の外の景色を眺める。
ついこの間まで、タガログ語の看板を眺めていたのに、今日からはハングル。
どちらも、何が書いてあるのかサッパリだ。
敗戦後、怪我でトレーニングができず、空いた時間で英語の勉強に打ち込んだが、タイでも韓国でも使う機会がなさそうだ。
「父さん、次の試合、もう決まってるんだったよね?」
「ああ、月末だ」
「一郎くん、体の調子はどうだい?」
「・・・問題ないです」
たとえ問題があったとしても、やるしかない。
「あの子のことは、我々の方で処理しておくから。一郎くんは、試合に集中してくれていいからね」
木田が、いつもの優しい口調で宮田に伝えると、宮田はハッと目を見開いてから、ふっと笑って
「忘れてました」
と言った。
宮田父は、息子の隣に座りながら、鋭利な刃物を突きつけられているような鋭敏なオーラを感じずにはいられなかった。