第7章:未練と決別
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毎月毎月、自分でもバカじゃないかと思うほど。
本屋に寄っては、立ち読みをしてしまう「月刊ボクシングファン」。
別にボクシング自体のファンでもないのに、1つの記事すら見逃したくなく、1ページずつ丁寧に拾って行く。
買えばいいものを、家には置きたくないという、謎の意地もあったりするのだ。
4月号、5月号、6月号、と何も載っていなかったので、今月は・・・と期待してページをめくっていくと・・・
小さいコラムの、小さい写真付きで、「痛恨のドロー」と書かれているのを発見した。
「ど、どろー?」
穴があくほど見返してみても、結果は同じ。
まさか、宮田が、負けはしなかったけど引き分けだなんて・・・。
記事を読んでみると2回もダウンを奪っておきながら、ドロー判定。外国では、地元びいきの判定をされることがよくあるらしいが、ここまで露骨だとは。
「奈々、何読んでるのぉ?」
「うわぁっ」
本屋で待ち合わせしていたことをすっかり忘れていた。
耳に息を吹きかけられ、驚いて振り返ると、そこには大学生らしく化粧を施したミズキが立っていた。
奈々が手にした雑誌を見て、ニヤリと笑う。
「ふーん・・・」
「な、なによ・・・いいじゃない見るくらい」
「別にいいけどさぁ」
卒業式のあの一件。
もちろん、ミズキには話していた。
というか、様子がおかしいことを見抜かれ、根掘り葉掘り問いただされたのだった。
てっきり、宮田と両思いだと思っていたミズキは、彼女の存在にも宮田の態度にも、どちらも大激怒し、一時期は「宮田」という単語すら聞きたくないほど嫌悪していた。
「合コンでも行って、忘れよ?」
「・・・あんた、たっくんはどうしたの?」
「バカね、たっくんに幹事してもらうのよ」
私たちは花の女子大生。
本命だった国立大学には落ちてしまったが(腑抜けた勉強をしていたので当然か)、私立にはどうにか受かって、学校は違うがたまにこうして一緒に遊んだりしている。
今までも何度か友人やサークル仲間に誘われ「合コン」というものに参加はしてみたものの・・・どうしても宮田のことが忘れられず、次の段階へ進むことができなかった。
周りは新しい恋や、新しい出会いを満喫しているらしい。
自分も、電話番号を聞かれたり、デートに誘われたりしたことがないわけではないが・・・
頭の中に住み着いた人物を、どうしても追い出せない。
そして1ヶ月後。
やっぱり我慢できずに、こっそり開いてみた新発売の8月号。
宮田が地元の英雄に逆転KOで勝利したという記事が載っていた。
長かった再起。
今までどれだけの苦労を重ねて来たのか・・・
奈々は心から、素直に嬉しく思った。
「何してるのかなぁ」
7月。
遊園地に行き、水族館に行った、あの夏がまた来た。
空は青く澄んで、どこまでも遠くへ広がり、宮田のところまで続いている・・・
そう思ってすぐに、思考回路を遮断する。
もう、終わった恋だ。
そろそろ、前へ進まなきゃ。