第6章:失恋
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「必要がなければ言わないの?」
「・・・何が言いたい?」
「いつもそうだよ。宮田は何も話してくれない」
「・・・」
「宮田の気持ち、全然わかんないよ」
震えがちな声で、絞り出すように奈々がポツリポツリと話す。
宮田は黙って、奈々の方をじっと見ている。
そしてフッと小さく、苛立ちを込めたため息をついて、
「惑わすな、って言ったのはお前だろ」
「・・・そうだよ」
「じゃあ、言う必要ねぇだろ」
「・・・そうだね」
地面に落ちた水滴で、アスファルトの色が変わる。
ぐっと拳を握りしめたまま、水滴の出所を拭う。
「でも・・・す・・す・・・」
「す?」
「水族館で・・キスとか・・しておいて・・・」
「・・・!」
「それでも、私に関係ないって言うの?」
宮田は小さなため息をついた後、奈々の手を掴んで、人気のない路地の方へ強引に引っ張って行った。
「離してよ!」
「いいから来いよ。あんなところで話せるかよ」
引っ張られた手は熱く火照り、涙を拭うもう一つの手は異様に冷たい。
1ブロックほど離れたところで宮田は再び足を止めて向き合った。
「とにかく落ち着けよ」
「・・・どうして」
「なんだよ」
「私はどうして、宮田が好きなんだろう」
思いがけない言葉に面食らったように、宮田は目を見開いて固まった。
最後の方は、言葉になっていなかったかもしれない。
思わずこぼれ落ちていった、情けない独白に似た告白。
言い終わると、相手が目の前にいるのも忘れて、両手で顔を覆ってしまった。
「オレは・・・」
宮田はしばし沈黙して、それからくるりと背を向けて、はっきりと告げた。
「お前の気持ちには、答えられない」
予期していたような、予期していなかったような答えが返ってきた。
現実味がなくて、ふわふわと空の上を漂っているような気がする。
「すまない」
ひんやりと、ほおを撫でたのは、ひとひらの雪。
そしてそれから、暖かい血にも似た涙が、その跡を伝って行く。
何も考えていなかった結末。
どう始めて、どう終わろうか、シナリオすらなかった初恋。
温めすぎて腐りかけていた感情が、漏れて。
どろどろの悪臭に、相手が逃げていった、のかもしれない。
こんな終わりってあるんだっけ。
私が築いてきた、私が抱いてきた時間や想いって、
こんな4文字の言葉に負けるほど、軽かったんだっけ。
春の雪は、水を含んで重く、そして体を心底冷やす。
私もこのまま溶けてしまいたいと強く思った。