第1章:夢追う人
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「おい、宮田」
中休み、廊下を歩いていた宮田はふと担任に呼び止められ、足を止めた。
「お前、学祭の準備サボってるんだってな」
「・・・はい」
担任の言葉から、直感的に奈々が告げ口をしたのだと把握した宮田は、少し面白くなさそうな態度で返事をした。
「来年からプロになるのは分かるけど、お前だけ特別扱いするわけにもいかない。あと1週間だけだから、少しでも出てくれるか?」
「わかりました」
「そうか、じゃあ頼んだぞ。そもそも、お前はもう少し学生らしくするべきじゃないかと先生も思ってはいたんだ。ボクシングも大切だが云々・・・」
説教が長いと評判の担任に捕まったが最後、耳の中をすり抜けて行くだけの中身のない文句を、延々聞かされる羽目になった。
自分は様子も見に来ないくせに、と嫌味の一言でも言いたくなったが、自分がボクシングのことで色々と配慮してもらっている手前、大人しく引き下がることにした。
ふと思い出す、奈々の言葉。
『プロでもないくせに偉そうに!』
確かに言われてみれば、まだプロではない。
でもプロボクサーの道は幼い頃からの夢であり目標であり…
夢も希望もなくチャラついた同級生と同じ扱いをされるのはかなり癪に触る。
宮田は胃の底から沸々と、黒い溶岩が湧き出すような、嫌な感情に支配された。
放課後、奈々が宮田の方に目をやると、いつもはさっさと帰り支度をして一目散に教室を出る宮田が、そのまま待機しているのが見えた。
しかしいつも真っ先に帰宅する宮田は、クラスメイトがそれぞれ動き始める中、何をしていいか分からない様子でただ突っ立っているようだった。
思わず、目と目が合う。
クラスの指揮は実行委員長の奈々が執っていた。
必然的に宮田は、奈々に何をすべきかを問わなければならない。
勝ち誇ったような目線を奈々が送ると、宮田は心底嫌そうな顔をして目線をそらした。
そのそぶりを見て、奈々は昨日の腹立たしさが帳消しになるほどの無意味な優越感を覚え、ゆっくりと宮田に近づいて話しかけた。
「宮田くん。君に仕事を与えよう」
「・・・・さっさと言えよ」
「この材木買って来て。いい筋トレになるでしょ?あー私って超優しい」
荒い鼻息で嬉々として言い放つ奈々に、宮田は悔し紛れの捨て台詞を吐くしか無かった。
「バカじゃねぇの」
近所のホームセンターで材木を買い、校門までの長く緩やかな坂を登る。
学校祭の準備中とあってか、自分と同じような出で立ちの男子生徒を見かけるのも少なく無い。
大多数が数人で固まって、ヘラヘラと笑いながら、生まれたての子鹿だとでも言わんばかりのおぼつかない足取りで歩いて行く傍らで、宮田は只一人、しっかりとした足取りで淡々と進んで行く。
ゆえに当然、それらの生徒を追い越して行く形になる。
近づいては遠ざかる喧噪が、不愉快に思われた。
「あ、戻って来た。早いね〜」
「・・・じゃあ、オレはこれで・・」
「今度はこの段ボール捨てて来てくれない?」
「はぁ?」
「え?まさかサボる気?」
睨み合いがしばらく続き、お互いに笑みさえこぼれだす。
元々いつも不機嫌そうな宮田がいつ爆発してもおかしくないと、クラスメイトは気が気で無い。
そんな心配もよそに、奈々は手元の段ボールを宮田に押し付けて言った。
「じゃ、お願いね」
宮田の反論を待たずに、奈々はくるりと踵を返し、教室の隅で違う作業を行っているグループの元へ向かっていった。