第5章:受験生
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宮田の父に一礼して入院病棟を後にし、患者でざわつくロビーを通り抜けようとした時、奈々は後ろからいきなり誰かに肩を掴まれ、呼び止められた。
「高杉さん」
急な出来事に驚いて振り返ると、そこにいたのは、かつて図書室で宮田に告白していた例の女の子だった。
「なんで高杉さんが、ここにいるの?」
あからさまな嫌悪感と敵意を含んだ眼差しで、奈々を睨みつける。
「・・・宮田のお見舞いだけど・・・」
「なんで宮田くんのお見舞いに来てるの?って聞いてるの!」
「なんでって言われても・・・」
言葉を濁していると、相手の女子はいきなり奈々の肩を小突いて、
「あんた、宮田くんのなんなの!?付きまとうのやめてよ!!」
突然の衝撃に、奈々も流石に頭に来て、
「いきなり何なの?あなたにそんなこという権利あるの?」
ギロリという擬音語がぴったりなほど、冷たい目で睨み付けると、帰って来たのは思いもよらない一言だった。
「あるわよ!あたし、宮田くんと付き合ってるんだから!」
硬くて鋭い破片が胸に刺さって、心臓を撃ち抜かれたような気がした。
「ひとの彼氏に手を出さないで!!」
それからどうやって家に帰ったか、まるで思い出せない。
母親が1階から「ご飯よ〜」と呼んでいる声がするのに、布団から頭を離せないでいる。
宮田、あの子と付き合ってたの?
一体いつから?
階段をドスドスと上がってくる音がして、部屋のドアを2回叩かれる。
「ご飯、ここにおいておくから」
母親がお盆に夕食を載せて持って来てくれたらしい。
「お勉強、頑張ってね」
足音がまた降りていき、完全に静まったのを見計らってドアを開け、食事ののったお盆を部屋に引き摺り込む。
食欲なんてない。
勉強なんてできない。
お母さん、ごめんなさい。
ごめんなさい。
みじめで情けない自分を見られたくなくて、声を殺して泣くしかなかった。