第5章:受験生
お名前設定はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
3年に進級して、宮田とはクラスが分かれた。
早い話が、進学組と就職組に分かれたのだ。
朝教室に行っても宮田の姿はない。
隣のクラスでもないため、体育などの合同授業ですら見かけない。
進学組は放課後に補習があったりして、バスで会うこともない。
途切れた接点をつなぎとめる術もなく、心にぽっかりと穴が空いたような気がしていた。
「はぁ」
小さなため息をついて下を向きながら廊下をとぼとぼ歩いていると、向こうから歩いて来た人物にぶつかってしまった。
「あ、ごめんなさ・・・」
思わず顔を上げると、そこにいたのは宮田。
「あ、宮田」
「前見て歩けよ」
「ごめん・・・っていうか避ければいいじゃん!」
進路を変えずにわざとぶつかってきたのは明らかだった。
宮田はふっと笑って、
「来月、試合があるんだ」
「え?そうなの?じゃ、チケット・・・」
「できたら連絡する」
「うん、よろしくね」
時間にして1分もない立ち話。
それでも、宮田からスケジュールを連絡してくれるなんて思ってもみなかった。
こんな少しの出来事で、さっきのため息はどこかへ吹き飛んでしまう。
これだけで1週間は元気でいられそう。
本当に、恋というものは厄介な麻薬だ。
そして6月。
宮田からチケットをもらって試合を見に行くと、そこにはデビュー戦ほど多くはないけれど、見知った顔が何人か座っていた。
図書室で告白してたあの子も、タオルをあげたと言ってた子も、来ている。
彼女たちも、宮田からチケット買ったんだよね?
「宮田くーん!頑張ってぇ!」
「かっこいい!宮田くん負けないでぇ!」
「顔ぶたれないでぇ!」
まだ数戦しかしていないのに、もうファンもついているらしい。
いい匂いのする大人のお姉さんたちまでも、黄色い声援を送っている。
私は、所詮、この中の一人だ。
宮田と一緒に花火を見て
宮田と一緒に遊園地に行って
宮田の家に遊びに行って
宮田に誕生日プレゼントを渡して
宮田にチョコレートも渡して
自分は特別なんじゃないか?って
そんな風に思ったこともなくはないけど。
他の人からもチョコを受け取ったり
新幹線で抱き合っていたり
宮田の特別なんて、ゴロゴロいて。
私も、この中の一人なんだ。
嫌だ。
この中の一人なんて。
醜い嫉妬心がリングを冒涜していく。
リングの上を、眩しいスポットライトが照らす。
ただでさえ眩しくて、キラキラ輝いている宮田が、どんどん遠くへ行ってしまった気がする。
観客席には綺麗な女性がたくさん座っている。
それにラウンドガールなんて、飛び抜けて綺麗だ。
私って、なんなんだろう。
何も持たない自分が安っぽく感じられて、宮田のことを好きでいる資格さえ持たない気がした。