第4章:一喜一憂
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「げ、遠い〜」
案内図を見るとトイレは2両ほど離れていて、他のクラスの車両を通り過ぎていかなければならなかった。
ゴチャゴチャした喧騒の中を通り過ぎて、ようやくトイレのある車両まで来たときだった。
車内が大きくグラリと揺れ、奈々は思わず手すりを掴む。
「わー、揺れるねぇ」
友人がのんきにつぶやく。
それから車両のドアを開けて、2歩ほど踏み込んだところで目に入ったのは・・・
宮田と女子生徒が、抱き合っている姿だった。
女子生徒は顔を宮田の胸に埋め、両手をしっかりと宮田の背中に抱きとめている。
そして当の宮田も・・・その両手を女子生徒の背中へ回していた。
「あ・・・ご、ごめん」
考えるより先に出た言葉。
「わ、宮田何してんの」
友人も宮田の様子を目撃して、素っ頓狂な声を出す。
その言葉に顔を埋めていた女子生徒が、慌てたように体を離した。
それはいつぞや、図書館で宮田に告白をしていた女子生徒だった。
「ご、ごめんなさい・・・じゃあ、宮田くん、また後で」
恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、女子生徒はパタパタと戻っていった。
また、後で??
ずっと帰ってこなくて、ここで、何をしていたんだろう。
また後で・・・って・・・後で何をするつもりなの?
二人は・・・・どんな関係なの??
宮田は奈々の顔を一度見た後、軽く舌打ちをした。
そうして、固まって立ち尽くす二人の横を、何も言わずに通り過ぎて行った。
「宮田、こんなところで逢引してたんだぁ」
友人が感心するように呟く。
「そうだねぇ・・・」
そのテンションに合わせて、奈々も何事もなかったように呟く。
とぼけた声色が震えないように、ぐっと唾を飲み込んだ。
「じゃ、さっさとトイレ済ませて戻ろうか。私、お先ね〜」
「あ、ずるーい!」
友人の不満声を聞きながら、洗面所のドアをバタンと閉める。
ドアの内側で奈々は、震える指を一生懸命こすり合わせて温めた。
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クラスの車両に戻ってから宮田の席の横を通ると、宮田は腕を組んで寝ていた。
「どうしたの、奈々。顔色悪いよ?」
車両の中で帰りを待っていた友人の一人が、心配そうに声をかける。
「あー・・・なんか揺れているところを歩いて、気分悪くなったかも」
「奈々は乗り物弱いもんねぇ、昔から」
ミズキの言葉に、奈々はただ乾いた笑いを返すのが精一杯だった。
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それからの旅行は散々だった。
せっかくの大好きな京都なのに、新幹線内でのあの一件が尾を引いて、何をしてもどこか気が重い。
「あれ、宮田どこだあ?」
「あいつさっき、女と歩いてたぜ?」
「・・ったく、スカし野郎がよ」
クラスメイトの雑談が胸に刺さる。
女って、誰?図書館の、あの子?
二人で、何してるの?
かつて自分だって、宮田と二人でデートしたり、宮田の家にすら行ったのに。
他人のことになると、許せなくて。
強い風が吹いて、散りかけた桜の木からパラパラと、花びらが降り注いでくる。
桜色の絨毯は綺麗だけど、道路の端の排水溝は、花びらが堆積して茶色く汚れ始めていた。
パッと咲いて、強い風に吹かれて散って、最後は汚く淀んでいく・・・・
桜は、恋に似ている。