第3章:夏の思い出
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宮田の誕生日が明後日だと知り、急遽プレゼントを買いに家を飛び出した奈々。
ほぼ1日歩き回って、あれでもない、これでもないと悩みに悩んだ挙句、これは!と思うものに出会ったらしい。
「あ、あの、ラッピングお願いします」
「はい。おリボンの色はどうされますか?」
「あ、じゃあ・・・」
なんとなく、宮田に似合いそうな色。
「緑でお願いします」
そしてとうとう、誕生日当日。
午前中なら居るとのことで、10時半ごろに家の呼び鈴を押してみた。
「・・・よお」
「お、お誕生日おめ・・・」
「まぁ、入れよ」
祝辞を言い切らないうちに家の中へ促され、ちょっと拍子抜けしながら靴を脱ぐ。
前回来た時とは違って、段ボールはすっかり片付き、それなりに生活感のある部屋へと変わっていた。
「なんか、すごく、片付いてるね」
「そうか?」
「男の子の部屋なのに、と思って。うちの弟の部屋なんか足の踏み場もないよ」
「まぁもともと、モノがあんまりねぇんだけどな」
そう言いながら、宮田は冷蔵庫からペットボトルを取り出す。
「女子が飲むもの・・・よく分からねぇから適当に買ったけど」
奈々は渡された紅茶をまじまじと見て・・・・
なるほど、宮田が女子に対して持つイメージはこんな感じか、と妙に納得する。
「ありがと」
「コップ使うか?」
「ううん、このままで」
宮田は自分の飲み物、おそらくただの水をコップに入れて持って来て、部屋の真ん中にあるテーブルへ置いた。
「あ、あのね宮田」
「うん?」
「お誕生日、おめでとう」
「・・・どうも」
至極どうでもよさそうな返事が返ってきた。
男子にとって、自分の誕生日なんて、どうでもいい日なのだろうか?
「あの、それでプレゼント持ってきた」
「・・・別に、何もいらねぇって・・」
「いや!これ!可愛いの!見て!!」
緑のリボンでシンプルにラッピングされたプレゼントを宮田に手渡す。手のひらに乗るほどの小さなものだ。
宮田はリボンを解いて、プレゼントを包むセロテープを慎重に剥がして、袋の中を覗き込んだ。
「あ、グローブ」
「そうなの!グローブのキーホルダーなの!」
ボクシンググローブをモチーフにした、銀でもプラチナでもない、普通のキーホルダー。
「これにさ、家の鍵とかつけてくれたらと思って。可愛いでしょ?見つけた瞬間、これだ!と思ったもん」
興奮してアレコレまくし立てる奈々の横で、宮田はキーホルダーを指でつまんでブラブラと持ち上げ、下から眺めるようにして見ている。
「・・・ありがとな」
宮田がふっと笑ってこちらを見た。
その瞬間、また奈々の心臓はどきりと高鳴る。
デジャヴ。見たことのある笑顔。
ああ、学祭最終日の夜の、あの顔だ。
いつも仏頂面の宮田が笑うと、なんだか嬉しい。
それからしばし、ほぼ奈々の一方的な話題提供ではあったが、世間話などをした。
時間にして30分くらいだろうか。
午後から予定があると言っていたし、その前にお昼ご飯も食べないといけないだろうから、と奈々はお暇することにした。
「じゃ、宮田。また学校でね」
玄関で靴を履きながら奈々が声をかけたが、宮田は返事をしない。
どうしたのかと、靴を履き終わってから背を伸ばし、宮田の様子を伺う。
「送るよ」
「え?いいよ別に、昼だし明るいし」
「・・・そうか」
宮田は目を閉じて、
「まぁ夜でも、襲うやつはないだろうけど」
と笑う。
からかうような言い方に奈々はなんだかカチンときて、
「な、なによ。自分はあんなことしておいて」
「あんなことって?」
目を閉じて腕を組んだまま、壁にもたれかかって余裕の態度を見せ続ける宮田に、奈々は追求する気も起きず
「さあね!」
と大声を出してドアを閉めた。
なによなによ。
自分は、夜の薄暗いのをいいことに、私の大事なファーストキスを奪おうとしてきたくせに・・・
どすどす、と歩く足に力が入る。
「・・・確かにこれじゃ、誰も襲わないか」
ふっと空を仰ぎみると、澄んだ青空がどこまでも広がっていた。
8月も末だというのに、もくもくと膨れる入道雲。
まだまだ夏は続いている。
ミンミンと耳障りな蝉の音を聞きながら、奈々は大きく息を吸って、家路に着いた。