第3章:夏の思い出
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「あー・・・夏休みもあと1週間かぁ」
カレンダーをめくりながら、うんざりした顔でアイスキャンディーを頬張る奈々。
あのキス未遂事件から、数週間を経て…
あの時のトキメキが嘘のように消えかけていた、夏の終わり。
来月誕生日、と先月つぶやいていた宮田はもう17歳になったのだろうか、とふと思った。
電話くらいなら、許されるかな・・・
時間は正午。
なんとなく、宮田が家にいるような気がした。
幸いにして、母親はパートへ、弟は友達の家へ遊びに行き、家には誰もいない。
食べ終わったアイスキャンディの棒を片手にふらふらと揺らしながら、1階へ降りて行き、受話器を手にとった。
宮田の家の電話番号が書かれた紙を見ながら、ピッピッとボタンを押す手が、さすがに少しこわばる。
「・・・平常心、平常心!」
機械的な呼び出し音が、プルルルとなる。
3回ほど鳴った頃、留守電に切り替わった。
これまた機械的な女性の声で、「タダイマ ルスニ シテイマス…」の案内が流れると、奈々はなんだかやけにホッとして緊張がほぐれた自分に気がついた。
「えーと、高杉ですけど」
名乗りを上げた瞬間に留守電が途切れ、通話に切り替わる音がした。
「なんだよ」
予期せぬ声が返って来たので、奈々はしばし固まって、素っ頓狂な声で、
「え?宮田いたの?」
「あぁ」
「留守電だからてっきり・・・」
「最近変な電話が多いから留守電にしてる」
「あ、ああ、そうなの・・・」
留守電だと思って緩んだ緊張感が一気に戻ってきて、多少頭が混乱している。
何から切り出そうかと悩んでいると、
「どうした?」
「あー、その・・・誕生日、おめでとう」
8月も残り1週間。
流石にもう17歳になっているだろうと思って放った言葉だったが
「まだだけど」
またしても予想外の言葉が返ってきた。
「え?8月誕生日でしょ?」
「ああ」
「あと1週間しかないよ?」
「・・・27日なんだよ」
奈々はふっとリビングのカレンダーに目をやる。
「あ、明後日?」
「そう」
「・・・じゃ、お祝い・・」
「いらねぇよ」
断られるとは思っていたけれど、返事が早すぎるのは些か寂しいものがある。
「明後日は、家にいるの?」
「聞いてどうするんだよ」
「・・・」
奈々が黙ってしまったので、宮田は小さなため息をついて、
「・・・午前中ならいるよ」
「そう」
「で?来るんじゃねぇだろうな?」
「・・・」
またも沈黙。
「じゃあ、電話する」
つまらなそうに奈々が呟くと、宮田は観念したように、
「・・・いいよ、来いよ」
「何食べたい?」
「何もいらねぇよ」
ケーキの一つでも持って行こうと思ったが、宮田は確か甘いものはほとんど食べないと言っていた。
「じゃあ、自分の分だけ持って行くわ」
「お前何しに来るんだよ・・・」
宮田のツッコミに思わず吹き出す。
いつもの自分の調子で話せているなと思った。