第3章:夏の思い出
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デートの定番、遊園地。
夏休み中の、それも日曜日ということもあって、なかなかの混雑具合だ。
人混みがそれほど得意ではなさそうな宮田だが、行列を苦にしている感じはない。
「あー、楽しかった!次どれ乗る?」
「・・・任せる」
絶叫マシンが大好きな奈々は、いくつかのアトラクションに乗った後、デートであることも忘れて今までの自分のテンションをすっかり取り戻していた。
「あ、メリーゴーランド空いてる」
「・・・オレはここで待ってるから行ってこいよ」
「えー、宮田も乗ろうよ。白馬の王子様みたいな写真撮ってあげる」
「いらねぇよ」
迷惑そうな宮田の顔が面白くて、笑いが止まらない。
もう何時間歩き回ったか知らない。
長い夏の昼がそろそろ終わり、もうすぐ夕暮れになろうとしていた。
そろそろ帰宅するムードの中、奈々が口を開く。
「だいたい全部乗ったよね」
「あとは・・・アレだけか」
二人の目の前に立ちはだかる、大きな丸い乗り物、観覧車。
オレンジがかった後光が差して、一番上を仰ぐと思わず目が細まる。
「じゃ・・本日のラスト、乗ろうか」
「ああ」
観覧車に乗り込んで、宮田と向かい合って座る。
ゆっくりと登って行く観覧車の中で、奈々の高まったテンションも次第に落ち着いて行くと、対峙する宮田の存在が急に生々しく感じられた。
「そ、そういえばさ、宮田」
緊張を悟られないように、世間話をしてみる。
「終業式の時、一目散に帰ったはずなのに、どうしてあんな遅くのバスに乗って来たの?」
「あー・・・・」
宮田は頬杖をつきながら、窓の外を眺めて、しばし黙る。
「あの時・・・呼び止められて」
「担任に?」
「いや・・・女子に」
「ほ、ほう」
その先は聞かないまでも、なんとなくわかった。
夏休み前の、決死の告白でも受けていたのだろう。
「宮田は・・・モテるもんね」
「・・・面倒臭ぇよ、実際」
「またそういう悪態ついて」
「仕方ねぇだろ」
先ほどの姿勢から微動だにせず、ただ目を閉じて、
「目の前で何度も泣かれてみろよ、オレは完全に悪者だぜ」
ハァ、と大げさなため息をつく宮田を、前なら面白いと笑えたかもしれないが、今はその“泣かれた側”の気持ちがわからなくもなく、ただ無理に乾いた笑いをしてみせるのが精一杯だった。
「あーいいなぁ。私もモテてみたい」
「・・・・」
「ちょっと、なんか言ってよ」
「がんばれよ」
「もう!」
奈々がほおを膨らませて怒りを見せると、宮田はかすかに笑った。
「前に・・・」
宮田は何かを言いかけて、「いや」と言って口をつぐんだ。
「え?なに?」
「なんでもない」
「なによ、気になるじゃない」
奈々が前のめりになって問い詰めると、宮田は再び窓の外を眺めながらボソリと呟いた。
「以前、“きっと宮田はチャンピオンになるよ”ってお前に言われて」
「・・・うん?」
「あの時は・・・」
ふっと目をつぶって、それからチラリとこちらを見て言った。
「可愛いかったぜ」
頭が真っ白に鳴って、なんて言葉を返せばいいのか、わからない。
普段の私ならなんと言ったろう?「やっぱりぃー?」とか?
そんなことを言い放つ心の余裕は、今は何一つない。
宮田はどんな顔をしてるんだろう?
確かめてみたいけど、もう顔もまともにみられない。
聞こえなかったふりをしているわけではないが、宮田と同じように窓の外を眺めて、目線をそらして、心が落ち着くのを待った。
ふと、心に浮かんだミズキの言葉。
“宮田はすんごい女好き”
なんだかそれが現実味を帯びて来た気がした。
なんでこんな無愛想で冷たい男が、あとからあとから女の子に告白されるほどモテるのか?
ポケットを膨らませていたチョコレートのように、私の知らないストーリーが、あちこちに転がってるんじゃないの?
クリスマスには誰かとデートしてたくせに、夏には私にこんなことを言って揺さぶる。
こんな風に、あんな風に、不用意に、誰かを恋に落として・・・
宮田って本当は、すごい女好きなんじゃない?
だってあんなセリフ、普通、出てこないよ。
少女漫画の男の子みたいじゃん。
どういう育ちしたらあんなこと言えるわけ?
それなのに何、私のこの浮かれよう。
嫌だよ、私も、他の子と同じなんて。
みんなと同じように、宮田が好きだなんて。
認めたくない。
絶対、認めたくない。