第3章:夏の思い出
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「電話する」と言われたものの、それがいつなのか全く知る由もなく・・・
無駄に緊張したまま2日が過ぎた、金曜日の夜。
「奈々、電話よぉ」
母親が1階の廊下から、2階に居る奈々に呼びかける。
ベッドから飛び起きて、ドアをバタンと開けて階段を駆け下りると、母親が受話器を渡しながらやや呆れた顔で、
「はい、ミズキちゃんから。何をそんなに急いでるのよ、あんた」
な、なんだ・・・
がっくり肩を落として、しょぼくれた声で「もしもし」というと、いつものまくし立てる調子で声が返って来た。
「なによぉ、その態度!なんか邪魔した?あたし」
「んーん、してないけどさ」
それから30分ほど、終業式の後のデートの話やら、夏休みの計画などを話し込む。
どこか上の空で聞いて居るのが相手に申し訳ない気持ちもあったが、同時に気が紛れて心がホッとしてもいた。
「じゃ、またね」
受話器を置いて、再び2階に上がって行こうとしたタイミングで、再び電話が鳴った。
何か言い忘れたことでもあったのかと、ぶっきらぼうに電話に出る。
「はーい、もしもしぃ?」
「・・・・オレだけど」
まさかの宮田。
思わず受話器を落としそうになる。
「えっ・・・み、宮田」
「なんだよ、ずいぶん機嫌悪そうだな」
「いや、ちょっと・・・人違い」
「あ、そう」
いきなりの電話に驚いたものの、母親や他の家族が出なくてよかった、とホッとした。
特に弟なんかが出た日には、しばらくの間、茶化され続けるのが目に見えて居るからだ。
「あの・・・電話、ありがと」
「しばらくかけてたんだけど、ずっと話し中でよ」
ミズキと30分も話している間に、宮田が何度か電話をくれていたらしい。とりあえず人のせいにして流しておきたい。
「あ、あははは。お母さん話長くてぇ」
「・・・それで、本題だけど」
「あ、うん」
「何がしてぇんだ?」
本当にいきなり本題に入って来た。
宮田には、世間話をするというワンクッションがないらしい。
勢いで「あそぼ」など言ってみたものの、宮田とどこで何をして遊ぶのか、全く想像がつかない。
「うーん・・」
「なんだよ、決めてねぇのかよ」
「うーん・・」
長く続く沈黙の向こうで、宮田がイライラしているような気がした。
それが一層、心を焦らせる。
「あ、じゃ、じゃあ、遊園地行こ」
とっさに出て来た、安直な候補地。
宮田が遊園地、なんて一番似合わないのに。
「小学生かよ」
冷たい一言が帰って来る。
「う・・じゃ、じゃあ・・」
「まぁいいよ、それで」
小さいため息が受話器越しに漏れているのがわかる。
「日曜日でいいか?」
「う、うん。私はいつでも」
「じゃあ、迎えに行くから」
「うん・・・あ!いや!」
いくら家が近いとは言え、男子が我が家まで迎えに来るなんて、ちょっとした一大事だ。
「私が迎えに行くから」
「別に近所だし、それに遠回りだろ?」
「いいの!家で待っててよね!9時ごろ」
「・・・ああ、じゃあな」
時間にして10分もない、短い会話。
色気も何もない、業務連絡のような会話にも関わらず、奈々の心はざわざわと止まらず、階段を駆け上る足音は随分浮かれていた。