第3章:夏の思い出
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「あの、宮田」
「なんだよ」
宮田がいつもの調子で、冷たく聞き返す。
「そ、その。こないだのこと、ご、ご、ごめん」
「・・・・こないだ?なんかあったか?」
「え?」
うつむいていた顔を上げて宮田を見てみると、どうやら本気で忘れているような表情をしている。
この数日間、悩みに悩んだ日々は何だったのかと思うほどだ。
「いや、その。え?覚えてないの?」
「??」
「宮田の家で、私、嫌な態度取って」
「・・・・・・・」
思い出したのか、出して居ないのか、頼りないリアクションが返って来る。
「どうでもいいよ、そんなの」
そしてまた、冷たい返事が返って来る。
そしてまた、ちょっと悲しくなる。
でもこれはきっと、宮田の普通のリアクションなのだろう。
「関係ない」とか「どうでもいい」っていうのが、癖なんだきっと。
「なによ・・・私、悪いことしたと思って、結構悩んでたんだけど」
ぶつぶつと呪いを唱えるかのように面白くない旨を宮田にぶつけると、宮田はぷっと吹き出して、
「バカじゃねぇの」
「あ!ムカついた。今のはムカついた」
自分が思っていたのとは違って、宮田の中では本当にどうでもいいことだったらしい。
宮田が姿勢を正して前を向いてしまったので、その後の表情はわからない。
バスのタイヤがアスファルトの上を走っていくゴロゴロという音がやけに大きくて、それを上回る声を出そうと思うとちょっと気力が要る。
家が近所になったので、当然同じバス停で降りる。
そして、途中の分岐点まで、帰り道も同じ。
「一緒に帰ろう」の言葉など一つもないが、自然と横並びになって道を歩く。
閑静な住宅街には物音もなく、二人の間に会話もなく、ざっざっという靴音が外壁にこだまして、やけに耳障りだ。
「宮田ってもうプロになったの?」
沈黙に耐えかねて、奈々が口を開くと
「まだだよ」
「あれ、でも今年って噂で聞いたよ?」
「17歳にならないとライセンス取れねぇんだよ」
「まだ16?」
「ああ、来月で17になる」
誕生日をはっきり言わないあたりがもどかしいな、と思いながらも、「何日?」とも聞くに聞けない距離感が、モヤモヤをさらに肥大化させていく。
「プロになったら、忙しくなるね」
「まぁ、定期的に試合があるからな」
まだ学生である自分と違って、プロ・・・つまり手に職つけて、お金をもらって、それで生きていく人になるというのは、全く想像ができなかった。
プロになったら、手の届かないところへ行ってしまう気がした。
そもそも、今も手が届いているわけでもないけど。
「じゃあな」
分岐点に差し掛かって、宮田は軽く手を上げて奈々とは逆方向へ進もうとした。
いやだ、行かせたくない。