第2章:惹かれ行く心
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奈々が呼び鈴を押すと、いつもの仏頂面の宮田がガチャリとこれまた無愛想にドアを開けて、奈々を一目見ても取り乱すことなく、冷静に呟いた。
「・・・どうした?」
みるからに具合が悪そうだ。
今まで寝ていたのだろう、Tシャツに薄手のスウェットというラフな格好で、額には熱冷まし用のシートが貼られたままだ。
「あ、あの、担任に言われて。届け物」
「・・・そう」
「まだ、具合悪そうだね」
「あぁ・・・まあ、上がれよ」
あっさりとドアを閉められるかと思っていたのに、宮田から意外なセリフが飛び出して、奈々は一瞬何のことかと動けなくなった。
「あ、上がっていいの?」
「わざわざ来てくれたんだろ」
ドアの外から中に入ってみると、家の中には段ボールがあちこちに積まれたままだった。
「片付いてなくて悪いけど・・・」
「ううん。封筒の中身の説明したら、すぐ帰るから」
ワンルームにベッドと学習机、本棚、クローゼット。
簡単なキッチン。冷蔵庫。電子レンジ。
これは完全に、一人暮らしの部屋。
色々聞きたいことが頭をよぎったが、まずは本題から入る。
「で、これが進路調査表と、親の署名と・・・」
「あぁ」
担任から渡された書類をローテーブルに広げて1枚ずつ説明する。
一度に色々な説明をして、病人の頭に入るかどうか不安だったが、宮田の顔を見る限りは大丈夫そうだ。
「ってか、宮田。一人暮らし?」
我慢できずに、つい聞いてしまう。
「そうだよ」
「・・・何でまた。ご両親は?」
「父親はいるけど」
「そうなの?お母さんは?」
「離婚してるよ」
宮田の身の上話を聞いたのはこれが初めてだった。
あんまり聞かれたくないことだったかと、軽々しく聞いたことを少し反省したのもつかの間、好奇心が優ってさらに聞いてしまう。
「どうして一人暮らしなの?」
「ジムを移籍して・・・新しいジムの近くに引っ越して来ただけだ」
「じゃあ、お父さんは・・・」
「古い家の方の処理があるから、まだそっちに・・っていうか」
はぁ、と宮田は大きくため息をついて、少し迷惑そうに、
「お前に関係ねぇだろ」
冷たく放たれた言葉は、それまでの距離感も、今甘受していた特別感も、何もかもを吹き飛ばすのに十分な威力を持っていた。
確かに関係ない、関係ないけれど・・・
いきなりそんな風に拒絶されて、傷つかないわけがない。
「・・・あ、そ。・・じゃ」
自分が案外打たれもろいことを、初めて知った。
このまま泣いてしまいそう。
そんな顔を見られるわけにはいかない。
すっくと立ち上がり、ドタバタと玄関まで走るように移動する。
靴を履いて玄関のドアを開ける寸前で、背後から腕を掴まれた。
宮田は追いかけて来たものの、何を言うわけでもなくただじっと立っているだけ。
その態度がさらに奈々をイラつかせる。
「・・なによ」
「別に」
奈々は振り向きもせずそのまま宮田の手を振り払い、思い切りドアを閉めた。