第2章:惹かれ行く心
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期末試験も、クリスマスも、お正月も終わって。
日常に少し飽きが出てきた頃・・・
年に一度の、男女がソワソワする日がやってきた。
「奈々、好きっ!」
そう言いながらチョコを渡してきたのは、友人のミズキ。
「ありがと」
そっけない奈々の返事に、ミズキは頬を膨らませて不満げだ。
「えーなによ、思い切って告白したのにぃ」
「なによ、本命は私じゃないくせにさ」
ミズキは昨年末に恋人ができた。
例の「で・え・と」のお相手だ。塾で知り合った他校生。
きっと今日の放課後も、で・え・との約束をしているのだろう。
中学からの長い付き合いで、いろいろな恋愛相談なんかも受けてきた相手に初の彼氏ができたことは心の底から嬉しい。
と同時に、今まで自分がいたポジションを奪われたみたいなちょっとした寂しさもあり、冗談さながら憎まれ口を叩いてしまう。
朝のHRが始まる直前、いつもは時間に余裕を持って登校して来る宮田が、少し駆け足で滑り込むように教室に入ってきた。
なにやら少し不機嫌な顔をしている。
そして、コートのポケットが大きく膨らんでいる。
「宮田ぁ。ギリセーフな」
入り口に一番近い席に座っている男子が、宮田に声をかけると、宮田は目をつぶりながらつれない態度で答えた。
「セーフなら文句言われる筋合いねぇだろ」
「まぁな。でも俺的にはアウトだわ」
「は?」
「そのパンパンに膨らんだポケットがアウトだっつってんの!くっそー、なに朝からチョコなんてもらってんだよこの野郎!!」
「え?マジかよ〜」
一人が大声で騒いだのを皮切りに、宮田がチョコをもらった話は瞬く間に教室中を駆け巡った。
当の宮田自身は、そのことについてややイラついた表情を見せてはいたが、なにも弁解することなく黙って席につき、腕を組んで目をつぶって無視を決め込んだ。
「宮田くん、受け取ってくれるんだぁ」
「えー、じゃあたしもあげようかなぁ・・・」
ヒソヒソ、とそんな声が聞こえてくる。
嫌だな、聞きたく無い。
肩を竦ませて、私には関係ありませんという振りを、誰にアピールするわけでもなくする。
「奈々ちゃんは、あげないのぉ?」
「ぶつよ?」
「わ、怖」
ミズキが耳元でこっそり茶化すように言うと、奈々は殺気立った声で即答した。
その様子がおかしかったのか、ミズキがさらに畳み掛ける。
「誰のでも受け取るみたいよ?クリスマスも一人じゃなかったみたいだし、宮田って案外プレイボーイだよねぇ?」
「知らないよ、もう」
「クールに見えるけどすんごい女好きなんじゃないあれ」
「だから知らないってば!」
頬杖をついて、ミズキから体ごと向きを背ける。
流石に悪ふざけが過ぎたかと、ミズキは小さく「ゴメンゴメン」と笑って、それからなにも言わなくなった。
“すんごい女好き”
・・・かもしれない。と奈々も思った。
ああ見えて、意外と、女の喜ぶツボを心得ている気がする。
頭ポンポンしてきたり、グッと抱き寄せたり。
きっと、私だけじゃないんだろうな。
いつも他人と距離をとって、良く言えば孤高の存在、悪く言えば無愛想な宮田だけど、そのミステリアスな存在感で女子から人気を集めていたし、男子からはボクサーというだけで一目置かれていた。
そんな宮田と、学祭以来、距離が少し縮まった気がして。
実は、変な特別感を持ち始めていた。
私と宮田しか知らない出来事がある。
みんなの知らない出来事が。
でもそれはきっと、宮田と私の知らない誰かの間にも、存在する。
私が知らないだけで。
宮田はクリスマスに、誰とデートしたんだろう。
“私だけじゃない”
宮田のポケットを膨らませているあのチョコレートの数が、自分にそう訴えている気がした。