第1章:夢追う人
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3日間に渡る学祭はあっという間に終わりを迎えた。
最終日には「今年のMVP」として宮田のクラスの出し物である「和み喫茶」が選出され、クラス内は大いに湧き上がった。
売り上げもなかなか好調で、今までの経費を差し引いてもクラス全員でご飯を食べに行けるほどの利益が出た。
「今日、打ち上げ行ける人ー?行けない人には、材料費として徴収した分をそのままキャッシュバックするから、教えて〜」
もう直ぐ夜を迎える非日常性も後押しして、奈々の言葉はほとんど通らない。
奈々は仕方なく、名簿を持ちながら一人一人に確認と清算を始めた。
「宮田は打ち上げ・・・」
「行かない」
「ですよね。はい800円のお返し。ありがとうね」
これまで「宮田くん(ふふん)」といわんばかりの上から目線で絡まれていたのに、最後の打ち上げについてはアッサリと解放され、宮田は少し拍子抜けした。
一方で、誰も話を聞いていないような状況で最後まで清算と幹事を続ける奈々のバイタリティに、少なからず感心していたのも事実。
『これから後夜祭恒例、打ち上げ花火を行います…全生徒はグラウンドに集合してください…』
「あ、花火の時間だ!行こうぜ!」
「やだ、早く行かないと遅れちゃう!!」
スピーカーからアナウンスが流れると、点呼を取る奈々などお構いなしに、みな一斉に教室を飛び出した。良いポジションで花火を見るためだ。
「奈々、場所取っておくからあとでね!」
親しい友人ですらこの有様。
気がつくと、集金袋を握りしめた奈々と、花火に興味のない宮田だけが、教室に取り残されていた。
『まもなく花火が始まります…教室を最後に出る人は、電気を消して来てください…』
奈々は教室の電気を消すと、自分の席で、腕組みしながら俯いたままの宮田に問いかけた。
「見に行かないの?」
「興味ない」
「花火、綺麗だよ?」
「お前は行かないのか?」
「私、大金持ってるし…落とすの心配だからここから見る」
宮田が目を開けると、奈々は売り上げの入った巾着を大事そうに抱えていた。
その必死さに、宮田は思わずぷっと吹き出す。
「宮田、せっかくだし、一緒に見よう?」
「いや、いい」
「えー。じゃあ私がジャンケンに勝ったら…」
「わかったよ、見るよ」
パーだのグーだの考えるのも面倒な宮田は、重い腰を上げて奈々とともに窓際へと歩みを進めた。
間も無く花火が上がる。
角度と位置的に、綺麗に見ることはできないが、それでも音と光は十分に届いている。
「よかったな高杉」
「ん?何が」
「MVP」
宮田はそれとなしに口に出した言葉だったが、返事がない。
どうしたものかとふと隣を見ると、全く意外なリアクションが返ってきた。
奈々の目から、涙がこぼれ落ちてきた。
「・・・な、なんだよ。オレ何か・・・」
「あ!・・・ち、ちがうの、ごめん!」
奈々は慌てて目元を隠すと、ぐっと堪えるように息を飲んだ。
「ごめんね・・実は・・・う、うれしくて」
ひと刹那で落ち着きを取り戻したのか、奈々は目元をぬぐいながら、いつもの調子で笑ってみせた。
「陰口叩かれてるのも知ってたし・・・浮いてるのもわかってたし・・・でも、こうやってみんなで楽しめて、MVPまで取れて」
あはは、と照れ隠しの笑いを見せて、奈々は続ける。
「よかったなぁ・・・って」
止まらない涙を手でぬぐう奈々を、宮田は黙ってじっと見ていた。
花火の音と光が教室の窓に向かってくる。
夜空に花が咲くたびに、互いの顔が見えるほどの光が差し込む。
「宮田もいままで色々ウザかったでしょ・・・ごめんね」
「別に」
「まぁでも、これで最後だからさ!」
おちゃらけたように笑う奈々の横で、宮田は声を出さずに「バーカ」と呟いた。
公立高校の規模とは思えない花火は、豪快な音と光を絶え間なく出し続け、いつしか2人の口数も減っていった。
「綺麗だね、花火」
「・・・そうだな」
クライマックスが近づいて、花火の音が一層激しくなってきた。
この花火が終われば、学校祭のすべてのプログラムが終わり。
1日の振替休日を挟んで、また日常に逆戻りだ。
学祭の最後の花火を、まさか宮田と見るとは思わなかった。
ふと隣に目を向けてみると、宮田もまた同じタイミングで奈々の方に目を向けていた。
花火の音は畳み掛けるように鳴り響き、まばゆい光が二人の横顔を照らす。
ハッと我に返った奈々が、気恥ずかしさから目線をそらすと、宮田は手を伸ばして、奈々の頭をポンポンと撫でるように叩いた。
「まぁ、頑張ったじゃん」
宮田の意外な言葉に、奈々は思わず顔を上げる。
キョトンと大きく目を見開いて固まる奈々に、宮田は柔らかい笑みを浮かべた。
あ、宮田って・・・こんな顔もするんだ。
いつも仏頂面のとっつきにくいクラスメイトが、今日はなんだかとても近くに感じられた。
最終日には「今年のMVP」として宮田のクラスの出し物である「和み喫茶」が選出され、クラス内は大いに湧き上がった。
売り上げもなかなか好調で、今までの経費を差し引いてもクラス全員でご飯を食べに行けるほどの利益が出た。
「今日、打ち上げ行ける人ー?行けない人には、材料費として徴収した分をそのままキャッシュバックするから、教えて〜」
もう直ぐ夜を迎える非日常性も後押しして、奈々の言葉はほとんど通らない。
奈々は仕方なく、名簿を持ちながら一人一人に確認と清算を始めた。
「宮田は打ち上げ・・・」
「行かない」
「ですよね。はい800円のお返し。ありがとうね」
これまで「宮田くん(ふふん)」といわんばかりの上から目線で絡まれていたのに、最後の打ち上げについてはアッサリと解放され、宮田は少し拍子抜けした。
一方で、誰も話を聞いていないような状況で最後まで清算と幹事を続ける奈々のバイタリティに、少なからず感心していたのも事実。
『これから後夜祭恒例、打ち上げ花火を行います…全生徒はグラウンドに集合してください…』
「あ、花火の時間だ!行こうぜ!」
「やだ、早く行かないと遅れちゃう!!」
スピーカーからアナウンスが流れると、点呼を取る奈々などお構いなしに、みな一斉に教室を飛び出した。良いポジションで花火を見るためだ。
「奈々、場所取っておくからあとでね!」
親しい友人ですらこの有様。
気がつくと、集金袋を握りしめた奈々と、花火に興味のない宮田だけが、教室に取り残されていた。
『まもなく花火が始まります…教室を最後に出る人は、電気を消して来てください…』
奈々は教室の電気を消すと、自分の席で、腕組みしながら俯いたままの宮田に問いかけた。
「見に行かないの?」
「興味ない」
「花火、綺麗だよ?」
「お前は行かないのか?」
「私、大金持ってるし…落とすの心配だからここから見る」
宮田が目を開けると、奈々は売り上げの入った巾着を大事そうに抱えていた。
その必死さに、宮田は思わずぷっと吹き出す。
「宮田、せっかくだし、一緒に見よう?」
「いや、いい」
「えー。じゃあ私がジャンケンに勝ったら…」
「わかったよ、見るよ」
パーだのグーだの考えるのも面倒な宮田は、重い腰を上げて奈々とともに窓際へと歩みを進めた。
間も無く花火が上がる。
角度と位置的に、綺麗に見ることはできないが、それでも音と光は十分に届いている。
「よかったな高杉」
「ん?何が」
「MVP」
宮田はそれとなしに口に出した言葉だったが、返事がない。
どうしたものかとふと隣を見ると、全く意外なリアクションが返ってきた。
奈々の目から、涙がこぼれ落ちてきた。
「・・・な、なんだよ。オレ何か・・・」
「あ!・・・ち、ちがうの、ごめん!」
奈々は慌てて目元を隠すと、ぐっと堪えるように息を飲んだ。
「ごめんね・・実は・・・う、うれしくて」
ひと刹那で落ち着きを取り戻したのか、奈々は目元をぬぐいながら、いつもの調子で笑ってみせた。
「陰口叩かれてるのも知ってたし・・・浮いてるのもわかってたし・・・でも、こうやってみんなで楽しめて、MVPまで取れて」
あはは、と照れ隠しの笑いを見せて、奈々は続ける。
「よかったなぁ・・・って」
止まらない涙を手でぬぐう奈々を、宮田は黙ってじっと見ていた。
花火の音と光が教室の窓に向かってくる。
夜空に花が咲くたびに、互いの顔が見えるほどの光が差し込む。
「宮田もいままで色々ウザかったでしょ・・・ごめんね」
「別に」
「まぁでも、これで最後だからさ!」
おちゃらけたように笑う奈々の横で、宮田は声を出さずに「バーカ」と呟いた。
公立高校の規模とは思えない花火は、豪快な音と光を絶え間なく出し続け、いつしか2人の口数も減っていった。
「綺麗だね、花火」
「・・・そうだな」
クライマックスが近づいて、花火の音が一層激しくなってきた。
この花火が終われば、学校祭のすべてのプログラムが終わり。
1日の振替休日を挟んで、また日常に逆戻りだ。
学祭の最後の花火を、まさか宮田と見るとは思わなかった。
ふと隣に目を向けてみると、宮田もまた同じタイミングで奈々の方に目を向けていた。
花火の音は畳み掛けるように鳴り響き、まばゆい光が二人の横顔を照らす。
ハッと我に返った奈々が、気恥ずかしさから目線をそらすと、宮田は手を伸ばして、奈々の頭をポンポンと撫でるように叩いた。
「まぁ、頑張ったじゃん」
宮田の意外な言葉に、奈々は思わず顔を上げる。
キョトンと大きく目を見開いて固まる奈々に、宮田は柔らかい笑みを浮かべた。
あ、宮田って・・・こんな顔もするんだ。
いつも仏頂面のとっつきにくいクラスメイトが、今日はなんだかとても近くに感じられた。