ch.2 関係者曰くの話し
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
シンジュク中央病院
ここは元TDDのメンバー、神宮寺寂雷がいる病院。
診察の時間になり彼は部屋を開ける。
診察を請けに来る人は老人やサラリーマンなどさまざまである。
その中に真波兄妹も含まれる。
長年通っているのもあり、ほんの少し贔屓にしてもらっているらしい。
そんな真波兄妹について、神宮寺はこう言う。
良い子たちなんだけど、どこか危なげのある兄妹だね
と。
その理由として、病院を訪れる理由が挙げられる。
多くは風邪やインフルエンザといった症状なのだが、時折大きな怪我をしてくるときがあるという。
それも少し前までは、普通ではあり得ない頻度で。
その頃注意をしたからか、ある程度は落ち着いたものの、今でもやはりあるらしい。
神宮寺曰く、そういう時は決まって話を誤魔化すそうだ。
まあ、勘づいていることに彼らは気付いているだろうけどね
そう語る神宮寺はゆっくりと目蓋を閉じると、さて、と話を切り替えるのだった。
シンジュク某カフェ
流石は休日と言わんばかりに、カフェは家族連れやカップルで賑わっていた。
そんなカフェの奥の窓際の席に、男が二人。
あからさまにくたびれたサラリーマンらしき男と、その雰囲気に似合わないほどハイテンションな男だ。
久し振りに休日が被ったらしく、渋るサラリーマンを無理矢理連れ出したらしい。
キャピキャピと女子顔負けのテンションで話す彼、うんざりと言いながらどこか嬉しそうな親友が大好きというオーラが全開だ。
そんな彼らに真波兄妹について聞いてみる。
一度目を合わせるとこう言った。
良い子たち…だよな
イマドキ珍しいほどの良い子っすね
と。
一部筋では有名とはいえ、関わりがあるのは珍しい。
聞いてみると、まずサラリーマンの方が口を開いた。
一番最初は、本当に些細なことだったらしい。
ある時病院に行く途中、改札を抜けようとしたところで落とし物に気づいたそうだ。
落としたのは財布。
絶望に落とされたように呆然としていると、声をかけられた。
振り向くと、そこには自分の財布を持った青年が。
これ、落としませんでしたか?
慌てて礼と謝罪を繰り返すと、青年は声音と同じくらい柔らかく笑い、良かったと言った。
お財布ないと何も出来ないですよね。
そう再度笑うと青年は失礼します、とだけ告げてそのまま去って行ったという。
今思えば、とサラリーマン。
あの人、足引きずってたから…。凄く申し訳ない…
ネガティブ思考に陥っていきそうなサラリーマンに、明るい男はでも、と続ける。
相手が気にしてないなら、それでいーんじゃない?
明るく爽やかにキッパリと言い切る様は、見ていて好感も持てるだろう。
そういえば、と明るい男が言う。そして、自分にあったことを話し始めた。
それは今の仕事をし始めた頃のこと。
その日は雨だった。けれど、男は傘を持たず公園のベンチで項垂れていた。
仕事で大きな失敗をし、こっぴどく叱られてきた帰り。
言い返したい思いを堪えながら店を出たはいいものの、
煮詰まった頭で帰宅する気にもなれていなかったのだ。
何度か見知った女性が声をかけていたが、やや大袈裟に肩を揺らすだけで決して顔を見ずに礼を告げて帰ってもらっていた。
だんだんと強くなる雨に意識を向けていると、急に全身に当たる雨が止んだ。
風邪、ひいちゃいますよ。
始めて聞く声にほとんど反射的に顔を上げていた。
見知らぬ少女は、新品ですのでと言い、男に傘の柄を差し出す。
半ば困惑したまま男が傘を受け取ると、
少女は満足そうに笑ってちゃんとお風呂入ってくださいねとだけ言い残し、そこを去って行ったという。
そんときさぁ、と明るい男。
あの子、柄の上の方持ってたんだよねぇ…。
気付きにくいちょっとした心遣い。
それがあの時どれだけ嬉しかったかは、本人にしか分からない。
明るい男がサラリーマンを引っ張る。
会計を済ませた二人は、そのまま昼のシンジュクに消えて行った。