short(GS4)
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「はーーーーー」
12月も中頃に差し掛かり、本格的な冬が訪れた。空気が澄んでいて冷たく、玲太くんの大きな溜め息は真っ白になって消えていく。学校から一緒に通学路を歩いて、放課後時々おしゃべりをする場所へ寄り道していた。土手にふたり並んで座る。
夏場は日が落ちるのも遅かったので、ここに来るとついつい長話をしてしまっていたのだけど、冬になり暗くなるのも早いので、最近は少し短くなりつつある。
「玲太くん、どうしたの? そんな溜め息ついて」
「価値あるものはそれに相応しい評価を受けるべきだってのは分かってる。分かってるけど………」
「けど?」
「……おまえにつく悪い虫の数、俺の想像以上だった……」
「悪い虫?」
「さっきも追い払っただろ、隣のクラスの男」
そう言って唇を尖らせ、むすっとした表情でこちらを見る玲太くんは幼い頃の面影があってなんだかかわいい。私がふふっと笑うと、笑い事じゃないと言って、彼はもう一度むっとした表情を見せた。
今年の文化祭で私がローズクイーンに選ばれてからというもの、昼休みや放課後に男の子に呼び出されたり、想いを告げられたりすることが増えた。見知ったクラスメイトもいれば、話したこともなければどこのクラスかも分からない男の子に声をかけられることもあった。けれど結局のところゴシップのようなものだから、新しい話題が見つかればすぐにみんな忘れていくだろうとあまり気にしていなかった。
だけど、玲太くんがたまたまその場面に出会したことがあった。校門の前で私が知らない男子に声をかけられているところに、玲太くんが通りかかったのだ。「おまえ、こいつの何? 俺は幼馴染だけど?」と訳のわからないマウントを取った後、そのまま手を引っ張られて連れて行かれてしまったので、強制的に会話は終了した。
その後の帰り道ではだいたいおまえは隙だらけなんだから始まり、そこから私の家に着くまで気の遠くなるような長いお説教が始まり、それはそれは凄まじかった。
それからというもの、いつも以上に私のそばにいるようになった。学校へ行こうと家を出るとき、毎日玲太くんが家の前に立っている。
「おはよう」
「ねえ、毎日迎えにこなくても平気だよ?」
「迎えじゃなくてここは俺の通学路」
そっか、と聞き流してわざと先に歩こうとすると、絶対に隣を歩いてくるので、結局一緒に登校することになる。
休み時間もべったりと私の近くにいるので、教室に遊びにきてくれたみちるさんやひかるさんにも「ラブラブだね、マリィ!」といつも揶揄われてしまう。
帰りも玲太くんがバイトの日以外はだいたい家まで送ってくれる。バイトがある日は帰ったら家に着いたってメールしろ、明るい時間に絶対帰れと言って聞かなかった。
「もう子どもじゃないんだから過保護すぎるよ……」と言ったものの、玲太くんは「おまえが心配だから」の一点張りで、全く聞く耳を持たない。
そして今日の昼休みも隣のクラスの男の子に呼び出されたところを目撃され、玲太くんが私と彼の間に割って入って「こいつは俺と約束があるからダメ」と一蹴し、授業が終わった途端「一緒に帰ろう」と誘われ、そのままここまでやってきたのだった。
「俺はずーっと前からおまえがすごいこと知ってるのに……」
「うん、もう何百回も聞いたよ?」
「何回言っても足りない」
「でも、玲太くんだってすごいよ。勉強も得意だし、お祖父さんのお店の手伝いもして、シモンでバイトもしてる」
「まあ、おまえの横に並ぶんだから、それくらいできてないとな」
そう言う玲太くんの頬がほんのり赤いのは、きっとオレンジ色の夕焼けのせいじゃない。玲太くんの気持ちはもうずっと前から決まっているようで、そろそろ気づいていないフリをするのにも限界が近い。何もないのに毎朝迎えになんて来ないし、休み時間にずっと一緒にいたりなんてしないこと、さすがの私でも分かっている。
たぶん、きっとそうだ、と思うと、なんだかこっちまで恥ずかしくなってきて、自分の両手で私の気持ちが溢れ落ちないように、口元を覆った。ちらりと玲太くんのほうを見ると、黒い前髪から見える赤い瞳がこちらをじっと見つめていた。
「玲太くんは私のこと評価しすぎだよ」
「いいや、おまえがおまえの良さを分かってないんだ。おまえの良さを1番分かってるのは俺だから」
「……ふふ、ありがとう」
玲太くんは、以前デートの帰りの海辺で恋愛の話をした時に「おまえへ想いを伝える時、場所、全部決まってる」と言っていた。だから、玲太くんが話してくれるタイミングを待つのがいいのか、私から伝えたほうがいいのか、ここのところどうしたらいいのかずっと分からずにいる。
「それにしたって、いつまで悪い虫が寄ってくるんだろうな。いい加減諦めてほしい」
「そのうち終わるから大丈夫だよ。ごめんね、迷惑かけて」
「俺はおまえといるの全然迷惑なんて思ってない。迷惑なのは悪い虫たちのほう。はあ、本当困る」
玲太くんは私に近づくように座り直して、肩と肩が触れ合うくらいに距離を詰めた後、こつんと私の肩に頭を乗せた。
「! どうしたの?」
「なんでもありませーん」
なんでもないならこんなことしないよ、と笑ったら怒られそうだ。私のことを子ども扱いするけど、甘えてくる玲太くんは子どもみたいでかわいい。思わず触れたくなって、玲太くんの髪をそっと撫でた。
「……なんだよ急に」
「触りたくなったから、つい」
「………なあ、しばらくそのままがいい」
「わかった」
玲太くんは気持ち良さそうに目を瞑るので、言われるがままに頭を撫でていた。さらさらの髪に何度も触れていると、なんだか彼が犬みたいに見えてきた。私をいつでも守ってくれる大きな犬のような。外では強がってるけど、ふたりのときはたまにこうして甘えてくるのだ。
寒くて冷たい冬のはずなのに、私たちの間だけ、穏やかであたたかい春のような時間が流れている気がした。しばらくして、「もういいよ」と玲太くんが言ったので、撫でるのをおしまいにした。
「……どういたしまして。玲太くん甘えたさんだったね」
「充電だよ、充電」
「はいはい」
「な、冷えてきたからそろそろ帰ろう。手、貸せよ」
「うん」
私は彼の手を取った。冷たい。でも私の手も冷たいので一緒だ。
そして今日も結局何も解決してはいない。明日もまた玲太くんは私にべったりで、ひかるさんとみちるさんが私を揶揄いにきて、私は玲太くんから受け止めきれないくらいの愛をもらって、なんて返したらいいか分からないまま、一日が終わっていく。でもそんな何気ない日々が、一番愛おしかった。
20241221〜20241223 非公式玲マリwebオンリー「あの坂道で待ってる」展示作品
12月も中頃に差し掛かり、本格的な冬が訪れた。空気が澄んでいて冷たく、玲太くんの大きな溜め息は真っ白になって消えていく。学校から一緒に通学路を歩いて、放課後時々おしゃべりをする場所へ寄り道していた。土手にふたり並んで座る。
夏場は日が落ちるのも遅かったので、ここに来るとついつい長話をしてしまっていたのだけど、冬になり暗くなるのも早いので、最近は少し短くなりつつある。
「玲太くん、どうしたの? そんな溜め息ついて」
「価値あるものはそれに相応しい評価を受けるべきだってのは分かってる。分かってるけど………」
「けど?」
「……おまえにつく悪い虫の数、俺の想像以上だった……」
「悪い虫?」
「さっきも追い払っただろ、隣のクラスの男」
そう言って唇を尖らせ、むすっとした表情でこちらを見る玲太くんは幼い頃の面影があってなんだかかわいい。私がふふっと笑うと、笑い事じゃないと言って、彼はもう一度むっとした表情を見せた。
今年の文化祭で私がローズクイーンに選ばれてからというもの、昼休みや放課後に男の子に呼び出されたり、想いを告げられたりすることが増えた。見知ったクラスメイトもいれば、話したこともなければどこのクラスかも分からない男の子に声をかけられることもあった。けれど結局のところゴシップのようなものだから、新しい話題が見つかればすぐにみんな忘れていくだろうとあまり気にしていなかった。
だけど、玲太くんがたまたまその場面に出会したことがあった。校門の前で私が知らない男子に声をかけられているところに、玲太くんが通りかかったのだ。「おまえ、こいつの何? 俺は幼馴染だけど?」と訳のわからないマウントを取った後、そのまま手を引っ張られて連れて行かれてしまったので、強制的に会話は終了した。
その後の帰り道ではだいたいおまえは隙だらけなんだから始まり、そこから私の家に着くまで気の遠くなるような長いお説教が始まり、それはそれは凄まじかった。
それからというもの、いつも以上に私のそばにいるようになった。学校へ行こうと家を出るとき、毎日玲太くんが家の前に立っている。
「おはよう」
「ねえ、毎日迎えにこなくても平気だよ?」
「迎えじゃなくてここは俺の通学路」
そっか、と聞き流してわざと先に歩こうとすると、絶対に隣を歩いてくるので、結局一緒に登校することになる。
休み時間もべったりと私の近くにいるので、教室に遊びにきてくれたみちるさんやひかるさんにも「ラブラブだね、マリィ!」といつも揶揄われてしまう。
帰りも玲太くんがバイトの日以外はだいたい家まで送ってくれる。バイトがある日は帰ったら家に着いたってメールしろ、明るい時間に絶対帰れと言って聞かなかった。
「もう子どもじゃないんだから過保護すぎるよ……」と言ったものの、玲太くんは「おまえが心配だから」の一点張りで、全く聞く耳を持たない。
そして今日の昼休みも隣のクラスの男の子に呼び出されたところを目撃され、玲太くんが私と彼の間に割って入って「こいつは俺と約束があるからダメ」と一蹴し、授業が終わった途端「一緒に帰ろう」と誘われ、そのままここまでやってきたのだった。
「俺はずーっと前からおまえがすごいこと知ってるのに……」
「うん、もう何百回も聞いたよ?」
「何回言っても足りない」
「でも、玲太くんだってすごいよ。勉強も得意だし、お祖父さんのお店の手伝いもして、シモンでバイトもしてる」
「まあ、おまえの横に並ぶんだから、それくらいできてないとな」
そう言う玲太くんの頬がほんのり赤いのは、きっとオレンジ色の夕焼けのせいじゃない。玲太くんの気持ちはもうずっと前から決まっているようで、そろそろ気づいていないフリをするのにも限界が近い。何もないのに毎朝迎えになんて来ないし、休み時間にずっと一緒にいたりなんてしないこと、さすがの私でも分かっている。
たぶん、きっとそうだ、と思うと、なんだかこっちまで恥ずかしくなってきて、自分の両手で私の気持ちが溢れ落ちないように、口元を覆った。ちらりと玲太くんのほうを見ると、黒い前髪から見える赤い瞳がこちらをじっと見つめていた。
「玲太くんは私のこと評価しすぎだよ」
「いいや、おまえがおまえの良さを分かってないんだ。おまえの良さを1番分かってるのは俺だから」
「……ふふ、ありがとう」
玲太くんは、以前デートの帰りの海辺で恋愛の話をした時に「おまえへ想いを伝える時、場所、全部決まってる」と言っていた。だから、玲太くんが話してくれるタイミングを待つのがいいのか、私から伝えたほうがいいのか、ここのところどうしたらいいのかずっと分からずにいる。
「それにしたって、いつまで悪い虫が寄ってくるんだろうな。いい加減諦めてほしい」
「そのうち終わるから大丈夫だよ。ごめんね、迷惑かけて」
「俺はおまえといるの全然迷惑なんて思ってない。迷惑なのは悪い虫たちのほう。はあ、本当困る」
玲太くんは私に近づくように座り直して、肩と肩が触れ合うくらいに距離を詰めた後、こつんと私の肩に頭を乗せた。
「! どうしたの?」
「なんでもありませーん」
なんでもないならこんなことしないよ、と笑ったら怒られそうだ。私のことを子ども扱いするけど、甘えてくる玲太くんは子どもみたいでかわいい。思わず触れたくなって、玲太くんの髪をそっと撫でた。
「……なんだよ急に」
「触りたくなったから、つい」
「………なあ、しばらくそのままがいい」
「わかった」
玲太くんは気持ち良さそうに目を瞑るので、言われるがままに頭を撫でていた。さらさらの髪に何度も触れていると、なんだか彼が犬みたいに見えてきた。私をいつでも守ってくれる大きな犬のような。外では強がってるけど、ふたりのときはたまにこうして甘えてくるのだ。
寒くて冷たい冬のはずなのに、私たちの間だけ、穏やかであたたかい春のような時間が流れている気がした。しばらくして、「もういいよ」と玲太くんが言ったので、撫でるのをおしまいにした。
「……どういたしまして。玲太くん甘えたさんだったね」
「充電だよ、充電」
「はいはい」
「な、冷えてきたからそろそろ帰ろう。手、貸せよ」
「うん」
私は彼の手を取った。冷たい。でも私の手も冷たいので一緒だ。
そして今日も結局何も解決してはいない。明日もまた玲太くんは私にべったりで、ひかるさんとみちるさんが私を揶揄いにきて、私は玲太くんから受け止めきれないくらいの愛をもらって、なんて返したらいいか分からないまま、一日が終わっていく。でもそんな何気ない日々が、一番愛おしかった。
20241221〜20241223 非公式玲マリwebオンリー「あの坂道で待ってる」展示作品
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