short(GS4)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「美奈子」
「! 風真くん」
はば学に入学してから、毎日通った通学路。遠くに見えるのはオレンジ色の夕焼けと、きらきらした広い海。そして目の前にいる、はば学の制服を着て、私の名前を呼んだ風真くんは、いつものようにふわりと笑った。どうしてか分からないけど、今まで見てきたどんな風真くんよりも、かっこよく見えて、胸が高鳴った。
私たちは今日、はばたき学園を卒業した。3年間あっという間で、充実した毎日だった。この学校に入れて本当に良かった、と心から思う。
「風真くん」
私は彼の名前を呼んで、一歩ずつ近づいていく。視界が揺れてふにゃりと顔が歪んでいくのが自分でも分かって、湧き上がってくるのは言葉よりもぼろぼろと溢れる涙のほうだった。大粒で熱い涙が頬を伝う。風真くんを見ると、今度は心が切なくてずきずきと痛んだ。
でも、彼は私とは対照的に表情ひとつ変えることはなかった。さっきからずっと、ただ慈しむみたいに私を見ている。
「かざまくん、鐘の音、」
「とりあえず落ち着け。これで涙拭けよ」
風真くんは優しく微笑みながら、ハンカチを差し出してくれた。アイロンがびしっと綺麗にかけられている、オレンジ色のかざぐるまの柄のハンカチ。その柄はいつかの花火大会で手渡してくれたかざくるまと似ていて、私の持っているお気に入りのペンにも似ていた。
「使っていいの……? 汚しちゃう……」と震える声で聞くと、「いいに決まってるだろ」と彼が言ったので、その言葉に甘えて、そっと右手で受け取り自分の涙を拭った。ハンカチに涙が染み込んで、濃いオレンジ色に変わっていく。
「おまえ、幼稚園の時の泣き顔と一緒だな」
「もうそんな子どもじゃないよ……」
「いーや、まだまだ子どもだよ」
「風真くん、同い年なのにすぐ私のこと子ども扱いするんだから」
私がむっとした表情を見せても、風真くんは「泣いたり怒ったり忙しいな、おまえは」と笑ったままだった。彼はいつも私を子ども扱いしてくるし、だいぶ心配性なところがあるから、なんだかお母さんみたいと思ったのは一度や二度ではない。
「なんだか風真くんって、」
「"風真くんってお母さんみたい"なんて思ってるんじゃないだろうな」
「えっ……なんで……」
「おまえの考えてることなんてだいたい想像がつくよ。で、なんで泣いてたんだ?」
「そういえば……なんでだろう……」
風真くんに尋ねられて、改めて自分に問いかけてみると、さっきまで心の中にあったはずの何かは無くなっている。ずきずき、キリキリと痛んでいた気持ち。なんだったっけ? 私は何に対して涙を流していたんだろう?
「目にゴミでも入ったのかな……」
「おいおい、それにしちゃ泣きすぎだろ」
「分からない……でもなんか、風真くんのこと見たらすごく悲しくなって……」
すんすんと鼻を啜りながら話す私を見て、風真くんはなぜか嬉しそうにニヤつき始めた。
「へえ……。おまえにもそういう感情があるってことだな。まあ、結構いい線いってたと思うんだけどな」
「え?」
「なんでもありませーん。今日の帰りに喫茶店に行った時、全然そんな風じゃなかったのに。だんだん分かってきたってことか?」
「喫茶店……?」
喫茶店といえば、学校の近くにあるいつものところだ。放課後に風真くんとも行ったことがあるし、みちるさんやひかるさんとも。何度も放課後をそこで過ごしたので、高校生活の思い出の場所だけど、今日の帰り、という言葉にはぴんとこなかった。
私がきょとんとしていると、風真くんはえ、と口にした後、目を丸くしながら話を続けた。
「ここでばったり会って、喫茶店一緒に行ったろ? おまえ、卒業するのが寂しい……ってぐずぐず言いながら、しっかりスイーツ食べてたの、もう忘れたのかよ」
「スイーツ……?」
「喫茶店に行ったら、卒業式終わりのはば学生だらけで、みんな考えることは同じだね、さっきまでいた教室みたいって話してただろ」
当たり前のように風真くんはそう言うけれど、スイーツを食べた記憶も、そんな話をした記憶も、私にはなかった。一体、誰の話をしてるんだろう。
私が覚えているのは卒業式の後、この道を歩いていると、式にはいなかった風真くんが立っていた。「もう卒業式終わっちゃったよ!?」と言うと、「なら、俺は卒業しないでおくよ」と訳の分からないことを言ったのち、「これから二人で大反省会だ」となぜか喫茶店に連れて行ってくれたところまでだった。
その後の記憶は全くなくて、思い出そうとすると映像が途切れてザーッと砂嵐が映るみたいに、何も映し出されない。どうやって自宅まで帰ったかさえも不明だ。
「そうだったっけ……?」
「そうだよ。おまえ、それも忘れちゃったのかよ。ほんっとに忘れっぽいんだな」
「うーん………」
腑に落ちないけれど、風真くんは私に嘘を吐いたりしないので、たぶん、きっと、そうなんだろう。
風真くんとは3年間同じクラスだった。小学生ぶりに再会して、数えきれないくらいのいろんな思い出を作った。……あれっ、いろんな思い出って、なんだったっけ。修学旅行のとき、二人でこっそり長崎の美しい夜景を見たことは覚えている。たったそれだけ? いや、まさか。でも、他にもいろんなことがあったのに、そもそも高校で体験したこと、少しずつぼやけてはっきりとは思い出せない。
体育祭に参加した時、二人三脚に出たのは覚えてるけど、隣にいたのは誰だっけ? 恋愛に困った時、おしゃれに困った時、どんな時もいつも相談に乗ってくれていたのは? 学園演劇に出た時、一緒に主役をやってくれたのは? 担任の先生の名前は? さっきまであったジグソーパズルのピースが一つ一つどこかに吸い込まれて、なくなっていくみたいな感覚だった。
記憶を手繰り寄せるように思い出そうとして頭に浮かんだのは教会、鐘の音、風真くんと一緒に吹いた、かざぐるまのこと。
「あっ、かねのおと……」
「鐘の音?」
「あの教会の鐘の音、はば学にいた3年間の間に一緒に聞けなかったなって……」
「おまえになにか足りなかったんじゃないのか?」
「ええっ、それって私のせいなの? ……うーん、勉強とか運動とか?」
「まあ、それも一利ある。俺と同じ大学には行かないんだろ」
「風真くんほど賢くないよ」
「成績だけは平凡なんだな」
「もう」
風真くんの軽口がすごく心地よくて、涙はいつの間にか引っ込んでいた。ハンカチは洗って返そうと、ポケットにしまう。ところで次に風真くんに会えるのって、いつなんだろう。
「俺、どうして鐘の音が鳴らなかったのか、知ってる。……教えてやろうか」
「どうして?」
「おまえ自身の本当の願い事を、おまえが見つけられてないからだ」
「わたしの願い事……?」
「おまえ、子どもの頃、かざぐるまになんて祈ったんだ」
「………りょうたくんの願いが叶いますようにって」
「……はあ……。だからだよ。おまえ自身の願い事は、おまえが見つけなきゃならない。それで、大反省会なんだ」
びしっと言い放つ風真くんに、私のアンテナは何もキャッチしなかった。わたしのねがいごと。りょうたくんの願いが叶いますように、のままじゃダメなんだ。じゃあ私は一体何を、どう願えば良かったんだろう。
「あっ、なんにも分かってないな? うん、おまえにはやっぱり3年間をたんまり振り返ってもらう必要があるな」
「ごめん……」
「まあ、そういうところも含めておまえって感じだし、いいよ。俺が許す」
「ねえ、風真くん、なんか、頭がぼんやりしてきて、いろんなことがよく思い出せないの」
「……そろそろかもな」
さっきから一体風真くんが何を言ってるのか、私にはさっぱり分からなかった。何をどこからやり直せばいいんだろう。そしてその時、風真くんは一緒にいてくれるんだろうか。
「風真くん、あの、っ、え?」
私の言葉が風真くんに届くことはなかった。なぜなら風真くんが急にぐっと近づいてきて、あっという間に私の唇を彼の唇が奪ったからだ。ほんの一瞬の、短いキス。ちゅ、っと音を立てて、風真くんはすぐに私から離れた。だけど彼の前髪から覗く赤い瞳が、私を捉えて離さない。
「か、かざまくん? あの……」
「おまえ、キスするときは目瞑るの、知らないのか?」
「そ、そんなの知らないよ………ねえ、なんでキスしたの……?」
「美奈子があんまりにも困った顔してるから、ヒントってことで。ちゃんとした答えはおまえがほんとうの願い事を見つけてから、だな」
「もう。ずっと訳がわかんないよ……」
「とりあえず、おまえ自身の願い事を探せよ」
「わ、わかった……。だったら風真くんの本当の願い事も、ちゃんと教えてくれる?」
「もちろん」
「約束だからね。ねえ、風真くんにはまた会える?」
「おまえが望むなら何度でも。俺、あの坂道で待ってるから」
風真くんは目を細めて笑った。そういえば生まれてはじめてのキスだったけど、ちっとも嫌じゃなかった。ロマンチックでもなんでもなかったけど、風真くんとならいいって思った。もしかして、私、風真くんのことーーーーーー
耳に入ってきた目覚まし時計のアラームでゆっくりと目を開ける。最近引っ越してきて、少しずつ見慣れてきた自分の部屋の天井に、昔から使ってる勉強机。
なんだかおかしな夢を見ていたような気がする。ベッドから身体を起こし、視界に入ったのは新しい制服。今日から私ははばたき学園の1年生だ。素敵な出会いや楽しいことが、たくさんありますように。
そういえば、幼馴染の"りょうたくん"がイギリスから帰ってきてるという。懐かしいなあ、と思いを馳せながら、私は顔を洗うために自分のドアを開けた。
20241221〜20241223 非公式玲マリwebオンリー「あの坂道で待ってる」展示作品
「! 風真くん」
はば学に入学してから、毎日通った通学路。遠くに見えるのはオレンジ色の夕焼けと、きらきらした広い海。そして目の前にいる、はば学の制服を着て、私の名前を呼んだ風真くんは、いつものようにふわりと笑った。どうしてか分からないけど、今まで見てきたどんな風真くんよりも、かっこよく見えて、胸が高鳴った。
私たちは今日、はばたき学園を卒業した。3年間あっという間で、充実した毎日だった。この学校に入れて本当に良かった、と心から思う。
「風真くん」
私は彼の名前を呼んで、一歩ずつ近づいていく。視界が揺れてふにゃりと顔が歪んでいくのが自分でも分かって、湧き上がってくるのは言葉よりもぼろぼろと溢れる涙のほうだった。大粒で熱い涙が頬を伝う。風真くんを見ると、今度は心が切なくてずきずきと痛んだ。
でも、彼は私とは対照的に表情ひとつ変えることはなかった。さっきからずっと、ただ慈しむみたいに私を見ている。
「かざまくん、鐘の音、」
「とりあえず落ち着け。これで涙拭けよ」
風真くんは優しく微笑みながら、ハンカチを差し出してくれた。アイロンがびしっと綺麗にかけられている、オレンジ色のかざぐるまの柄のハンカチ。その柄はいつかの花火大会で手渡してくれたかざくるまと似ていて、私の持っているお気に入りのペンにも似ていた。
「使っていいの……? 汚しちゃう……」と震える声で聞くと、「いいに決まってるだろ」と彼が言ったので、その言葉に甘えて、そっと右手で受け取り自分の涙を拭った。ハンカチに涙が染み込んで、濃いオレンジ色に変わっていく。
「おまえ、幼稚園の時の泣き顔と一緒だな」
「もうそんな子どもじゃないよ……」
「いーや、まだまだ子どもだよ」
「風真くん、同い年なのにすぐ私のこと子ども扱いするんだから」
私がむっとした表情を見せても、風真くんは「泣いたり怒ったり忙しいな、おまえは」と笑ったままだった。彼はいつも私を子ども扱いしてくるし、だいぶ心配性なところがあるから、なんだかお母さんみたいと思ったのは一度や二度ではない。
「なんだか風真くんって、」
「"風真くんってお母さんみたい"なんて思ってるんじゃないだろうな」
「えっ……なんで……」
「おまえの考えてることなんてだいたい想像がつくよ。で、なんで泣いてたんだ?」
「そういえば……なんでだろう……」
風真くんに尋ねられて、改めて自分に問いかけてみると、さっきまで心の中にあったはずの何かは無くなっている。ずきずき、キリキリと痛んでいた気持ち。なんだったっけ? 私は何に対して涙を流していたんだろう?
「目にゴミでも入ったのかな……」
「おいおい、それにしちゃ泣きすぎだろ」
「分からない……でもなんか、風真くんのこと見たらすごく悲しくなって……」
すんすんと鼻を啜りながら話す私を見て、風真くんはなぜか嬉しそうにニヤつき始めた。
「へえ……。おまえにもそういう感情があるってことだな。まあ、結構いい線いってたと思うんだけどな」
「え?」
「なんでもありませーん。今日の帰りに喫茶店に行った時、全然そんな風じゃなかったのに。だんだん分かってきたってことか?」
「喫茶店……?」
喫茶店といえば、学校の近くにあるいつものところだ。放課後に風真くんとも行ったことがあるし、みちるさんやひかるさんとも。何度も放課後をそこで過ごしたので、高校生活の思い出の場所だけど、今日の帰り、という言葉にはぴんとこなかった。
私がきょとんとしていると、風真くんはえ、と口にした後、目を丸くしながら話を続けた。
「ここでばったり会って、喫茶店一緒に行ったろ? おまえ、卒業するのが寂しい……ってぐずぐず言いながら、しっかりスイーツ食べてたの、もう忘れたのかよ」
「スイーツ……?」
「喫茶店に行ったら、卒業式終わりのはば学生だらけで、みんな考えることは同じだね、さっきまでいた教室みたいって話してただろ」
当たり前のように風真くんはそう言うけれど、スイーツを食べた記憶も、そんな話をした記憶も、私にはなかった。一体、誰の話をしてるんだろう。
私が覚えているのは卒業式の後、この道を歩いていると、式にはいなかった風真くんが立っていた。「もう卒業式終わっちゃったよ!?」と言うと、「なら、俺は卒業しないでおくよ」と訳の分からないことを言ったのち、「これから二人で大反省会だ」となぜか喫茶店に連れて行ってくれたところまでだった。
その後の記憶は全くなくて、思い出そうとすると映像が途切れてザーッと砂嵐が映るみたいに、何も映し出されない。どうやって自宅まで帰ったかさえも不明だ。
「そうだったっけ……?」
「そうだよ。おまえ、それも忘れちゃったのかよ。ほんっとに忘れっぽいんだな」
「うーん………」
腑に落ちないけれど、風真くんは私に嘘を吐いたりしないので、たぶん、きっと、そうなんだろう。
風真くんとは3年間同じクラスだった。小学生ぶりに再会して、数えきれないくらいのいろんな思い出を作った。……あれっ、いろんな思い出って、なんだったっけ。修学旅行のとき、二人でこっそり長崎の美しい夜景を見たことは覚えている。たったそれだけ? いや、まさか。でも、他にもいろんなことがあったのに、そもそも高校で体験したこと、少しずつぼやけてはっきりとは思い出せない。
体育祭に参加した時、二人三脚に出たのは覚えてるけど、隣にいたのは誰だっけ? 恋愛に困った時、おしゃれに困った時、どんな時もいつも相談に乗ってくれていたのは? 学園演劇に出た時、一緒に主役をやってくれたのは? 担任の先生の名前は? さっきまであったジグソーパズルのピースが一つ一つどこかに吸い込まれて、なくなっていくみたいな感覚だった。
記憶を手繰り寄せるように思い出そうとして頭に浮かんだのは教会、鐘の音、風真くんと一緒に吹いた、かざぐるまのこと。
「あっ、かねのおと……」
「鐘の音?」
「あの教会の鐘の音、はば学にいた3年間の間に一緒に聞けなかったなって……」
「おまえになにか足りなかったんじゃないのか?」
「ええっ、それって私のせいなの? ……うーん、勉強とか運動とか?」
「まあ、それも一利ある。俺と同じ大学には行かないんだろ」
「風真くんほど賢くないよ」
「成績だけは平凡なんだな」
「もう」
風真くんの軽口がすごく心地よくて、涙はいつの間にか引っ込んでいた。ハンカチは洗って返そうと、ポケットにしまう。ところで次に風真くんに会えるのって、いつなんだろう。
「俺、どうして鐘の音が鳴らなかったのか、知ってる。……教えてやろうか」
「どうして?」
「おまえ自身の本当の願い事を、おまえが見つけられてないからだ」
「わたしの願い事……?」
「おまえ、子どもの頃、かざぐるまになんて祈ったんだ」
「………りょうたくんの願いが叶いますようにって」
「……はあ……。だからだよ。おまえ自身の願い事は、おまえが見つけなきゃならない。それで、大反省会なんだ」
びしっと言い放つ風真くんに、私のアンテナは何もキャッチしなかった。わたしのねがいごと。りょうたくんの願いが叶いますように、のままじゃダメなんだ。じゃあ私は一体何を、どう願えば良かったんだろう。
「あっ、なんにも分かってないな? うん、おまえにはやっぱり3年間をたんまり振り返ってもらう必要があるな」
「ごめん……」
「まあ、そういうところも含めておまえって感じだし、いいよ。俺が許す」
「ねえ、風真くん、なんか、頭がぼんやりしてきて、いろんなことがよく思い出せないの」
「……そろそろかもな」
さっきから一体風真くんが何を言ってるのか、私にはさっぱり分からなかった。何をどこからやり直せばいいんだろう。そしてその時、風真くんは一緒にいてくれるんだろうか。
「風真くん、あの、っ、え?」
私の言葉が風真くんに届くことはなかった。なぜなら風真くんが急にぐっと近づいてきて、あっという間に私の唇を彼の唇が奪ったからだ。ほんの一瞬の、短いキス。ちゅ、っと音を立てて、風真くんはすぐに私から離れた。だけど彼の前髪から覗く赤い瞳が、私を捉えて離さない。
「か、かざまくん? あの……」
「おまえ、キスするときは目瞑るの、知らないのか?」
「そ、そんなの知らないよ………ねえ、なんでキスしたの……?」
「美奈子があんまりにも困った顔してるから、ヒントってことで。ちゃんとした答えはおまえがほんとうの願い事を見つけてから、だな」
「もう。ずっと訳がわかんないよ……」
「とりあえず、おまえ自身の願い事を探せよ」
「わ、わかった……。だったら風真くんの本当の願い事も、ちゃんと教えてくれる?」
「もちろん」
「約束だからね。ねえ、風真くんにはまた会える?」
「おまえが望むなら何度でも。俺、あの坂道で待ってるから」
風真くんは目を細めて笑った。そういえば生まれてはじめてのキスだったけど、ちっとも嫌じゃなかった。ロマンチックでもなんでもなかったけど、風真くんとならいいって思った。もしかして、私、風真くんのことーーーーーー
耳に入ってきた目覚まし時計のアラームでゆっくりと目を開ける。最近引っ越してきて、少しずつ見慣れてきた自分の部屋の天井に、昔から使ってる勉強机。
なんだかおかしな夢を見ていたような気がする。ベッドから身体を起こし、視界に入ったのは新しい制服。今日から私ははばたき学園の1年生だ。素敵な出会いや楽しいことが、たくさんありますように。
そういえば、幼馴染の"りょうたくん"がイギリスから帰ってきてるという。懐かしいなあ、と思いを馳せながら、私は顔を洗うために自分のドアを開けた。
20241221〜20241223 非公式玲マリwebオンリー「あの坂道で待ってる」展示作品
3/3ページ