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15.宇宙のかけら(双眼鏡/おみやげ/ともだち)
夏休みが明け、2学期が始まった。下校するときに、偶然小波に会って「一緒に帰りませんか」と声をかけられた。今日は特に何の用事もなかったのでそうすることにして、2人で並んで帰り道を歩く。9月に入ってもまだ日差しが強い。蝉の鳴き声は聞こえなくなったものの、秋の訪れはまだ当分先なんだろうと思わせるような暑さだった。
「あっ!そういえば!」
他愛もない話をしながら歩いていたら、小波は突然その場に立ち止まった。何かを思い出したように鞄を開けて、なにやらごそごそと探し物を始めた。しばらく様子を伺っていると、お目当てのものを見つけたようで「はい!」と赤いギンガムチェックの小袋を俺に手渡した。
「これは?」
「設楽先輩にお土産を買ってきたんです。よかったらどうぞ」
「どこか旅行にでも行ってたのか?」
「はい、南のほうへ。よかったら今開けてみてもらえませんか?」
そういえば夏休み前に旅行に行く話を彼女から聞いていたような気もしつつ、言われるがまま袋の折り目に貼られているセロハンテープをそっと剥がし、中を開けてみる。入っていたのは手のひらサイズくらいの小さな瓶に、ストラップの紐がついたものだった。瓶の中には何か入っているんだろうと袋から出してみると、貝殻や黄色や白の星の形をしたものがたくさん入っていた。
「……星の砂?」
「そうです!旅行で行ったところ、星がたくさん見えて、双眼鏡で天体観測もしたんです」
へえ、と相槌を打ちながら、俺は手の中にある小瓶を眺めた。彼女が旅行先で俺のことを思い出してくれたことは素直に嬉しいけれど、きっと、俺だけに渡しているものではない。頭の中で彼女の想い人の姿がちらつく。
「これ、本当に俺がもらっていいのか?」
「はい!それは設楽先輩の分なので!」
「……あいつには何か買ったのか?」
あいつ、というのは彼女が想いを寄せるひとのことを指す。なんで俺がこんなことまで気を配らなきゃならないんだと思いつつも、確かめずにはいられなかった。
「それは別のものをちゃんとばっちり用意したので、大丈夫です」
「……そうか、じゃあこれはもらっておく。ありがとう」
ずきん、と心の痛む音がした。俺は星の砂をもう一度袋の中に戻し、セロハンテープを元通りに貼り直し、鞄の中に入れた。小波に告げたありがとうの声が震えていなかったか、少し不安になった。
分かっていることを尋ねて、予想通りの答えが返ってきているのに、勝手に傷ついている自分がいる。俺だけに渡してくれてたらいいのにという、淡い気持ちがたぶんどこかにあったんだと分かった。友達だからくれたのであって、特別な意味はないのだろう。
小波はまた帰り道を歩き始め、俺も横並びになって歩いていく。この話はもうしたくなかったけれど、かと言って他の話題も思いつかなかった。
「設楽先輩、ところで流れ星の仕組みって知ってますか?」
「知らない」
「旅行中に見たんです、流れ星。それでどうやって見られるのか知りたくて、調べました」
「ふうん、それでどういう仕組みなんだ?」
「小さな星屑が地球に落ちてくるんです」
唐突に流れ星の話を始めた彼女は仕組みについてああだこうだと説明し始めて、急に授業でも始まったかのようだった。しかも話が長くて途中からよく分からなくなったが、要は彗星のちりが大気の成分と混ざり合って光を放つ現象が流れ星らしい。
「だからお土産売り場で星の砂を見た時に、設楽先輩に渡そうって閃いたんです」
流れ星と星の砂。どんな関係があるのか話の流れがあまり見えてこないが、ひとまず相槌を打ちながら聞いていた。
「設楽先輩は、私の悩み事をよく聞いてくれるじゃないですか。でもいつも聞いてもらってばっかりで……」
「まあ、話聞かせろって言ったのは俺の方だからそれはいいんだ」
「だけど私も何か先輩の力になれることがあったらいいなって。流れ星を持ってくるのはできないから星屑にしよう、先輩のお願い事を叶えてくれますようにって」
小波はいいアイディアでしょと言わんばかりの、きらきらとした眩しい笑顔を俺に向けた。大きくて迷いのない瞳が俺を映していて、きっと彼女の言葉は間違いなく本心なんだろう。そうやって俺だけを見ていてくれればいいのにと、俺は小波が好きなんだと思い知らされる。
「流れ星を見たからと言って願いが叶うわけでもないし、だいたいおまえがくれたのは星屑じゃなくて砂だけどな」
俺はなんとか平静を装いながら答えた。彼女が適当に買ったわけではなくて、俺のことを思って選んでくれたことが嬉しい。だけどそれを口にすることはできなかった。欲しいのは、流れ星でも星屑でもなくておまえだって、告げてしまいそうになるから。
「それでもいいんです。設楽先輩、いつもありがとうございます!私が先輩の力になれることがあれば、いつでも言ってくださいね!」
おまえの存在そのものが俺にとっては、夜空に浮かぶ月のようかもしれない。遠くて手を伸ばしても届かなくて、だけどいつもそこにいて、俺を照らしている。
20240728
ユニバース(設楽) 続きのお話はこちら
夏休みが明け、2学期が始まった。下校するときに、偶然小波に会って「一緒に帰りませんか」と声をかけられた。今日は特に何の用事もなかったのでそうすることにして、2人で並んで帰り道を歩く。9月に入ってもまだ日差しが強い。蝉の鳴き声は聞こえなくなったものの、秋の訪れはまだ当分先なんだろうと思わせるような暑さだった。
「あっ!そういえば!」
他愛もない話をしながら歩いていたら、小波は突然その場に立ち止まった。何かを思い出したように鞄を開けて、なにやらごそごそと探し物を始めた。しばらく様子を伺っていると、お目当てのものを見つけたようで「はい!」と赤いギンガムチェックの小袋を俺に手渡した。
「これは?」
「設楽先輩にお土産を買ってきたんです。よかったらどうぞ」
「どこか旅行にでも行ってたのか?」
「はい、南のほうへ。よかったら今開けてみてもらえませんか?」
そういえば夏休み前に旅行に行く話を彼女から聞いていたような気もしつつ、言われるがまま袋の折り目に貼られているセロハンテープをそっと剥がし、中を開けてみる。入っていたのは手のひらサイズくらいの小さな瓶に、ストラップの紐がついたものだった。瓶の中には何か入っているんだろうと袋から出してみると、貝殻や黄色や白の星の形をしたものがたくさん入っていた。
「……星の砂?」
「そうです!旅行で行ったところ、星がたくさん見えて、双眼鏡で天体観測もしたんです」
へえ、と相槌を打ちながら、俺は手の中にある小瓶を眺めた。彼女が旅行先で俺のことを思い出してくれたことは素直に嬉しいけれど、きっと、俺だけに渡しているものではない。頭の中で彼女の想い人の姿がちらつく。
「これ、本当に俺がもらっていいのか?」
「はい!それは設楽先輩の分なので!」
「……あいつには何か買ったのか?」
あいつ、というのは彼女が想いを寄せるひとのことを指す。なんで俺がこんなことまで気を配らなきゃならないんだと思いつつも、確かめずにはいられなかった。
「それは別のものをちゃんとばっちり用意したので、大丈夫です」
「……そうか、じゃあこれはもらっておく。ありがとう」
ずきん、と心の痛む音がした。俺は星の砂をもう一度袋の中に戻し、セロハンテープを元通りに貼り直し、鞄の中に入れた。小波に告げたありがとうの声が震えていなかったか、少し不安になった。
分かっていることを尋ねて、予想通りの答えが返ってきているのに、勝手に傷ついている自分がいる。俺だけに渡してくれてたらいいのにという、淡い気持ちがたぶんどこかにあったんだと分かった。友達だからくれたのであって、特別な意味はないのだろう。
小波はまた帰り道を歩き始め、俺も横並びになって歩いていく。この話はもうしたくなかったけれど、かと言って他の話題も思いつかなかった。
「設楽先輩、ところで流れ星の仕組みって知ってますか?」
「知らない」
「旅行中に見たんです、流れ星。それでどうやって見られるのか知りたくて、調べました」
「ふうん、それでどういう仕組みなんだ?」
「小さな星屑が地球に落ちてくるんです」
唐突に流れ星の話を始めた彼女は仕組みについてああだこうだと説明し始めて、急に授業でも始まったかのようだった。しかも話が長くて途中からよく分からなくなったが、要は彗星のちりが大気の成分と混ざり合って光を放つ現象が流れ星らしい。
「だからお土産売り場で星の砂を見た時に、設楽先輩に渡そうって閃いたんです」
流れ星と星の砂。どんな関係があるのか話の流れがあまり見えてこないが、ひとまず相槌を打ちながら聞いていた。
「設楽先輩は、私の悩み事をよく聞いてくれるじゃないですか。でもいつも聞いてもらってばっかりで……」
「まあ、話聞かせろって言ったのは俺の方だからそれはいいんだ」
「だけど私も何か先輩の力になれることがあったらいいなって。流れ星を持ってくるのはできないから星屑にしよう、先輩のお願い事を叶えてくれますようにって」
小波はいいアイディアでしょと言わんばかりの、きらきらとした眩しい笑顔を俺に向けた。大きくて迷いのない瞳が俺を映していて、きっと彼女の言葉は間違いなく本心なんだろう。そうやって俺だけを見ていてくれればいいのにと、俺は小波が好きなんだと思い知らされる。
「流れ星を見たからと言って願いが叶うわけでもないし、だいたいおまえがくれたのは星屑じゃなくて砂だけどな」
俺はなんとか平静を装いながら答えた。彼女が適当に買ったわけではなくて、俺のことを思って選んでくれたことが嬉しい。だけどそれを口にすることはできなかった。欲しいのは、流れ星でも星屑でもなくておまえだって、告げてしまいそうになるから。
「それでもいいんです。設楽先輩、いつもありがとうございます!私が先輩の力になれることがあれば、いつでも言ってくださいね!」
おまえの存在そのものが俺にとっては、夜空に浮かぶ月のようかもしれない。遠くて手を伸ばしても届かなくて、だけどいつもそこにいて、俺を照らしている。
20240728
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