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03.空色万華鏡(ラムネ/より道/じゃんけん)
「小波さん、本当にすごかったよ」
「ありがとうございます」
「おまえ、いつも俺の周りをちょこまかしてたのに、いつの間に勉強してたんだ?」
「毎日コツコツやってたんですよ」
2年の1学期の期末テストで念願の1位になれた。たまたま廊下に貼り出されている結果を設楽先輩と紺野先輩にも見てもらうことができた。先輩たちはその場でおめでとうと言ってくれて、それもすごく嬉しかった。
その日の放課後、簡素だけどお祝いでもしようかと先輩たちが一緒に帰ろうと誘ってくれた。
海が見えるガードレールのそばを、3人で歩いて帰る。梅雨明けの夏本番の暑さがやってきていて、夕方になってもなかなか涼しくならないし、日が落ちるのも随分ゆっくりになった。設楽先輩はひたすら暑い……と呟きながら、のろのろと歩いていた。
「設楽先輩、がんばってください」
「おい、俺を年寄り扱いするな」
「はは、いつも車通学で歩いてないからたまに歩くと堪えるだろ」
「うるさい」
お前らと出かけるようになってから今までよりもよく歩くようになったんだぞ、なんて言うので、私と紺野先輩はまた笑っていた。そんな話をしながら、またしばらく歩いていると、赤い自販機が見えてきた。
「小波さん、ちょっとだけ寄り道しようか。お祝いのジュースでも奢るよ」
「ほんとですか?私サイダー飲みたいです」
「突然だな」
「夏といえば炭酸ですよ。暑いし、今飲んだらきっと美味しいです!」
「じゃあ設楽、勝負しよう。じゃんけんで負けたほうが奢るってことで」
「おまえが言い出したのにじゃんけんで決めるのかよ」
「いいじゃないか、最初はグーだぞ、設楽」
「それくらい知ってる!」
設楽先輩は少しむっとしながらも、紺野先輩の最初はグーの掛け声で、ふたりはじゃんけんを始めた。どっちが勝つんだろう、と行方を見守る。紺野先輩のじゃんけんぽん、の掛け声でふたりが出したのは、設楽先輩がパー、紺野先輩がチョキだった。
「紺野先輩の勝ちですね」
「紺野が言い出したのに俺が奢るのか……?」
「僕と設楽は同級生だからこうしないと平等にならないだろ」
「なんだよそれ」
設楽先輩は少し不服そうだったけど、まあ負けたからしょうがないな、と鞄から黒い財布を出した。どこかのブランド名が入っていて、高級そうなお財布だった。設楽先輩は財布の中身を確認した後、自販機をじっと見つめ、しばらくしてからこちらを見た。
「……悪い」
設楽先輩が申し訳なさそうな、少し気まずそうな様子でそう言った。私も紺野先輩もよくわからず、お金が足りないのかな、なんて呑気なことを思った。
「カードと一万円札しかない」
「えっ」
「この自販機、千円札しか使えなかった」
「設楽、なんでカードしか持ってないんだよ」
「うるさいな、お金なんか普段使わないだろ」
結局、じゃんけんに勝ったのは紺野先輩だったけど、設楽先輩のお財布には小銭が全く入っていなかったので、紺野先輩がジュースを奢ってくれることになった。小銭を入れて、サイダーのボタンをぴっと押すと、がらがらと音を立ててサイダーの缶が出てきた。はい、と紺野先輩が手渡してくれた缶はとても冷たかった。プルタブを開けると、ぷしゅっと炭酸の抜ける音がした。ごくりと一口飲む。炭酸のぱちぱちした感覚があっという間に口の中に広がっていった。
「おいしい、夏の味って感じです」
「僕もサイダーにしようかな、設楽もサイダーでいい?」
「俺は水がいい」
「設楽はいつも水だよなあ、たまには飲んでみなよ」
「……はあ、わかったわかった」
紺野先輩はまたお金を自販機に入れて、サイダーを2本買った。はい、と紺野先輩は設楽先輩に缶を手渡す。設楽先輩は渋々受け取って、サイダーを飲んでいた。
「甘い、というか痛いな」
「夏っぽくないですか?」
「うん、確かに。なんか夏っぽいかも」
紺野先輩もサイダーを一口飲んでそう言った。自分の持ってるサイダーと、紺野先輩と設楽先輩のサイダーを眺める。3人とも同じものを買って、同じように飲んで、こうやって一緒に過ごす。そんな時間がなんだかすごく尊く思えた。
「あのなあ、夏っぽいって言えばいいってもんじゃないんだぞ」
「だって、子どもの頃よく夏にラムネ飲んでましたよ。私にとっては夏の味です」
「瓶の?懐かしいなあ」
「お祭りのときとかによく飲んでました。あっ、そういえば今年もお祭りありますよね?私、先輩たちと行きたいです」
「じゃあ来月の花火大会、紺野と小波と俺の3人で行くか」
「いいね、そうしよう」
「じゃ、決まりだな」
「夏の遊び、3人でいっぱいしましょうね!」
20240715
「小波さん、本当にすごかったよ」
「ありがとうございます」
「おまえ、いつも俺の周りをちょこまかしてたのに、いつの間に勉強してたんだ?」
「毎日コツコツやってたんですよ」
2年の1学期の期末テストで念願の1位になれた。たまたま廊下に貼り出されている結果を設楽先輩と紺野先輩にも見てもらうことができた。先輩たちはその場でおめでとうと言ってくれて、それもすごく嬉しかった。
その日の放課後、簡素だけどお祝いでもしようかと先輩たちが一緒に帰ろうと誘ってくれた。
海が見えるガードレールのそばを、3人で歩いて帰る。梅雨明けの夏本番の暑さがやってきていて、夕方になってもなかなか涼しくならないし、日が落ちるのも随分ゆっくりになった。設楽先輩はひたすら暑い……と呟きながら、のろのろと歩いていた。
「設楽先輩、がんばってください」
「おい、俺を年寄り扱いするな」
「はは、いつも車通学で歩いてないからたまに歩くと堪えるだろ」
「うるさい」
お前らと出かけるようになってから今までよりもよく歩くようになったんだぞ、なんて言うので、私と紺野先輩はまた笑っていた。そんな話をしながら、またしばらく歩いていると、赤い自販機が見えてきた。
「小波さん、ちょっとだけ寄り道しようか。お祝いのジュースでも奢るよ」
「ほんとですか?私サイダー飲みたいです」
「突然だな」
「夏といえば炭酸ですよ。暑いし、今飲んだらきっと美味しいです!」
「じゃあ設楽、勝負しよう。じゃんけんで負けたほうが奢るってことで」
「おまえが言い出したのにじゃんけんで決めるのかよ」
「いいじゃないか、最初はグーだぞ、設楽」
「それくらい知ってる!」
設楽先輩は少しむっとしながらも、紺野先輩の最初はグーの掛け声で、ふたりはじゃんけんを始めた。どっちが勝つんだろう、と行方を見守る。紺野先輩のじゃんけんぽん、の掛け声でふたりが出したのは、設楽先輩がパー、紺野先輩がチョキだった。
「紺野先輩の勝ちですね」
「紺野が言い出したのに俺が奢るのか……?」
「僕と設楽は同級生だからこうしないと平等にならないだろ」
「なんだよそれ」
設楽先輩は少し不服そうだったけど、まあ負けたからしょうがないな、と鞄から黒い財布を出した。どこかのブランド名が入っていて、高級そうなお財布だった。設楽先輩は財布の中身を確認した後、自販機をじっと見つめ、しばらくしてからこちらを見た。
「……悪い」
設楽先輩が申し訳なさそうな、少し気まずそうな様子でそう言った。私も紺野先輩もよくわからず、お金が足りないのかな、なんて呑気なことを思った。
「カードと一万円札しかない」
「えっ」
「この自販機、千円札しか使えなかった」
「設楽、なんでカードしか持ってないんだよ」
「うるさいな、お金なんか普段使わないだろ」
結局、じゃんけんに勝ったのは紺野先輩だったけど、設楽先輩のお財布には小銭が全く入っていなかったので、紺野先輩がジュースを奢ってくれることになった。小銭を入れて、サイダーのボタンをぴっと押すと、がらがらと音を立ててサイダーの缶が出てきた。はい、と紺野先輩が手渡してくれた缶はとても冷たかった。プルタブを開けると、ぷしゅっと炭酸の抜ける音がした。ごくりと一口飲む。炭酸のぱちぱちした感覚があっという間に口の中に広がっていった。
「おいしい、夏の味って感じです」
「僕もサイダーにしようかな、設楽もサイダーでいい?」
「俺は水がいい」
「設楽はいつも水だよなあ、たまには飲んでみなよ」
「……はあ、わかったわかった」
紺野先輩はまたお金を自販機に入れて、サイダーを2本買った。はい、と紺野先輩は設楽先輩に缶を手渡す。設楽先輩は渋々受け取って、サイダーを飲んでいた。
「甘い、というか痛いな」
「夏っぽくないですか?」
「うん、確かに。なんか夏っぽいかも」
紺野先輩もサイダーを一口飲んでそう言った。自分の持ってるサイダーと、紺野先輩と設楽先輩のサイダーを眺める。3人とも同じものを買って、同じように飲んで、こうやって一緒に過ごす。そんな時間がなんだかすごく尊く思えた。
「あのなあ、夏っぽいって言えばいいってもんじゃないんだぞ」
「だって、子どもの頃よく夏にラムネ飲んでましたよ。私にとっては夏の味です」
「瓶の?懐かしいなあ」
「お祭りのときとかによく飲んでました。あっ、そういえば今年もお祭りありますよね?私、先輩たちと行きたいです」
「じゃあ来月の花火大会、紺野と小波と俺の3人で行くか」
「いいね、そうしよう」
「じゃ、決まりだな」
「夏の遊び、3人でいっぱいしましょうね!」
20240715
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