ときメモGSワンドロ・ワンライ
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全ては暑さのせい
暑い。とにかく暑い。例えでもなんでもなく、外に晒されている肌が突き刺すような痛みを感じるくらい、日差しが強すぎる。
「あの、さっきの俺の女ってなんですか」
そんな日の日曜日、美奈子と海に来た。ここに来たのは彼女が夏の遊びをしませんか、と俺を誘ってきたからだ。去年も一昨年も一緒に海を訪れている。彼女はここに来る途中、バイトでお金を貯めたので新しく水着を買ったんです、と嬉しそうに話していた。確かにいまの彼女は、去年と違うデザインの水着を着ている。
「なにが」
さっき彼女がよく分からない男に絡まれていて、思わず俺の女だと言ってしまったことを、彼女は言ってるんだろうけれど、俺は分かっていないフリをした。目の前にある美しい海に全て溶かしてしまいたいような気持ちだった。だいたい、暑すぎるから、適当に海水に触れたらさっさと海の家で過ごすほうがいい。
「聖司先輩、さっき私のこと俺の女だって言いました」
「だから、あれは忘れろって言っただろ」
「忘れられるわけないです」
「なんでだよ」
「なんでって……」
そう言って、ちらりと上目遣いで美奈子は俺を見た。なんだ、なにを言いたいんだ。俺は彼女の言いたいことがよく分からない。もしかして、俺が、自分の中でもまだはっきりしない、もしくはさせたくない想いのことを指しているのか。俺は美奈子と目を合わせられず、海の方向に目をやった。
「ほら、海に入るんだろ」
「聖司先輩、質問の答えになってないです」
「足くらいなら浸かってやってもいい」
ここで突っ立ってたって暑いだけだから、と俺は美奈子の手を引いて、海のほうへ歩き出した。すると美奈子は、あっ、そういうことだったんですね、と何かを閃いたように言った。どきりと身体のどこかが音を立てて、嫌な予感がしたので、聞きたくなかった。変に鋭いところがある彼女に、言い当てられそうで。
「俺の女ってもしかして、」
「っ、それ以上言うなよこんなところで」
「こんなところでってどういうことですか」
「こんなところではこんなところでだ!」
「ええ……」
戸惑っているような美奈子の言葉を無視して、手を引いたまま、俺はずんずんと海の方へ歩き続けた。こんなところで、俺の気持ちに名前をつけられて堪るか。それはもう少し待っていてほしいし、俺は俺できちんとけじめをつけたい。
「あの、使用人ってことですよね!?」
「は!?」
それなのに、美奈子は美奈子の答えを出してしまった。が、俺は彼女の発言により、ぴたりと歩みを止めた。砂に触れている足の裏が、立ち止まると余計に暑い。やっぱりサンダルを履いておけばよかったと後悔する。海に入るならサンダルが濡れるのが嫌だったから、さっき脱いだばかりだった。
「使用人ってどういうことだ」
「だって、俺の女って、俺の家族ってことでしょ」
どういう捉え方だよそれは、と言いたかったけれど、余計なことは言いたくないので黙っていた。美奈子は話を続けた。
「聖司先輩、私が1年の文化祭の時、うちで働けって言ってたし」
「そういう意味じゃ……」
「しかもパーティーにも呼んでいただいたことあるし」
「あ、あれは代理だ!!」
「私、卒業したら聖司先輩のおうちで働くのもありかなと思います。先輩のおうちの方、みなさん優しいし!私、体力仕事には自信があるので!」
ね、そういうことでしょう?と美奈子は、まるで数学の問題で正解が出せたときのような顔をしていた。確かに美奈子が運動が得意で、他人への気配りがそれなりにできることも知っている。美奈子の良さは分かってはいるが、返事に対してはあ、と今日一番の大きな溜め息をつくしかなかった。何一つ俺の言いたいこととは合ってない、と言ってやりたかったが、あまりの鈍さに呆れ返ってしまったし、そもそも暑すぎて言い返す元気もなかった。
むしろ、こんなに休日に何度もデートを繰り返しているのに、碌に意識もされてないってことか……?どういう気持ちで俺と過ごしてるんだ……?と若干のダメージを受けてしまった。何の返事もしない俺に、美奈子はかわいらしい顔で、そっと俺の顔を覗き込んだ。その大きなつぶらな目は、一体何を見ているんだろう。
「聖司先輩?」
「ああっ、もういい!!今日は帰る!!バカ!!」
「えっまだ海に入ってないのに!?海が嫌なんですか!?」
「そんなこと言ってない!」
「私、砂浜で貝殻拾って集めたかったです」
「小学生かおまえは!」
「だって、今日せっかく楽しみにしてたのに……」
「………」
「……わかった、頭を冷やそう一旦休憩だ」
「休憩も何も、まだなにもしてないじゃないですか」
「いいから、休憩だ」
そのまま行き先を変えて、海の家へ向かった。お腹空いたんですか?とか、頭を冷やそうって、かき氷食べるってことですか?と美奈子が話しかけていたが、全く耳に入ってこなかった。美奈子の楽しみにしてたのにな、の一言でいろんなことがどうでもよくなっている自分に気がつくが、全ては暑さのせいだ。美奈子と手をずっと繋いだままでいたことも、それに海の家に行くまで気がつかなかったことも、全ては暑さのせいだ。
20240713
お題:海
暑い。とにかく暑い。例えでもなんでもなく、外に晒されている肌が突き刺すような痛みを感じるくらい、日差しが強すぎる。
「あの、さっきの俺の女ってなんですか」
そんな日の日曜日、美奈子と海に来た。ここに来たのは彼女が夏の遊びをしませんか、と俺を誘ってきたからだ。去年も一昨年も一緒に海を訪れている。彼女はここに来る途中、バイトでお金を貯めたので新しく水着を買ったんです、と嬉しそうに話していた。確かにいまの彼女は、去年と違うデザインの水着を着ている。
「なにが」
さっき彼女がよく分からない男に絡まれていて、思わず俺の女だと言ってしまったことを、彼女は言ってるんだろうけれど、俺は分かっていないフリをした。目の前にある美しい海に全て溶かしてしまいたいような気持ちだった。だいたい、暑すぎるから、適当に海水に触れたらさっさと海の家で過ごすほうがいい。
「聖司先輩、さっき私のこと俺の女だって言いました」
「だから、あれは忘れろって言っただろ」
「忘れられるわけないです」
「なんでだよ」
「なんでって……」
そう言って、ちらりと上目遣いで美奈子は俺を見た。なんだ、なにを言いたいんだ。俺は彼女の言いたいことがよく分からない。もしかして、俺が、自分の中でもまだはっきりしない、もしくはさせたくない想いのことを指しているのか。俺は美奈子と目を合わせられず、海の方向に目をやった。
「ほら、海に入るんだろ」
「聖司先輩、質問の答えになってないです」
「足くらいなら浸かってやってもいい」
ここで突っ立ってたって暑いだけだから、と俺は美奈子の手を引いて、海のほうへ歩き出した。すると美奈子は、あっ、そういうことだったんですね、と何かを閃いたように言った。どきりと身体のどこかが音を立てて、嫌な予感がしたので、聞きたくなかった。変に鋭いところがある彼女に、言い当てられそうで。
「俺の女ってもしかして、」
「っ、それ以上言うなよこんなところで」
「こんなところでってどういうことですか」
「こんなところではこんなところでだ!」
「ええ……」
戸惑っているような美奈子の言葉を無視して、手を引いたまま、俺はずんずんと海の方へ歩き続けた。こんなところで、俺の気持ちに名前をつけられて堪るか。それはもう少し待っていてほしいし、俺は俺できちんとけじめをつけたい。
「あの、使用人ってことですよね!?」
「は!?」
それなのに、美奈子は美奈子の答えを出してしまった。が、俺は彼女の発言により、ぴたりと歩みを止めた。砂に触れている足の裏が、立ち止まると余計に暑い。やっぱりサンダルを履いておけばよかったと後悔する。海に入るならサンダルが濡れるのが嫌だったから、さっき脱いだばかりだった。
「使用人ってどういうことだ」
「だって、俺の女って、俺の家族ってことでしょ」
どういう捉え方だよそれは、と言いたかったけれど、余計なことは言いたくないので黙っていた。美奈子は話を続けた。
「聖司先輩、私が1年の文化祭の時、うちで働けって言ってたし」
「そういう意味じゃ……」
「しかもパーティーにも呼んでいただいたことあるし」
「あ、あれは代理だ!!」
「私、卒業したら聖司先輩のおうちで働くのもありかなと思います。先輩のおうちの方、みなさん優しいし!私、体力仕事には自信があるので!」
ね、そういうことでしょう?と美奈子は、まるで数学の問題で正解が出せたときのような顔をしていた。確かに美奈子が運動が得意で、他人への気配りがそれなりにできることも知っている。美奈子の良さは分かってはいるが、返事に対してはあ、と今日一番の大きな溜め息をつくしかなかった。何一つ俺の言いたいこととは合ってない、と言ってやりたかったが、あまりの鈍さに呆れ返ってしまったし、そもそも暑すぎて言い返す元気もなかった。
むしろ、こんなに休日に何度もデートを繰り返しているのに、碌に意識もされてないってことか……?どういう気持ちで俺と過ごしてるんだ……?と若干のダメージを受けてしまった。何の返事もしない俺に、美奈子はかわいらしい顔で、そっと俺の顔を覗き込んだ。その大きなつぶらな目は、一体何を見ているんだろう。
「聖司先輩?」
「ああっ、もういい!!今日は帰る!!バカ!!」
「えっまだ海に入ってないのに!?海が嫌なんですか!?」
「そんなこと言ってない!」
「私、砂浜で貝殻拾って集めたかったです」
「小学生かおまえは!」
「だって、今日せっかく楽しみにしてたのに……」
「………」
「……わかった、頭を冷やそう一旦休憩だ」
「休憩も何も、まだなにもしてないじゃないですか」
「いいから、休憩だ」
そのまま行き先を変えて、海の家へ向かった。お腹空いたんですか?とか、頭を冷やそうって、かき氷食べるってことですか?と美奈子が話しかけていたが、全く耳に入ってこなかった。美奈子の楽しみにしてたのにな、の一言でいろんなことがどうでもよくなっている自分に気がつくが、全ては暑さのせいだ。美奈子と手をずっと繋いだままでいたことも、それに海の家に行くまで気がつかなかったことも、全ては暑さのせいだ。
20240713
お題:海