ときメモGSワンドロ・ワンライ
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すごいピアノが弾けますように
部活が休みの日曜日、ひとりでショッピングモールに買い物に出かけた。もうすぐ夏本番という暑さを迎えつつあるので、夏用の新しい服とアクセサリーを買った。設楽先輩と出かける時に着ようかな、なんて考えながら歩いていたら、笹と短冊が飾られているコーナーを見つけた。近くのテーブルの上に短冊とペンが用意されていて、短冊にお願いごとを書いてね!と書かれたポップが貼られていた。そういえば明日は七夕で、お母さんが晩ごはんはみんなで流しそうめんでもしようか、なんて話していたっけ。
お願いごと、せっかくだし私も書いてみようと短冊を手に取った。赤、青、黄色、緑、オレンジ、紫、色とりどりの短冊が用意されていて、黄色の短冊に願いごとを書くことにした。やっぱり今は最後まで部活を頑張りたいから、もっとテニスが上手になりますように、と黒のペンで書いて、笹に結びつけた。七夕が明日に迫っていることもあり、笹には既にたくさんの短冊が吊るされていた。健康第一、宝くじが当たりますように、家族みんなが幸せに暮らせますように、など様々な願いが飾られていて、みんなの願いが少しでも叶えばいいな、なんてあたたかい気持ちになった。
そういえば、今年設楽先輩と行った初詣の時も、同じことを祈ったのを思い出した。あのときは先輩が私に何を願ったのか聞いてきたので、どうしてそんなことを聞くんだろう、と聞き返した。そしたら、私が願う様子があまりにも真剣だったからついうっかりおまえの願いが叶うよう願ってしまった、どうしてくれるんだよ、と先輩は少し頬を染めながら言っていた。
つまり、先輩はあの時、自分のお願い事をしていないのでは。
私はもう一度短冊が置かれているテーブルに戻り、藤色の短冊を手に取った。設楽先輩があの時、私のことを祈ってくれたのであれば、私がいま先輩のことを願いたくなった。早速私は短冊に先輩が、と書いたけれど、筆が止まってしまった。私は先輩があの初詣で今年一年何を祈りたかったのか、今は何を願っているかが分からなかった。先輩の望むものって、なんだろう。先輩は欲しいものは自分の努力で手に入れるだろうから、誰かにお願いなんてしないかもしれない。
「美奈子?」
「わっ!」
名前を呼ばれて後ろを振り返ると、そこには設楽先輩がいた。休日にこんなところでばったり会うなんて珍しいので、驚いた。
「お買い物ですか?」
「ああ。おまえは?」
「私も買い物です」
「なんだ、それだったら誘えばよかったな」
「設楽先輩の見立て、いつもばっちりですもんね」
以前、一緒にショッピングモールに来た時に、アクセサリーを選んでもらった。自分じゃ選ばないようなデザインだったけど、その時着ていた服に馴染んでいた。設楽先輩はセンスがいいんだなあと感心した。
「それ、何か書くのか?」
「えっ」
設楽先輩は私の隣に並んで、私がいま書こうとしている短冊をちらりと見た。しまった、見つかってしまった。しかも先輩の前で、先輩のことをお願いするって、すごく恥ずかしいことなのではと、急に心臓がばくばくし始めた。
「先輩が……?」
「あのっ、これは」
「……先輩って、誰だよ」
怪訝な顔をして設楽先輩は尋ねるので、なんて答えるのが正解なのか分からなかった。というか勝手に本人のことを祈るなんて、もしかしてあんまりよくないことだったのでは……と、だんだん短冊を書いたことを後悔し始めた。設楽先輩、そもそも私に祈ってほしかったかどうかなんて、分からないし。私は返事をすることができず、黙り込んでしまったが、先輩から目を逸らすこともできなかった。そんな私を見て、設楽先輩は申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「……悪い、立ち入った質問だったな」
「ち、違うんです!設楽先輩のことです!」
「……俺のこと?」
「先輩、初詣の時、私のこと祈ったって言ってたから……」
「そうだった、よく覚えてたな」
「だから、七夕は私が先輩のことを祈ろうと思ったんです」
「ふーん……」
「はい……」
設楽先輩の質問が悪いわけでは絶対にないので、誤解を解くべく、素直にそう話したものの、なんとなく気まずさに耐えられず、私は俯いてしまった。印象サイアクなんじゃないの、変なヤツって思われてたらどうしよう、とだんだん自信をなくしてしまい、設楽先輩の顔を見られなくなってしまった。
「なんて書くつもりだったんだ?」
「え?」
「俺のこと祈ってくれるんだろ?なんて書こうと思ってたんだ?」
そう言ってくれた設楽先輩の声は優しかった。私はそれにつられて、ぱっと顔を上げた。先輩は私を見て微笑んでいた。
「俺はあんまりこういうの思いつかないし、美奈子が書いてくれればいい」
「ほんとに?私が先輩のお願い事書くの、変じゃないですか?」
「おまえが変なのはいつものことだけど……でもそれは、変じゃない」
「よかったあ……」
私はほっ、と息をついた。設楽先輩の許可も得られたことだし、改めて先輩のことを願って、短冊の続きを書いた。それから、私が書いた自分の短冊の隣に吊るした。願いが叶いますように、と祈りながら。
***
「ぷっ、なんだよあの願い事……くく……」
「だからもう笑わないでくださいよ!」
短冊を書いた後、帰るんだったら家まで送ってやると、設楽先輩が車で私の家まで送ってくれることになった。車の中では私がさっき書いた短冊の話でもちきりで、設楽先輩の笑い声が車内に響いていた。
「おまえ、もうちょっと国語がんばったほうがいいぞ。小学生でももっとうまく書くだろ」
「うっ……」
「なんだよすごいピアノが弾けますようにって。抽象的すぎる」
「うう……」
「しかも俺にピアノがもっと上手になりますようになんて言ってくるやつ……おまえくらいしか……くく……やっぱり変なヤツだよ」
「でも設楽先輩の願い事としては間違ってないですよね!?」
「まあな、もっと技術を磨いて、上手くなってやるさ」
「じゃあ合ってるじゃないですか!」
「間違ってるとは言ってない、国語力の問題だ」
「く、悔しい……」
「だから、ちゃんと願いが叶うとこ、俺のそばで見てろよ」
20240706
お題:七夕
部活が休みの日曜日、ひとりでショッピングモールに買い物に出かけた。もうすぐ夏本番という暑さを迎えつつあるので、夏用の新しい服とアクセサリーを買った。設楽先輩と出かける時に着ようかな、なんて考えながら歩いていたら、笹と短冊が飾られているコーナーを見つけた。近くのテーブルの上に短冊とペンが用意されていて、短冊にお願いごとを書いてね!と書かれたポップが貼られていた。そういえば明日は七夕で、お母さんが晩ごはんはみんなで流しそうめんでもしようか、なんて話していたっけ。
お願いごと、せっかくだし私も書いてみようと短冊を手に取った。赤、青、黄色、緑、オレンジ、紫、色とりどりの短冊が用意されていて、黄色の短冊に願いごとを書くことにした。やっぱり今は最後まで部活を頑張りたいから、もっとテニスが上手になりますように、と黒のペンで書いて、笹に結びつけた。七夕が明日に迫っていることもあり、笹には既にたくさんの短冊が吊るされていた。健康第一、宝くじが当たりますように、家族みんなが幸せに暮らせますように、など様々な願いが飾られていて、みんなの願いが少しでも叶えばいいな、なんてあたたかい気持ちになった。
そういえば、今年設楽先輩と行った初詣の時も、同じことを祈ったのを思い出した。あのときは先輩が私に何を願ったのか聞いてきたので、どうしてそんなことを聞くんだろう、と聞き返した。そしたら、私が願う様子があまりにも真剣だったからついうっかりおまえの願いが叶うよう願ってしまった、どうしてくれるんだよ、と先輩は少し頬を染めながら言っていた。
つまり、先輩はあの時、自分のお願い事をしていないのでは。
私はもう一度短冊が置かれているテーブルに戻り、藤色の短冊を手に取った。設楽先輩があの時、私のことを祈ってくれたのであれば、私がいま先輩のことを願いたくなった。早速私は短冊に先輩が、と書いたけれど、筆が止まってしまった。私は先輩があの初詣で今年一年何を祈りたかったのか、今は何を願っているかが分からなかった。先輩の望むものって、なんだろう。先輩は欲しいものは自分の努力で手に入れるだろうから、誰かにお願いなんてしないかもしれない。
「美奈子?」
「わっ!」
名前を呼ばれて後ろを振り返ると、そこには設楽先輩がいた。休日にこんなところでばったり会うなんて珍しいので、驚いた。
「お買い物ですか?」
「ああ。おまえは?」
「私も買い物です」
「なんだ、それだったら誘えばよかったな」
「設楽先輩の見立て、いつもばっちりですもんね」
以前、一緒にショッピングモールに来た時に、アクセサリーを選んでもらった。自分じゃ選ばないようなデザインだったけど、その時着ていた服に馴染んでいた。設楽先輩はセンスがいいんだなあと感心した。
「それ、何か書くのか?」
「えっ」
設楽先輩は私の隣に並んで、私がいま書こうとしている短冊をちらりと見た。しまった、見つかってしまった。しかも先輩の前で、先輩のことをお願いするって、すごく恥ずかしいことなのではと、急に心臓がばくばくし始めた。
「先輩が……?」
「あのっ、これは」
「……先輩って、誰だよ」
怪訝な顔をして設楽先輩は尋ねるので、なんて答えるのが正解なのか分からなかった。というか勝手に本人のことを祈るなんて、もしかしてあんまりよくないことだったのでは……と、だんだん短冊を書いたことを後悔し始めた。設楽先輩、そもそも私に祈ってほしかったかどうかなんて、分からないし。私は返事をすることができず、黙り込んでしまったが、先輩から目を逸らすこともできなかった。そんな私を見て、設楽先輩は申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「……悪い、立ち入った質問だったな」
「ち、違うんです!設楽先輩のことです!」
「……俺のこと?」
「先輩、初詣の時、私のこと祈ったって言ってたから……」
「そうだった、よく覚えてたな」
「だから、七夕は私が先輩のことを祈ろうと思ったんです」
「ふーん……」
「はい……」
設楽先輩の質問が悪いわけでは絶対にないので、誤解を解くべく、素直にそう話したものの、なんとなく気まずさに耐えられず、私は俯いてしまった。印象サイアクなんじゃないの、変なヤツって思われてたらどうしよう、とだんだん自信をなくしてしまい、設楽先輩の顔を見られなくなってしまった。
「なんて書くつもりだったんだ?」
「え?」
「俺のこと祈ってくれるんだろ?なんて書こうと思ってたんだ?」
そう言ってくれた設楽先輩の声は優しかった。私はそれにつられて、ぱっと顔を上げた。先輩は私を見て微笑んでいた。
「俺はあんまりこういうの思いつかないし、美奈子が書いてくれればいい」
「ほんとに?私が先輩のお願い事書くの、変じゃないですか?」
「おまえが変なのはいつものことだけど……でもそれは、変じゃない」
「よかったあ……」
私はほっ、と息をついた。設楽先輩の許可も得られたことだし、改めて先輩のことを願って、短冊の続きを書いた。それから、私が書いた自分の短冊の隣に吊るした。願いが叶いますように、と祈りながら。
***
「ぷっ、なんだよあの願い事……くく……」
「だからもう笑わないでくださいよ!」
短冊を書いた後、帰るんだったら家まで送ってやると、設楽先輩が車で私の家まで送ってくれることになった。車の中では私がさっき書いた短冊の話でもちきりで、設楽先輩の笑い声が車内に響いていた。
「おまえ、もうちょっと国語がんばったほうがいいぞ。小学生でももっとうまく書くだろ」
「うっ……」
「なんだよすごいピアノが弾けますようにって。抽象的すぎる」
「うう……」
「しかも俺にピアノがもっと上手になりますようになんて言ってくるやつ……おまえくらいしか……くく……やっぱり変なヤツだよ」
「でも設楽先輩の願い事としては間違ってないですよね!?」
「まあな、もっと技術を磨いて、上手くなってやるさ」
「じゃあ合ってるじゃないですか!」
「間違ってるとは言ってない、国語力の問題だ」
「く、悔しい……」
「だから、ちゃんと願いが叶うとこ、俺のそばで見てろよ」
20240706
お題:七夕