ときメモGSワンドロ・ワンライ
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ともだち
学生時代、小波と紺野の3人でショッピングモールに出かけたことがあった。梅雨の時期で、湿気が多くじめじめした季節だった。外へ出かけて途中で急に雨に降られると面倒だから、屋内で過ごそうという話になり、ショッピングモールに行くことになった。
3人でモールの中を歩いていると、小波がわあ、と呟いて歩みを止めた。小波の声が遠くなったので、振り返ると、店の前で小波は目をきらきら輝かせていた。目線の先には真っ白なウエディングドレスが飾られていた。
「きれい……」
「小波さんも、こういうのに憧れる?」
「はい、私もいつか好きな人との結婚式で着てみたいです」
「はは、やっぱり女の子はみんな憧れるものなのかな」
「6月に結婚式を挙げると一生幸せな結婚生活を送れるっていいますよね!素敵だな〜」
「ジューンブライドって言うよね」
「へえ、紺野がそんなこと言うなんて珍しい」
「僕だってそれくらい知ってるよ。ヨーロッパから伝わるものなんだよね」
「ま、ヨーロッパでは雨の少ない時期だからそう言われてるけど、日本じゃ雨ばっかりだぞ。じめじめしてるし嫌な季節だ」
「こら、設楽。意地悪なこと言わない」
「なんだよ」
「ふふ、ごめんなさい、止まっちゃって。フードコートにでも行きましょう」
「そうだね、ちょうどお昼どきだし、混む前に行こう」
あの頃は、月に2回くらい小波と紺野の3人で休日を過ごしていた。この関係がずっと続くなんて思わなかったけど、穏やかで心地のいい時間だった。
教会で愛を誓い合う小波を見ながら、俺はぼんやりと昔のことを思い出していた。
今日は小波の結婚式と披露宴の日だ。小波とは高校を卒業しても連絡を取っていて、在学中と変わらず、ときどき紺野と3人で出かけたりしていた。俺がパリに留学へ行くことが決まったとき、2人は空港まで見送りに来たし、小波は一生の別れのようにわんわん泣いていた。
はば学を卒業して10年、小波が結婚することになりました、と報告の電話が来たのはちょうど1年前のことだ。俺はちょうどヨーロッパを転々としている時期で、わざわざ小波からメールが届いて「折り入ってお話ししたいことがあるので、電話が繋がるタイミングを教えてください」なんて書いてあったから、時差も考えずに慌てて電話をかけた。
「設楽先輩、私、結婚することになりました」
「おまえ、彼氏いたのか」
あれ、言ってませんでしたっけ、そうなんです、と小波はあっさりとした様子だった。けれど、色恋沙汰の話を小波から聞くことは全くなかったので、俺は正直驚いた。ずっと小波はあの頃の小波のままだと思い込んでいた。
「で、お願いがあって。設楽先輩、私の結婚式でピアノを弾いてくれませんか」
「いいけど……そもそも俺が日本にいるかわからないじゃないか」
「設楽先輩が日本にいるタイミングで結婚式の日取りを決めます」
「そんな決め方でいいのか、他にも優先させることがあるだろう」
「いえ、どうしても設楽先輩にピアノを弾いてほしいんです!」
「……しょうがないやつだな」
「ありがとうございます!」
こうして、俺の予定にある程度合わせた日取りで小波の結婚式が行われることになった。日本でのツアーが予定されていたから、その時期を指定したら、本当にそれに合わせた日取りに決まって、月の梅雨時の結婚式になった。小波は、本当は最初から最後までピアノを弾いてほしいんですけど、そんなの今の設楽先輩に頼んだら何十万かかるかわからないので、1曲だけにしました、と笑っていた。おまえのためならいくらでも弾いてやるのにという言葉は飲み込んだ。
「小波さん、綺麗だったね」
紺野がぽつりとそう呟いた。挙式が終わり、披露宴会場に移動するときのことだった。紺野と会うのも随分久しぶりだった。
「そうだな」
「なんか妹みたいな気持ちだったから、こう、なんて説明したらいいかわからないんだけど……」
「妹、な」
確かに妹みたいだったと言えばそうかもしれない。俺には兄弟がいないから想像でしかないが、俺の周りをよくちょろちょろしている、年下の女。そういうのを妹みたいと呼ぶんだろうか。紺野はそのまま話を続けた。
「設楽、3人で博物館に行ったの覚えてる?江戸時代の嫁入り道具を見たときのこと」
「ああ」
「小波さんに、なんて言ったか覚えてる?」
「もらい手を探す方が大変そうだな、みたいなことを言った気がする」
「そうそう、そんなこと言ってたのに、僕たちより先に結婚しちゃったよ」
「……そうだな、そんなことも、あったな」
たぶん、俺の中の小波のイメージは、この頃と少しも変わってなかった。だから、小波が結婚だなんて、想像もしなかったんだ。設楽 聖司様と書かれたテーブルに座る。紺野は隣の席に座り、はあ、とため息をついた。
「設楽、小波さんのこと好きだったんじゃないのか」
「……さあ、どうだろうな」
「よかったのか、これで」
「よかったもなにもないだろ」
「あ、設楽先輩!生徒会長!お久しぶりです!」
俺たちの会話を遮るように花椿と宇賀神が席にやってきた。そういえばここははば学出身者で固められているテーブルだった。花椿と宇賀神に最後に会ったのはいつだったかは覚えていない。俺と紺野はそれ以上その話をすることはなかった。
披露宴は滞りなく進み、もうすぐ俺がピアノを弾く番だった。小波は今まで見てきた中で一番しあわせそうな笑顔を見せていたし、どんな女性よりも世界で一番綺麗だ。
紺野の言葉が俺の中で反響し続けている。妹、好きな人。俺と小波の関係性を表すとすれば、なんて言えばよかったんだろう。後輩、同じ学校の出身。どれも今の自分にはしっくりこなかった。紺野の言う通り、もしかしたら、恋だったのかもしれない。だけど、名前で言い表せない形の、相手への思い方もある。お互いの環境が変わっても、別々の道を歩くことになったとしても、3人で一緒に過ごしてきた日々は消えないし、ずっと残り続ける。俺は、ずっとおまえの味方でいるから、絶対に幸せになってほしい。そういう気持ちを込めて、ピアノを奏でることにした。
20240622
お題:ジューンブライド
学生時代、小波と紺野の3人でショッピングモールに出かけたことがあった。梅雨の時期で、湿気が多くじめじめした季節だった。外へ出かけて途中で急に雨に降られると面倒だから、屋内で過ごそうという話になり、ショッピングモールに行くことになった。
3人でモールの中を歩いていると、小波がわあ、と呟いて歩みを止めた。小波の声が遠くなったので、振り返ると、店の前で小波は目をきらきら輝かせていた。目線の先には真っ白なウエディングドレスが飾られていた。
「きれい……」
「小波さんも、こういうのに憧れる?」
「はい、私もいつか好きな人との結婚式で着てみたいです」
「はは、やっぱり女の子はみんな憧れるものなのかな」
「6月に結婚式を挙げると一生幸せな結婚生活を送れるっていいますよね!素敵だな〜」
「ジューンブライドって言うよね」
「へえ、紺野がそんなこと言うなんて珍しい」
「僕だってそれくらい知ってるよ。ヨーロッパから伝わるものなんだよね」
「ま、ヨーロッパでは雨の少ない時期だからそう言われてるけど、日本じゃ雨ばっかりだぞ。じめじめしてるし嫌な季節だ」
「こら、設楽。意地悪なこと言わない」
「なんだよ」
「ふふ、ごめんなさい、止まっちゃって。フードコートにでも行きましょう」
「そうだね、ちょうどお昼どきだし、混む前に行こう」
あの頃は、月に2回くらい小波と紺野の3人で休日を過ごしていた。この関係がずっと続くなんて思わなかったけど、穏やかで心地のいい時間だった。
教会で愛を誓い合う小波を見ながら、俺はぼんやりと昔のことを思い出していた。
今日は小波の結婚式と披露宴の日だ。小波とは高校を卒業しても連絡を取っていて、在学中と変わらず、ときどき紺野と3人で出かけたりしていた。俺がパリに留学へ行くことが決まったとき、2人は空港まで見送りに来たし、小波は一生の別れのようにわんわん泣いていた。
はば学を卒業して10年、小波が結婚することになりました、と報告の電話が来たのはちょうど1年前のことだ。俺はちょうどヨーロッパを転々としている時期で、わざわざ小波からメールが届いて「折り入ってお話ししたいことがあるので、電話が繋がるタイミングを教えてください」なんて書いてあったから、時差も考えずに慌てて電話をかけた。
「設楽先輩、私、結婚することになりました」
「おまえ、彼氏いたのか」
あれ、言ってませんでしたっけ、そうなんです、と小波はあっさりとした様子だった。けれど、色恋沙汰の話を小波から聞くことは全くなかったので、俺は正直驚いた。ずっと小波はあの頃の小波のままだと思い込んでいた。
「で、お願いがあって。設楽先輩、私の結婚式でピアノを弾いてくれませんか」
「いいけど……そもそも俺が日本にいるかわからないじゃないか」
「設楽先輩が日本にいるタイミングで結婚式の日取りを決めます」
「そんな決め方でいいのか、他にも優先させることがあるだろう」
「いえ、どうしても設楽先輩にピアノを弾いてほしいんです!」
「……しょうがないやつだな」
「ありがとうございます!」
こうして、俺の予定にある程度合わせた日取りで小波の結婚式が行われることになった。日本でのツアーが予定されていたから、その時期を指定したら、本当にそれに合わせた日取りに決まって、月の梅雨時の結婚式になった。小波は、本当は最初から最後までピアノを弾いてほしいんですけど、そんなの今の設楽先輩に頼んだら何十万かかるかわからないので、1曲だけにしました、と笑っていた。おまえのためならいくらでも弾いてやるのにという言葉は飲み込んだ。
「小波さん、綺麗だったね」
紺野がぽつりとそう呟いた。挙式が終わり、披露宴会場に移動するときのことだった。紺野と会うのも随分久しぶりだった。
「そうだな」
「なんか妹みたいな気持ちだったから、こう、なんて説明したらいいかわからないんだけど……」
「妹、な」
確かに妹みたいだったと言えばそうかもしれない。俺には兄弟がいないから想像でしかないが、俺の周りをよくちょろちょろしている、年下の女。そういうのを妹みたいと呼ぶんだろうか。紺野はそのまま話を続けた。
「設楽、3人で博物館に行ったの覚えてる?江戸時代の嫁入り道具を見たときのこと」
「ああ」
「小波さんに、なんて言ったか覚えてる?」
「もらい手を探す方が大変そうだな、みたいなことを言った気がする」
「そうそう、そんなこと言ってたのに、僕たちより先に結婚しちゃったよ」
「……そうだな、そんなことも、あったな」
たぶん、俺の中の小波のイメージは、この頃と少しも変わってなかった。だから、小波が結婚だなんて、想像もしなかったんだ。設楽 聖司様と書かれたテーブルに座る。紺野は隣の席に座り、はあ、とため息をついた。
「設楽、小波さんのこと好きだったんじゃないのか」
「……さあ、どうだろうな」
「よかったのか、これで」
「よかったもなにもないだろ」
「あ、設楽先輩!生徒会長!お久しぶりです!」
俺たちの会話を遮るように花椿と宇賀神が席にやってきた。そういえばここははば学出身者で固められているテーブルだった。花椿と宇賀神に最後に会ったのはいつだったかは覚えていない。俺と紺野はそれ以上その話をすることはなかった。
披露宴は滞りなく進み、もうすぐ俺がピアノを弾く番だった。小波は今まで見てきた中で一番しあわせそうな笑顔を見せていたし、どんな女性よりも世界で一番綺麗だ。
紺野の言葉が俺の中で反響し続けている。妹、好きな人。俺と小波の関係性を表すとすれば、なんて言えばよかったんだろう。後輩、同じ学校の出身。どれも今の自分にはしっくりこなかった。紺野の言う通り、もしかしたら、恋だったのかもしれない。だけど、名前で言い表せない形の、相手への思い方もある。お互いの環境が変わっても、別々の道を歩くことになったとしても、3人で一緒に過ごしてきた日々は消えないし、ずっと残り続ける。俺は、ずっとおまえの味方でいるから、絶対に幸せになってほしい。そういう気持ちを込めて、ピアノを奏でることにした。
20240622
お題:ジューンブライド
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